第15話 突然の訪問

「ん゙あぁー·····さむっ」


 まだ少し眠気を帯びている体を起こして伸びをする直人。

 スマホで時間を見てみればもう11時過ぎ。昨日夜更かしをしてしまったのが原因だ。


 重い体を動かしリビングへと向かう。

 キッチンで母親の春乃が昼の支度をしていた。


「おはよ」

「おはよじゃないわよ。いつまで寝てんの。ほら顔洗って着替えておいで」

「今日別に用事ないしずっとこのままでいいよ」

「お、安達おはよ」

「···?」


 リビングのソファーに千智が座っているように見える。

 寝ぼけているだけかと思い顔を洗面台で洗って戻ってくるとやはりそこには千智がいた。


「なんで····」

「なんで何よ」

「···なんでいるんですか?」

「遊ぶ約束したじゃん」


 確かに直人は陽、夏希、千智と冬休みの〆として遊ぶ約束をしていたがその予定も昼からの予定だ。

 何故か千智はムスッとしている。


「約束昼からだったよね?」

「11時なんてもうほぼ昼でしょ。いいから着替えてきたら?」

「わかったよ。後で色々聞くからな」




「母さん起こしてくれたっていいんじゃない?」

「起こしたわよ。千智ちゃんあんたが起きるまで洗濯物畳んだり洗い物したりいろいろ手伝ってくれてたのよ。はぁ····うちの事違ってなんていい子なんでしょ···ねぇ千智ちゃんうちの子になる?」

「は、ハハ···はい」

「ねぇ聞いた今!?はいって言ったわよ!」

「社交辞令だよ。真に受けないで」


 千智の方を見ると苦笑いをして春乃の勢いに圧倒されている。


「母さんがうるさいから俺の部屋行くぞ中村」

「あら女の子部屋に連れ込んで何する気なの直人」

「なんもしねぇよ。俺たち付き合ってる訳でもないし」

「あらそうなの?てっきり付き合ってるものと。じゃあ何最近髪セットする練習してるの、あれは誰か狙ってるの?」

「誰も狙ってない!ほら中村いくぞ」


 逃げるように千智の手を引き自分の部屋に入れる。

 何度か千智は直人の部屋に入ったことがあるので別に今更どうってことない。


 とりあえずクッションを渡して千智を適当なとこに座らせる。


「んで、なんでこんな早く来たんだよ」

「·····母と喧嘩した」

「また!?今回の原因は何で?」

「·····忘れた」

「はぁ···とりあえず飲み物かなんか取ってくるから待ってろ――」


 部屋から出ようと立ち上がろうとしたところで千智に袖を掴まれる。


「···何?」


 千智は直人の袖を掴んだままもう片方の手で地面をポンポンと叩く。

 直人は仕方なく千智が叩いた所から少しだけ離れた場所に座る


「·····」

「黙ってちゃ何も分からないんですけど」


 距離を取ったのに千智は直人に引っ付くかのように近づいてくる。


「···寒い」

「やっと喋ったと思ったらそれかよ。エアコン付ければいいのね?」

「手が冷たい」

「わがまま言うな」


 そう言いながら直人は千智の手を握る。


「何?これでいいわけ?」

「·····なんでそういうことできんのよ。キモイよ」

「キモイなら振りほどけよ。なにおまえ今日いつにも増してめんどくさい」

「めんどくさい女で悪かったわね」


 数秒ほど静寂が訪れる。長いようで短い静寂。


「····安達は付き合ってもない女の手とか握るわけ?」

「はぁ?お前が手が冷たいって言ったんだろ?散々手なんか握っといてなんだよ」

「あんだけ最初手握るの恥ずかしがってたくせに」

「もう初詣で慣れた」

「嘘つき。手汗すごい」


 パッと直人が手を離す。

 その手を逃さず捕まえる千智。顔を見れば不敵な笑みを浮かべている。


「あれれ安達くん顔真っ赤ですよー。女の子慣れしてない証拠ですねー」

「しょうがないだろ。仲良い女友達お前と瀬良さんしか居ないんだから。」


 千智がフッと笑ったかと思うと直人の手を離し背を向ける。


「安達、私ほんとは母と喧嘩してないんだー」

「は!?じゃあなにしに来たんだよ?」

「秘密」


 直人は必死に頭を動かすが一向に分からない様子だ。

 その姿を見て千智は笑みを浮かべている。


「安達マンガの続き読みたい」

「はあ、そこあるから勝手に取って勝手に読めばー」


 千智は本棚から漫画を何冊か取り床に置いたかと思えば、直人の脚の間に座り直人の体を背もたれにして漫画を読み始める。


「あのー中村さん?」

「うるさい。マンガに集中させて」

「こういうことするとさ、変に勘違いとかしちゃうからやめた方がいいと思うんですけど」

「·····」

「はぁ·····」


 春乃が呼びに来るまで2人はずっとこのままだった。

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友人キャラの俺らは主人公とヒロインを引っつけたいから恋人のふりをする。 雄牧 @26gi_

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