第5話 改造計画
「お前今日楽しみにしとけよー?」
昼休み、学食で一緒に昼食を食べていた直人に悪戯を遂行しようとするような顔で陽が話しかける。今日は千智が言っていた日だが何をするか知らされていない直人1日はずっと身構えている。
「ほんとに何する気だよ」
「内緒」
「はいはいそうかよ」
「不貞腐れんなってば。こんどなんか甘いもん奢るからさ」
「それなら許そう」
直人は生粋の甘党のため一旦ここはそれで手を打っておいた。
学校が終わると陽が家から取ってくるものがあると言うので1度陽の家に寄ってから直人の家に向かう。
家から出てきた陽に何を取ってきたか聞くが何が入っているかは教えてくれなかった。
直人の家に着き飲み物を出し終わったところで千智がソファーに座る他の3人の前にテーブルをひとつ挟んで立つ。
「それでは第1回安達改造計画を始めます」
「·····は?」
どこから用意してきたのか『第1回安達改造計画』とデカデカと書かれた紙を取り出して千智が声高らかに宣言する。謎の文字の羅列に困惑する直人とは裏腹に陽と夏希は待ってましたと拍手しながら盛り上げる。
「なんだこのろくでもない計画。サイボーグにでもすんの?」
「説明しよう!安達改造計画とは安達をイケイケにする計画である!」
「わけわからんイケイケサイボーグ?陽詳しく」
「つまり千智が言いたいのは、この長い髪とか服装とかいじってお前に自信持ってもらおうってこと。形から入ればお前のちょっと暗い性格も変わるかなと」
「ほんとにそれだけか?」
「まぁちょっと気になるってのもありますよね」
やはり千智たちが楽しみたいだけかと少し呆れたようなため息をこぼす。
「ということで陽が持ってきたワックスをご用意しました。篠崎、安達抑えて」
「任せんしゃい」
「おいなんも承諾してないぞ」
「はいはい、いいからいいから」
陽は直人をソファーから移動させ食事用のテーブルにある椅子に座らせる。陽にがっしりと抑えられ抵抗できないと悟った直人は大人しくじっとする。
直人以外の3人は直人の髪を弄りながらあーでもないこーでもないと納得する形に仕上げていく。約10分ほど経っただろうか。ようやく皆が納得して開放される。
「おー」
「ありよりのありなんじゃない?はいほら鏡」
直人は千智から手鏡を渡され鏡に映る自分の姿を見る。
鏡に映るのはいつも見慣れた自分であったが、どことなく雰囲気が明るくなったような気がする。
「なんか懐かしさ感じるなこの直人。最近忘れてたけど意外と美少年だった記憶あるわ、うんうん」
「私ちょーすごくない?原石磨きうまいかもしれん。」
陽と千智に言われるが褒められている気がほとんどしない。
「その、安達さんかっこよくなりましたね」
2人とは違ってストレートに慈愛に満ちた笑顔で褒めてくれる夏希により優しさを感じる。他の男子ならイチコロだったろう。
「いっつもそうすればいいのに。なんでしないの?」
「目立ちたくない」
「俺らと一緒にいる時点でもう結構目立ってると思うけどな」
「それは慣れたからもういい。てかもういいだろ、解散解散」
「えー、もうちょっと楽しませてよ」
「いいから帰った帰った」
半ば強引に3人を帰らせようと玄関まで押し込む。「安達のケチ」だの「直人のわからず屋」など意味も欠けらも無い捨て台詞を吐いて帰っていく陽たちを軽くあしらって見送る。
3人が30メートルほど離れたところで玄関のドアを閉めようとした時「あっ忘れ物した!先行ってて!」と千智が叫んでいるのが聞こえて玄関を閉じるのを途中でやめる。
走っている足音が段々と近くなり玄関からひょっこりと千智が顔を出す。
「何忘れたんだ」
「んー、ちょっとね」
千智が後ろで組んでいた手を前に出し持っていたスマホのカメラをこちらに向ける。カシャリと音がして直人は呆気に取られる。
「じゃあね。バイバイ」
驚きで硬直している間に足早に去っていく千智を呼び止める暇はなく足音が段々と遠くなる。
スマホに着信が入りみてみると先程撮ったであろう直人の写真が千智から送られてきている。それに追加で『弱みGET★』の文字。
小悪魔のように笑う千智の表情が頭に浮かび、それと同時に嫌な予感と寒気が襲ってきた。
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