更科灰音

第1話:プロローグ

ひるるるるるるる・・・すてん、ころころ・・・


「2度目は無様に落ちたりしないんだよ!」

どこからともなく落ちてきたぼろきれのようなものは、地面に激突する前に受け身を取る。

とはいえ、きれいに着地は出来ずに転がってしまったが。

「さてと、まさかの初めからやり直しなんだよ!」

ぼろきれをまとった真っ白な少女・・・いや、幼女?


「まずは現在地の確認。ここはコモンズの街の南門から続く街道わきの草原」

白い幼女はキョロキョロとあたりを見回す。そして壁を発見。

「間違いないね。このまま進むと門の前で轢かれそうになるんだよ・・・」

まだ荷馬車は見えない。

荷馬車を避けるだけでも前回とは違う流れになるだろう。

「コモンズの街は色々な出会いがあるのが分かってるからスルーだね、王都も同じ理由でダメなんだよ」

前回はコモンズの街が拠点だった。

「問題は街に入るのもギルドに登録するのもお金がかかるんだよ・・・」

どう見ても一文無し。持ち物は身にまとったぼろきれだけ。


「そして、コモンズの街以外で近くと言ったら湖の街のアラニスかな?」

アラニスの街までは馬車で半日。幼女の足で歩いていくとどれほどかかることか?

「うーん、あの川は湖に流れてるから、どんぶらこしたらたどり着かないかな?」

無茶苦茶なアイデアではある。

実現出来れば無事にたどり着けるだろう。

しかし、無事にたどり着けるはずがない。

川には魔物も住んでいる。船もない。そもそも泳げない。


「まずは持ち物の確認だね。ほぼごみの『偽神の衣』は売ることは出来ないし・・・」

幼女が身にまとっているのはぼろきれ。ぱっと見ではそれ以外の物には見えない。

「システムコール、コマンドリスト!」

幼女が不思議な呪文を唱えるが何も起こらない。

「やっぱりほとんどが使えないんだよ」

しかし、幼女は何もない空中を指さして頷いている。


「アイテムボックスは何か入ってないかな?」

幼女が虚空から何かを取り出す。堅パンだ。しかし、すぐに虚空へと消ええる。

次に粗末な貫頭衣を取り出しそれに着替える。

もともと身にまとっていたぼろきれはどこかへと消えた。

「現金がない・・・まあ、服が入ってただけましなんだよ・・・」

とぼとぼと街に向かって歩き始める。


しかし、門の方ではなく壁沿いに歩き続ける。

「お金がないと街に入れないからね。それにギルドの登録も出来ないんだよ」

南門から壁沿いに街の東側を進んでいく。

「左側は川で行き止まりだから、右側の壁沿いに歩いて北門に行こう」

もちろん、壁に穴が開いているわけもなく、どちらにしても不法侵入がバレれば捕まってしまう。


「あれ?東門があるんだよ?どういうこと?」

南門から街の東側の壁に沿って北上する。当然たどり着くのは東門で正しいはず。

「何でコモンズの街に東門があるの?また大昔なのかな?」

幼女は街に東門があることを不思議がっている。

「もしかしてコモンズの街じゃない?」

そして再び不思議な呪文を唱える。


「システムコール、エリアマップ!」

【チョコレート大陸】

【ザッハトルテ王国】

【コモンズの街近郊】


「場所は問題ないんだよ。だとすると時代が違う感じかな?」

虚空の1点を見つめて首をかしげる。

「システムコール、デイトタイム!」

【新暦1年ネズミの月1日】


「なるほど、日付も初期値に戻ってるんだよ・・・前回は新暦の867年だったから、相当昔だね」

今度はやはり虚空の1点を見つめながら納得している。

「リズが封印されたのが300年前くらいって言ってたし、ヒナギクさんはそのとき100歳くらいだったはずだから・・・」

何やらぶつぶつと独り言を言って考え込んでいる。

「魔王も邪神も襲ってくる前?誰も知ってる人が居ないってことなんだよ!」

幼女が不敵に笑う。

「ってことは何をやっても問題ないってことなんだよ!」

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