冬の5題小説マラソン

武藤勇城

お題1「マフラーと言えば」

 恥ずかしながら、自分は離婚者です。結婚を経験したのは30代。相手は10歳どころか、一回りも年下の女性でした。


 出会いはインターネット。お互いに顔も知らない相手と、色々な話をしました。最初はメールで。それから電話で。初めて「会おう」という話になるまで、それほどの時間はかからなかったと思います。「もしかして騙されている?」なんて不安に思ったりもしましたが、勇気を出して会いに行きました。

 それまで沢山の話をしていましたので、初対面という感じはしませんでした。食事をしながら、ドライブをしながら、まだ話題があるのかというぐらい、話をしたと思います。初対面のその日にホテルに行きました。「もしかしたら怖いお兄さんが来て、身ぐるみ剥がされるかも?」とも考えましたが、「その時はその時だ」と覚悟を決めて。まあ、そんな事件は起きませんでしたけどね。

 高速道路を利用しても車で2時間半。ドライブがてら、いつも下道を通って向かったので、実際には5時間ほどかかりました。仕事で始発の時間まで起きていて、そのまま一睡もせず車に乗り込み出発。途中で数時間の仮眠を取って、お昼過ぎに彼女と待ち合わせ。一日遊んで夕方に別れ、深夜0時を回るか回らないかに帰宅。そして翌日も朝から仕事。そんな遠距離恋愛の日々を、半年ほど過ごしたでしょうか。


 彼女がまるで家出のように、自分の元へやって来ました。「家に帰らなくて大丈夫?」「親に連絡しなくて平気?」と聞いても、「いいの!」と答えるだけでした。同棲生活。海や山、温泉、夏祭り、地元の名所、映画や娯楽施設。行った事がある場所、初めての場所。沢山遊びに行きました。そして結婚。

 ドラマや少女漫画のような恋愛に憧れていた彼女。

 離婚家庭に育ち、結婚願望の乏しかった自分。

 お互いの恋愛観、距離感には、少し隔たりがあったかも知れません。それでも年長の自分が彼女に合わせる形で、上手くやっていました。彼女が望むなら、何でも叶えてあげたいと思いました。

 映画のワンシーンのようなシチュエーションが好きな彼女は、タタタッと走り寄って抱き付いたり。手を繋いで歩いたり。手編みではありませんが、彼女がプレゼントしてくれた男物のロングマフラーを、二人で一つ、一緒に首に巻いたりするのが好きでした。


 結婚生活は6年ほどで幕を閉じました。冬の寒い日。クリスマスや年末年始。初詣。幸せな結婚生活を思い出す、マフラーのお話でした。

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