第44話 もうええわ

 死というモノが俺の中で軽薄になっている。

 俺は自分の死に対しても、人の死に対しても誠実じゃなくなっているような気がした。


 Bランクダンジョンに入って中ボスの幹部が強くて、俺と白石さんは一度だけ死ぬ。


 俺達を殺したのは、俺の家に1度だけ来たあの謎の男だった。

 彼のスキルは透明になることだった。


 今までのダンジョンと違って、Bランクダンジョンには中ボス部屋みたいなモノがあって、そこに足を踏み入れた時に俺は幹部に殺されてしまった。


 殺された時に、せっかく貯めた寿命が奪われると思っただけで、殺されることに関して恐怖は抱かなかった。

 もっといえば死ぬ間際まで敵の様子を観察しないといけない、っと思っていた。


 次にBランクダンジョンに入った時にペンキを持って来た。

 中ボス部屋に入った瞬間からペンキをぶち撒け、透明人間の居場所を探し出した。

 そして白石さんのサンダーでビリビリの攻撃。

 身動き出来ないように手足をグラビデで潰して、俺のスキルである1人部屋で男を監禁した。


 白石さんに男を見張ってもらって、俺は1人でダンジョンを出て家に帰った。


 男は目覚めた時に手足が潰れていた痛みで絶叫していたらしい。

 早く殺せ、と白石さんに懇願していたらしい。

 彼女は可哀想だからサンダーで何度も気絶させてあげたらしかった。


 家に辿り着いても山田家のダンジョンは営業中だったので、白石さんを1人部屋から出して、ゆっくりと晩御飯を食べて、食後にNetflixを見てダンジョンが使えるまで待った。


 山田家のダンジョンに入った時には、男は死んだカエルのような状態だった。


 意識が朦朧である。


 俺は彼を山田家のダンジョン内で撲殺する。殴り殺した感触とか気持ち悪くて吐き気がしていたはずなのに、普通になっている。普通ってなんやねん。

 バッテングセンターでボールを打つ。ダンジョンで人を撲殺する。同等だった。


 ダンジョンで殺した後に、裸で男が蘇る。

 俺は裸の彼の腕を掴んで、ダンジョンから降りた。そしてまた撲殺。


 男が俺に怯えるまで、それを繰り返した。


 俺を見て悲鳴を上げるようになった時に、俺は【命令】と書かれたキャップを被った。


「命令する」と俺は言った。

「ダンジョンの事は全て忘れて、一般社会で普通に働いて、普通に幸せになれ」


「はい」とか細い声で男が言った。


「幸せになれ、って入れたらアカンかった?」と俺は命令した後に白石さんに尋ねた。


 これは白石さんの親の仇なのだ。

 でも幹部は、ただのサラリーマンである。

 雇われているだけの人が、どれだけ悪いか俺にはわからない。

 でも俺は彼を何度も殺した。

 殺したことに対して申し訳なさみたいなモノがあって、せめて地獄を見せたのだから幸せになってほしい、と思ったのだ。


「別にかまへんよ。でも魔王は幸せにならんといてほしい」と彼女が言って、笑った。


 その笑顔が、ちょっと泣きそうだった。




 ちゃんと男からは情報も取っていた。

 ダンジョンの中にいる幹部は3人から5人である。

 サラリーマンだから休日が存在している。シフトで休みを回しているらしい。別の仕事をしてダンジョンにいない時もあるみたいだった。

 幹部は中ボスの部屋にいる。それに道中にも現れるらしい。



 ラスボスである魔王に辿り着くまでに4人の幹部を山田家で撲殺して、スキルを奪って一般社会で幸せになるように命令した。


 何度も家に帰っていたので、魔王に辿り着くまでに13日もかかった。途中で俺のスキルの都合で1日の休みをとった。


 それで俺達は魔王と戦って、1人部屋に監禁して山田家のダンジョンに連れて行って殺す。


 魔王はハゲた偏屈そうなオジサンだった。初めの1回はスキルを奪うために俺が殺した。

 魔王のスキルってなんやねん。キャップには【ダンジョン作り】と書かれていた。俺もダンジョンが作れるようになったんだろう。


 俺が魔王を殺した後に、白石さんは38回も魔王を殺した。

 サンダーで殺すのにも飽きると俺が小学生の時にリトルリーグで使っていた金属バットで殺す殺す殺す殺す。


 金属バットが飽きるとカッターや包丁を使った。


「もうええ。もうええわ」

 と白石さんは呟いた。

 怯えているだけのハゲ親父を殺すのに満足したんだろう。いや、満足した訳じゃなくて飽きたのかもしれない。


 ハゲ親父の寿命は大量に残っていた。

 山田家のダンジョンで殺しても1年分の寿命しか減らないのだ。


 俺は命令キャップを被った。

 命令することは2人で決めていた。


「命令する」と俺は言った。

「ダンジョンの運営を辞めて、売れるモノは全て売って、自分が持っている全ての資産を恵まれない子ども達に寄付しろ」



 これで白石さんの仇討ちは終わり。

 世界を変えることができない、ただBランクダンジョンを攻略するだけ、と思っていたけど、少しは世界を変えられたのかもしれない。



 元魔王が帰って行くと俺達はお風呂に入ってベッドに潜った。


「お母さんとお父さんに会いたいわ」

 と白石さんが言った。


 彼女を抱きたい、と思ったけど、さすがに疲れすぎて眠ってしまった。


 目覚めると白石さんがいなくなっていた。

 もしかして目的を果たしたから彼女が去ったんじゃないか、っと俺は思って動けなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る