記憶に残、

杜若ぐるみ

第1話 始まり


 初夏の外はとても暑くて死んでしまいそうな、そんな天気だった。私は病院で彼と出会った。彼はまるで運命の人なのでは無いか、というほど心を惹かれる存在だった。どうして心が惹かれるのか分からないし、誰なのかも知らない。私は臆病者だから、彼の事が気になっても話すことが出来なかった。彼は既に看護師さんと話をしていて、私はじっと彼を見ていることしか出来なかった。 

 実はという所、どうして私は病院に居るのかが分からなかった。ここは何処なのか、今は何時なのだろうか。なぜか記憶が無くなっている、という事が分かるのは非常に気味が悪い。

 取り敢えずそこにいた看護師さんに記憶が無いことを伝えると、私が魅入っていた彼も記憶を無くしていたという。病院内に入るや否やあの看護師さんに駆け寄り、時間等を聞いていたらしい。

 彼がいる方をチラッと見たら、彼は熱心に看護師さんの話に頷いていた。私と話していた看護師さんは、二人には何か共通点があるのでは?なんて事を言っていたが、私には同じ境遇の人が居たことが既に共通点だ。 

 

 しばらく、看護師さんに話を聞かせてもらいながら、彼の事を横目でチラチラ見ていた。彼は話し終わったのか、看護師さんに丁寧にお辞儀をし、急いで外に出ていってしまった。チラッと見えた彼のお顔は、とても整っていて、優しげな雰囲気だった。だけど、一瞬見えた彼の目は輝いてはいなかった。

 記憶を無くしているからだろうか。不安で仕方なかったのだろうか。と、彼に対する気持ちが私を包んだ。同じ境遇の知らない人を放ってはおけなかった。

 私は、彼と話しをしていた看護師さんに、どんな話しをしていたのか聞くことにした。また、その看護師さんにも、自分が彼と同じということを教えた。そして、彼はやはり記憶を無くしていて、ここはどこなのか、今は何時なのか等を、詳しく教えてもらっていたらしい。そして彼は、自宅を思い出したらしく、急ぎで向かって行ったらしい。

 その看護師さんはどんな家なのか特徴を聞いたらしく、その家はとても大きいという。まるでお城の様なその家に一人で住んでいるらしい。私は彼が気になったので、特徴を頼りに行ってみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る