第42話 海山のこれからの人生

 クソダンジョンの営業時間が終わるまで俺と白石さんはダンジョンに潜った。

 本来の俺達のスピードならCランクダンジョンを攻略するのに3日はかかった。

 だから途中で引き返して訓練のために戻った。

 凄いハードスケジュールで俺達は動いていた。

 

 おかげさまで俺のレベルも20になった。


 俺達も相当強くなったので、Cランクダンジョンのタイムランをする事になった。

 タイムランというのは時間を決めて、その時間内に攻略することである。


 姉の訓練が厳しいから逃げる口実を作ったわけでは無い。今の自分達の実力でどこまで行けるのか試してみたいのだ。

 30時間、というのが姉が決めた時間である。30時間以内に魔王を倒して帰って来なければいけなかった。


 白石さんはサンダーをバリバリと出して、俺はグラビデで魔物を倒しながら小走りでダンジョンを進んだ。


 休憩をする時はお腹が空いた時と魔力が無くなった時だけだった。


 俺の1人部屋には家具が増えていた。

 レベル15の時に出現したのは枕だった。

 枕は魔力回復の能力があった。1時間ぐらいあれば全回復するので、白石さんと抱きしめ合って使った。


 ちなみにレベル20の時に出現したのはシャワー室だった。全ての汚れを浄化する能力を持っている。カップラーメンを食べる時にはシャワーの水をポットで温めて使った。

 カップラーメンを食べて腸内の汚い物も浄化されているっぽい。体の調子がすこぶるいい。


 初めは何もなかった部屋がレベルが上がることで、どんどんとヤリ部屋っぽくなってきている。ヤリ部屋って、あれっすわ。アレをヤるためだけの部屋。

 別にしたいって訳じゃないよ。いや、したいんだけど、めっちゃくちゃしたいんだけど、でも俺は白石さんの目的が達成して、彼女が俺の元から去らなければ告白して、付き合って、そういう事をしようと思っている。


 タイムランなので俺達は急いでダンジョンを駆け上がった。建築物なので階段を登って行くタイプのダンジョンだった。


 幹部を2人倒して10階ほど来た時に、魔物を倒すために放った白石さんのサンダーが壁を破壊した。


 壁が壊れると電話ボックスぐらいのサイズの空洞があった。


 その空洞に怯えるように1匹の魔物が隠れていた。

 ハリーポッターで出てきた卑屈な魔物。名前は何だっけ? 奴隷として扱われていて、小さくて痩せこけている、あの魔物だと思った。だけど違った。


 ソイツは俺を見て、酷く怯えていた。


「海山か?」と俺は尋ねた。


「そんな訳ないやん」と白石さんが言った。


 でも目の前にいる生き物は海山が好んで着ていたジャージを着ている。側には海山が使っていた大剣が置かれている。

 

 背骨と首が曲がって小さく見えた。


 ロクな食事を何日も取っていないのか、顔が骨ばって人相が変わっていた。


 雑巾を絞った後のような姿だった。


 チラッとだけ、ソイツは俺の顔を見て、顔を手で隠した。


「ホンマや」と白石さんが驚いていた。


 逃亡してダンジョンに逃げ込んだのだろう。だけど力を失った海山がココまで来るのがやっとだったのだろう。


 俺は1人部屋の扉を出した。


「なにするん? もしかして、こんな奴を助けんの?」と白石さんが尋ねた。


 海山は顔を覆っていた手の隙間からコチラを物欲しそうに見ていた。

 目玉だけはギラギラだった。


 俺は1人部屋から黄色いキャップを取り出した。


 そしてグラビデのキャップを脱ぎ、命令と書かれたキャップを被った。


「命令する」と俺は言った。

 俺は海山を倒している。

 それに彼は俺に怯えていた。

 スキルの発動条件は揃っている。


「そのまま日の当たらない場所で誰も傷づけずに生きろ」

 と俺は言った。


「はい」

 とハエの羽音のような小さい声で海山が返事をした。


 俺はグラビデで壁を削り、また海山を隠してダンジョンを進んだ。


 もう海山は誰も殺さないだろう。

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