山田さん家のダンジョン作り
お小遣い月3万
第1話 ヒキニート
このまま10代をドブに捨てて、20代、30代を部屋で引きこもって過ごして行くんだろうと思っていたのに、部屋に引き込もったのは、たったの1週間だった。
異世界転生モノのアニメの序盤で主人公がヒキニートだったり、ドキュメンタリーでヒキニートをしてる人を見たことがある。
だけどアレは貴族だった。
親がヒキニートを養えるぐらいの収入があるのだ。
現実にヒキニートを決め込んだら飯は出て来ない。
買い込んだお菓子があったのは4日目までで、残りの3日間は絶食を余儀なくされた。
もちろん夜中に部屋を抜け出して、キッチンに食べ物を探しに行った。
だけど食べ物は家にはなかった。
まだまだ引きこもりルーキーだったので毎日シャワーも浴びていた。
「なんでアンタごときがシャワーを使っとんねん。残り湯を使え」
シャワーを使っていたらお風呂場の扉越しに母親にブチギレられた。
「それと学校に行かんのやったら、退学届け出しに行きなさい」と母が怒鳴った。
「学費も高いねんで。ウチにはお金の余裕が無いねん。退学届け出して、とっとと働きや。1億総生産って言葉を知ってるんか? 日本は赤ちゃんだって働かなアカンねんで。そんな国やで」
せめて赤ちゃんだけは働かなくていい国であってほしい。
頑張って1週間は引きこもりを続けた。引きこもりとは社会への抗議である。俺がいう社会とは何か? もちろん学校である。学校とは何なんだろうか? イジメたり、イジメられたり、つまらない人間関係を築くところでしかなかった。
友達をイジメから守ったら、イジメられて部屋に引きこもるのを決めた。俺が助けた友達は俺のイジメに参加した。
引きこもりは学校に対しての抗議だった。だけど学校を辞めて働け、と親からの強い要望があった。
何よりもお腹が空きすぎて引きこもりどころではなかった。
部屋を出たのは真っ昼間だった。
姉もいない。妹もいない。母もいない。
でも父がいた。
真っ昼間に仕事にも行かずに父がいた。
庭で何か作業をしていた。
お腹が空いていたので父親はスルーしてキッチンへ。
そして冷蔵庫を開けて調味料しかないことを確認する。
色んな棚を開けて、みかんを1つだけ見つけた。むしゃむしゃ。全然足りん。
水を飲む。コップに注がずに直接に蛇口から水を飲んだ。美味いわけがないけど結構な量の水を飲んだ。
父親のことが気になったので庭のガラス戸を開けた。
風が寒い。
父親は分厚い黒のジャンバーを着ていた。俺はパジャマのままである。
「オッさん何してんの?」
と俺は尋ねた。
父親のことを俺はオッさんと呼んでいた。
小学生の時はお父さん。中学になればオトン。そして高校になればオッさんになる。父親は出世魚みたいに俺の成長と共に名前が出世していくものだった。
「うわ、ビックリした」
体重100キロ近くある父親が庭に尻餅をついて驚いた。ちなみに父親は銀縁メガネをかけている。その風貌はアダルトビデオのキモオヤジだった。
「お前こそ、こんな昼間に何しとんねん? 学校は?」
と父親が尋ねた。
「オッさんこそ会社は?」
と俺が尋ねる。
「まぁええがな」と父親が答えた。
「それじゃあ俺もええやろう」
と俺が言う。
「せなや」とオッさんが言った。
「ほんで何してんの?」
と俺は改めて尋ねた。
「ダンジョン作ってんねん」
と父親が言った。
「はぁ?」
「だからダンジョン作ってんねん。お前ダンジョン知らんのか? 冒険者が行って寿命を奪われるところ」
とオッさんが言う。
「それぐらい知ってるわ。オッさんって魔王のスキル持ってたっけ?」
と俺は尋ねた。
ダンジョンマスターのことを魔王と呼ぶ。魔王のスキルがなければダンジョンは作れない。そして魔王のスキルを持つ者は何十万人に1人のレアスキルである。
「持ってたよ」
と平然とオッさんが言う。
「凄いな」と俺が言った。
「そりゃあな。お父さんは天才やからな。自然と神様に選ばれてしまうっていうか、そういうところあるやん」
何を言ってんねんコイツ、と思いながら俺は父親を見た。
「そんな貴重なスキルを持ちながら50代になるまで放置してたんかい」と俺が言う。
「才能ある人間は、自分の才能がわからんもんやねん」
と父親が言った。
なんか言い方がウザい。
「っで、ダンジョンは?」
と俺は庭を見渡した。
「ココ」
と父親が足元を指差す。
「潜るタイプのダンジョンか」
と俺は呟く。
「お前、時間あるか? ちょっと俺のダンジョン入ってくれへん?」
と父親が言った。
「ええけど」と俺が言う。
「入って感想聞かせてや」
とオッさんが言った。
「でも俺もダンジョンに入ったことないで」
と俺が言う。
「よくユーチューブでダンジョンの動画を見てるやんけ」
と父親が言った。
ダンジョンの動画は1つのコンテンツである。魔王は異世界から魔物を召喚したり、空間を召喚したりできる。地球に無い物がダンジョンにはあった。
俺もいつかは姉のように冒険者になるんだろう、と何となく思っていた。
「わかった」
と俺は父親の発言に
「ちょっと待ってな。2分後に入って来て」
そしてオッさんが先にダンジョンに降りて行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます