最終話
俺が買ってあげたハンディマッサージャーを大事そうに抱えている姿はプレゼントを買ってもらった子供のように見えるのだが、他の人が見たら別の意味にとらえられてしまいそうだ。
本来の目的であったマッサージチェアはまたの機会にするのだが、その頃には今よりも機能が充実したものが出ているはずなので良しとしよう。今はまだ時期が悪いだけなのだ。そういう事にしておけば納得も出来る。
「袋はいらないって思ったんですけど、なんで先輩は袋も買ったんですか?」
「いい大人なんだからさ、買ったものをそのまま持ち歩くのははしたないだろ。それに、これから買い物したいって言ってたし、そういうのを持ったまま他の店に入るのも変だと思わないか?」
「そうですね。そう言われてみたらそうかも。他の店で買ったものをそのまま持ち込むのってお店の人にも悪いですよね」
もちろんそういう意味もあるのだが、今回買ったものがあれなのでほとんどの人が見たら別の意味にとらえてしまうだろうという事を避ける意味でも袋は必要なのだ。許されるのならばラッピングもしてもらって見えないようにして欲しかったのだが、さすがにそこまで店員さんに頼むことは出来なかった。
「先輩ってお腹空いてたりします?」
「いや、まださっきのパンケーキが残っているような気がするんだよな。朝からあんなに食べたから胃がもたれてるのかもしれない」
「じゃあ、お昼はもう少し後にしましょうか。私もまだお腹空いてないですからね」
十枚近くパンケーキを食べてまだ二時間も過ぎていないのだからお腹が空くはずもないと思うのだが、あの感じだと俺が食べれると言えば一緒に食べてそうな気はしていた。
もちろん、食べるものにもよると思うのだが、焼肉とかハンバーグとかでも文句は言わなそうだ。
「ちょっとお手洗い行ってきてもいいですか?」
「ああ、俺もついでに行ってくるわ。そこのベンチで待ってるな」
「はい、なるべく待たせないようにしますね」
「気にしなくていいぞ」
女性のトイレがすぐ終わるとは思っていないけれど、俺が思っているよりも時間がかかっているようだった。化粧を直したり髪型を気にしたりしてるのかなとも思っていたのだが、一緒にいるのが俺なので気にしなくてもいいのにと思ったりもした。思ってはいたのだが、俺だからではなく他の誰かに見られても恥ずかしくないように身だしなみは整えるものかと考えたりもしたのだが、俺がそんな事を考えるくらい待たされたような気がしていた。
「すいません。お待たせしてしまいました。大学の後輩がいて少しお話してしまいました」
「別に気にしなくていいよ。倒れてたらどうしようって思ってたけど、そうじゃなかったなら大丈夫だし」
「あの、先輩ってこれがどういう事に使われているか知ってますか?」
そう言って俺に袋の中に入っているハンディマッサージャーを見せてきたのだが、俺は即答できずに一瞬だけ変な間を開けてしまった。その事でこいつも気付いてしまったようなのだが、顔を見ると遠くから見てもわかるくらい耳まで真っ赤になっていたのだ。
「やっぱり知ってたんですね。だからあそこで私を止めようとしてなんですよね。もう、恥ずかしいよ。あのお店にもうしばらく行けないじゃないですか」
「って事は、お前はそれを普通にマッサージ器だと認識してたって事だよな?」
「はい、後輩に自慢したら軽く引かれてまして、どうしてそんなに引いているのか聞いたら、そういう事に使うものだって教えてもらいました。その時は凄く恥ずかしい思いをしたんですけど、お店にいた時の先輩もそんな感じでしたよね」
「まあ、知らないんだろうなとは思ったけどさ、俺を困らせようとしてわざと知らない振りをしてるのかとも思ったからね」
「そんな事しないですよ。それならそうと言ってくれれば良かったのに」
「いや、そんなこと言えないでしょ」
俺達はお互いに何度も謝りながら真っすぐ駅の改札に向かっていった。
改札のすぐ近くにあるロッカーに今日買ったものをしまっておいて、俺達は他に欲しいものが無いか近くの店を巡ることにした。
アレはひとまず置いておいて、帰りにこいつがとりに行けばいいか。
「先輩、私が無知で恥ずかし思いをさせてごめんなさい」
「別に気にしなくていいって。でも、お前はアレを見た事なかったのか?」
「見た事なかったです。先輩は見たことあるんですか?」
「まあ、な。それなりには」
「そうなんですね。やっぱり先輩は大人ですね」
「そんな事ないんじゃないかな」
「それと、お前じゃなくて名前で呼んでくださいね。休みの日だけでもいいですから」
さっきとは違う照れくさそうな顔で俺にそう言いながら見つめてきたのだが、さっきとは違って頬は赤くなっているのに耳は赤くなっていなかった。
その笑顔は、会社で見る笑顔とも少し違っているように見えたのだった。
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