第五話
平野さんの家で受験勉強をするようになってわかったことがいくつかあるのだが、その一つに姉ちゃんが今まで彼氏を作らなかったのは理由があったという事がわかったのだ。
俺の姉ちゃんは誰がどう見ても静香さんの事を好きになっていたのだ。それはもちろん静香さんも気付いてはいるようなのだが、姉ちゃんの気持ちに応えることも無くただの友達として接してくれていたのだ。
「静香ちゃんと幸子さんって前よりも仲良くなってるみたいだけどさ、吉野君的にはそれってどう思うのかな?」
「別に仲が良いのは悪いことじゃないと思いますけど、あんまり深い関係になってほしくないなってのはありますね。二人が好き同士でそうなるんだったらいいと思いますけど、静香さんってそういうつもりないですよね」
「そうなんだよね。静香ちゃんって昔から女子の間で王子様扱いされることも多くて嫌になってるみたいでさ、一時期王子様キャラを捨てるために紙も伸ばしてみたりしてたんだけど、手入れが大変なのに気付いてすぐに髪を切っちゃったんだよね。今はその時よりも少し眺めで縛れる程度にはあるんだけどさ、あの短かった時の写真を見たら吉野君も驚くと思うよ」
「へえ、それって気になりますね。どこかに写真あったりしないんですか?」
「残念だけど私は持ってないんだ。静香ちゃんなら持ってるかもしれないけど、吉野君が見せてって言っても見せてはくれないと思うな。私にも見せてくれないくらいだからね」
「ますます気になりますよ。でも、今の姿から想像しても簡単に目に浮かぶのが凄いですよね。男装とかしても似合うと思うし、俺よりもカッコよくなっちゃうんじゃないですかね」
「それはあるかもね。でも、吉野君は静香ちゃんと違う感じでカッコいいと思うよ」
「ありがとうございます」
急に褒められた俺はなんだか気恥ずかしくなってしまいそっけない返事をしてしまったのだが、それを聞いた平野さんもなぜか恥ずかしいことを言ってしまったみたいな雰囲気になってしまった。お互いに何も悪いことはしていないはずなのに、顔を背けて目も合わせることが出来なくなってしまっていた。
俺は普通に勉強をして気を紛らわせることが出来るのでいいのだけれど、平野さんは何かをやろうにも勉強の邪魔をすることは無いだろうし、他の部屋に行くにしてもそこには姉ちゃんと静香さんがいるのでこの部屋から出ることも躊躇っているのだろう。その証拠にトイレに行きたい子供のように急にそわそわし始めてしまったのだ。
「吉野君は勉強でわからないところとかあるかな?」
「今のところは大丈夫ですね。忘れてることとかも問題を見たら思い出せてたりしてるんでいい感じです。この問題は分かりやすくていいと思いますよ」
「それは良かったよ。じゃあ、何か飲み物取ってくるね。紅茶とコーヒーだったらどっちが良いかな?」
「どっちもあんまり得意じゃないんですよね。なので、俺の分は無くても大丈夫ですよ。まだ飲み終わってないお茶があるんで」
「じゃあ、私の分だけ紅茶を淹れてこようかな。気が変わって飲んでみたくなったらいつでも言ってね。その時は美味しくなるように頑張るからね」
「俺は紅茶もコーヒーも甘いのしか飲んだことないんで紅茶の違いとか判らないかもしれないです」
「それだったらさ、吉野君の分には佐藤とミルクをいっぱい入れてあげるよ。それだったら飲めるんじゃないかな?」
「たぶん飲めると思いますけど、そこまでしてくれなくても大丈夫ですよ。それに、高そうな紅茶なのにミルクと混ぜちゃって大丈夫ですかね?」
「この紅茶を作った人からしたら面白くないかもしれないけどさ、私達には私達なりの楽しみ方があるって事だもんね。私はどちらかと言えば邪道的な楽しみ方しかしてないかもしれないし」
「紅茶にミルクとか砂糖をたくさん入れるのって、日本人に置き換えると寿司とかてんぷらを魔改造されたみたいな感覚になっちゃうんですかね。そういうのってあまり深く考えたことは無いんですけど、やられてる側からしたら迷惑な話だったりするのかもね。でも、美味しければそれでいいと思うんですけどね。抹茶味のお菓子があるくらいだからお茶が甘くても良いと思うんですけどね」
「その辺は感じ方ひとつで変わっちゃうからね。じゃあ、私は紅茶を淹れてくるけど、ベッドの近くにあるタンスの引き出しは開けちゃダメだからね。開けたら吉野君の事を軽蔑しちゃうかもしれないからね」
そう言われてしまうと気になってしまうものだ。さっきまでそこに箪笥があるという事も把握はしていないところがあったのだが、こうして改まって注意されるとその箪笥から目が離せなくなってしまっていた。
たぶん、引き出しを開けるとそこには下着が入ってると思うのだが、そこまで気にするものなのだろうか。これも俺にはわからない感覚なのでしょうがない。平野さんがどんな下着を身に付けているんか気になるところではあるのだが、それを確認してしまうと今日みたいな感じで勉強を教えてもらえることも無くなるんだろうな。
そう言いつつもほとんど平野さんに教えてもらわずに自力で解いていたところもあったのだ。人よりも記憶力の優れているという事もあってスラスラと問題を解くことが出来ていたのだ。
箪笥の事が凄く気になって仕方がないのだけれど、気になるという理由だけで引き出しを開けて確認するというのはリスクも高すぎると思う。というよりも、別に俺はそこまで下着を見たいなんて思わないのだ。
あえて言うのであれば、そんな下着を身に付けただけの平野さんを見てみたいなと思うのが正直なところである。
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