第11話 クリスマス2
しばらく歩きコンビニに着く。さすがに人目を気にして直人は手を離そうとするが千智がガッチリホールドして離さない。
千智の方を見るが千智は目を合わせようとしない。
飲み物やらちょっとしたお菓子をカゴに入れてレジに持っていくとようやく千智が口を開く。
「···肉まん食べたい」
「喋ったと思ったらそれかよ。あの、肉まん1つください」
会計を済ませコンビニを出る。
30代ほどのレジの店員が何か言いたげに視線を送っていたが、おそらく釣り合ってないだのなんでお前がという意味だろう。
そんなことは直人も重々承知である。
家に着いてから食べるのだろうと思っていた肉まんを千智が口いっぱいに頬張る。
冬の寒い日の肉まんはさぞ美味しいだろう。直人は少し羨ましく思って自分も買わなかったことを後悔する。
「何よ。ジロジロ見られると食べにくいんだけど」
「いや、美味しそうに食べるなと思って。俺も買っとけば良かった」
「ん」
千智が直人から視線を少し逸らし食べかけの肉まんをこちらに向ける。
「えーっとー」
「···1口ならあげる」
食にはがめつい千智が肉まんを差し出すという状況と関節キスになりかねない状況に困惑する。
「遠慮しときます」
「別に安達なら気にしないってば。それに恋人のふりするんだったらこれもできなきゃでしょ。2人に見せつけなきゃなんだから」
「そこまでやる必要あるんですか·····?」
「あるの!いいからほら食べる!」
どうにか逃げ道はないかと思考をめぐらせ模索する。
「あの、せめてちぎるとか」
「手塞がってる」
手を繋いでいるため片手はお互い塞がり、直人はレジ袋、千智は肉まんを持っているためどうしようもない。
「家着いてからじゃ」
「肉まん冷めちゃうでしょ。ほらもう諦めて食べる」
「うっ···わかったよ」
意を決して肉まんをまるで餌付けをされているかのように食べる。
口の中に肉まんの味が広がる。ただ、その肉まんはあんまんのように甘く感じた。
「どうお味は」
「まあ、ふつーだな」
「素直じゃないなー」
さっきまで恥じらっていたのはどこへやら、からかえるとなると通常運転に戻る千智。
一方直人は胸の高鳴りが一向に抑えられずいつもの自分に戻れそうもない。
いじられ続けているといつの間にか家に着く。
お互い手を離し、何事も無かったかのように家にはいり、まだ2人が眠っているかもしれないためそーっとリビングに向かう。
どうやら2人は既に起きていたようだが2人の間に気まづいような、しかし周りが見ていて心が温まるような空気が流れている。
「おやおやなんかありましたかお二人さん」
帰ってきた直人と千智を見るなり少し怒ったような表情を見せる陽と夏希。
「おいなんで起こしてくれないんだよ」
「いやだって2人とも気持ちよさそうに寝てたから、起こしたら可哀想かなって」
「いやお前が起こしてくれないから夏希に迷惑がかかったというか···その」
「べ、別に、迷惑ではなかったですよ·····」
「え、あ···そう、ですか····ならいいんだけど·····」
目が合って顔を紅潮させる陽と夏希。その2人をみて千智は満足気な表情を見せている。作戦は大成功と言ったところか。
「てかお前らはどこ行ってたんだよ」
「ちょっとコンビニに···」
一連のことを思い出し直人も顔を赤くする。
「なに顔赤くしてんの?」
「いや、別になんでも。それよりもう一本映画」
「そうそう!ほら見るよ」
再び同じ席順で座らせる千智。先程の陽と夏希を見て火がついたのか一定の距離を保とうとする2人を強引に座らせる。
「あの、次は寝ないようにするから」
「は、はい·····」
2本目は1本目よりはおもしろい思える出来だった。これなら眠らないだろうと安堵する陽と夏希。
しばらく見ているとソファーに下ろしていた手に暖かく柔らかいものが覆い被さる。
外に出ていた時の感触と同じものだったため直ぐに何か気づく。
千智の方を見ると人差し指を口に当てて静かにするように直人に促している。
困惑していると千智が小悪魔のような笑みを浮かべ口パクで「練習」とつぶやき再びテレビに視線を戻す。
それからの映画の内容は全く入って来なかった。ただ、主人公とヒロインが2人手を繋ぐシーンだけ脳裏に焼き付いていた。
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