1週間でいいので、私と付き合っていただけませんか?
上村なみ
1日目①
「あの、一週間でいいので、私と付き合っていただけませんか?」
「へ?」
放課後の生徒会室。ミーティングが終わり、居残りの私と彼女のふたり。
「えっと、告白されちゃった!?」
「あ、いえ。すみま、せん。なんて言えばいいのか、分からなくてへ、へへんな言葉になってしまって。言い直します。い、一週間でいいので、私と、とと友だちになって、い、いただけません、か?」
何だこの子は。
この子、白丘華楓(しらおか かえで)ちゃんは前から生徒会で一緒で、今年からクラスも同じだ。
しっかりしてる子だなーと思ってたんだけど、その子がいきなり友だちになってくださいって……。
しかも一週間って何で!?というか、友だちになろうなんて言われるの小学生以来じゃない?
「え、いいけどなんで一週間?ずっと友だちでも良いじゃん!」
「あ、いえ。一週間でいいんです。それ以上は、大丈夫です。」
なんかこうやって言われると傷つく笑。なんでだめなんだろう。まあ、一週間でも仲良くなれるなら嬉しいし、いっか。
「まあ、それでいいなら全然いいよ!その先も仲良くしてくれると嬉しいけど!」
私がそう言うと、華楓ちゃんはふわふわとした笑顔を見せた。黒髪のロングヘア、前髪が長めな彼女の暖かい表情を、初めてしっかりと見た気がする。
「あ、ありがとうございます……!あの、私、帰りに友だちと寄り道をしてみたくて!いかがですか……?」
何だこの子、かわいい。寄り道したことないのかな。
「もちろんいいよ!行こ行こ!どこ行く?近くのショッピングセンターでも行く?それとも電車でどこかまで行く?」
なんだか嬉しくなって早口になってしまった。遊びに誘ってくれるのは本当に嬉しい。生徒会に入った当初は、というか今の今まで、華楓ちゃんと一緒にどこか行けるなんて思ってなかったから。仲良くなりたい!
「どこでも大丈夫です。」
「じゃあ、ショッピングセンター行こっか!色々あるし。あそこのカフェの新作出たらしいよ!キャラメルラテとか言ってたかな。あれ一緒に飲まない?」
華楓ちゃんはカフェとか行くのかな?でも、彼女が本を片手に紅茶とか飲んでるのはとても絵になりそう。
「そうなんですね。それじゃあそうしましょう。」
「うん!ていうか、なんで敬語?同じ学年だし、タメ口で全然いいよ!」
タメ口はずっと気になっていた。後輩にも、同級生にも、誰にでも敬語な彼女は、すごく丁寧な人なんだろうな。でも、やっぱり崩してくれた方が距離が近づく感じするし、タメ口で話してほしいな。
「あ、ありがとう…。でもすぐには難しいと思うから少しづつ、直していきます。」
少し恥ずかしそうにそう言う。なんだか新たな一面が見えて嬉しいな。
「うん!それじゃ、早くこの仕事終わらせて行こっか!早く終わらせよう!」
「うん。頑張ろう。」
今は次ある部長会の資料作りをしている。止めていた手を動かし、作業に戻った。生徒会に入ってもう2年目だけど、生徒会の仕事は思ったより大変だ。2人で集中して作業をし、早めに終わらせることができた。
「んんー!終わったぁー!お疲れ様!バカ疲れたぁ。」
「お疲れ様。疲れましたね。それじゃあ行きます、か?」
「うん!」
そうして生徒会室を後にした。彼女が嬉しそうだったので、私も嬉しくなった。
「華楓ちゃんは、あそこのショッピングセンターって行ったことあるの?」
「ない…。行く機会もなくて。行くと人がたくさんいるし、広いし。よく分からなくて。」
「そうなんだ。確かに広くてよく分かんないよね。私も最初来た時はほんとに分かんなくて、出口探すのに30分くらいかかったよ〜。」
こんなたわいもない会話をして、ショッピングセンターに向かう。学校から歩いて5分くらいで着くので、うちの学校の生徒がうじゃうじゃいる。
でも今日は学校終わってから作業しててちょっと時間経ってるから、そこまでいないんじゃないかな。
彼女は人混みとか苦手そうだし、丁度いいかも。
生徒会の先生の愚痴を言ったりしながら、ショッピングセンターまでの道を歩く。彼女は自分の話をほとんどしないけど、私が話していてるのに相槌を打ったり、たまに「私も……!」と言ってくれた。楽しそうにしているのでなによりだ。
「着いたね。じゃあカフェに向かおう!」
「うん。」
ショッピングセンターに入ると、それなりに人がいたが学校が終わってすぐよりは全然少なかった。混んでなくてよかった。
「カフェは、よく行くの?」
彼女が話しかけてきた。
「おいしそうな新作が出ると行くかな!でも新作っていつも美味しそうで……。結局新作が出る度に行ってる気がする。今回こそはお金ないしやめとこう!って思いはするんだけどね……笑」
「そうなんですね。そんなに美味しいなら楽しみ、だなぁ。」
結構有名なチェーン店だし、一回くらいは別の店舗で飲んだことあるかと思ったけど全くないみたい。
いいお家のお嬢様とかなのかな。だとしたら勝手に連れ回したりしてまずいかな!?
「あ、アレルギーとかない!?大丈夫!?」
「大丈夫。ありがとう。」
本当に行って大丈夫かなと思いつつ、でもこんなに楽しそうにしてるんだからいいか!と自分を納得させた。
「ここだよ。このキャラメルラテが新作!」
「わぁ。美味しそう……!」
彼女は目をキラキラさせている。ショッピングセンターに入ったときもそうだったけど、頭をキョロキョロと動かしていて知らないものを見ているようだ。
「あ、このチョコのスコーンも美味しそう。」
「これは食べたことないかも!おいしそうだね。でも、思ったより1個がデカイかも。」
「確かにそうだね。食べたいけど、大きいからやめておこうかな……。」
「じゃあ、割り勘で半分こしようよ!」
「半分こ、それなら食べられそうです……!」
いつもは美味しそうだけど高いからって言って食べないスコーンだけど、今日は半分こだし。割り勘だし。いいよね!
「なんだか美味しそうなものがたくさんあって迷うね。でもあんまり食べすぎるのも良くないし、このくらいにしておきます。」
「それなー!本当に美味しそうなの多すぎて困るよね。全部食べたくなっちゃう!でも私もこのくらいにしとこ。お金無くなっちゃうし笑」
「そうだね。そうしよう。私、払います。」
次の方どうぞ、と呼ばれ会計を済ませる。私に続いて彼女も会計をしていた。隣から見ていてもたどたどしい様子だったが、無事に会計を終わらせ私の所へ駆け寄ってきた。
「こっちで受け取りだよ。」
「あ、はい。」
店員さんがカップに何かを入れているのが見える。あれ私のかな、なんて思いながら出来上がるのを待つ。スコーンもお皿に乗せられて、ショーケースの外から見たときより美味しそうだ。
華楓ちゃんも口を開けて店員さんの動きに見入っている。なんだかおかしくなって笑ってしまった。
「135番でお待ちのお客様ー。」
「私だ!貰ってくるね!」
「うん。」
「キャラメルラテになります。ごゆっくりどうぞ。」
近くで見ると遠くで見ていた100倍くらい美味しそうに見える。お腹すいてきた、早く食べたい!
「136番でお待ちのお客様ー。」
「私。行ってくるね。」
「うん!あの席で待ってる。」
「うん。」
彼女が戻ってきて、席に座った。彼女の目は未だキラキラしている。多分私の目もキラキラしていると思う。だってこんなに美味しそうなんだもん!
「いただきます!」
「いただきます。」
そう言って、華楓ちゃんのお盆に乗っていたスコーンを半分こする。
「これ320円だっけ?じゃあ160円だね。えーっと、はい!」
「え、あ、大丈夫ですよ……!今日寄り道に付き合ってくれたお礼。お金は大丈夫。」
「え、それは悪いよ〜!」
「いいの。私がそうしたいから。」
「そうなの?じゃあ、お言葉に甘えさせていただいちゃおっかな!はい、スコーン切れたよ、これ半分!」
半分に分けられたスコーンをフォークでまた小さく切って口に運ぶ。
「んんー!美味しい!何気に初めて食べたかも。」
そう言って華楓ちゃんのことを見るが、反応がない。というか固まっていた。
「華楓ちゃん?おーい。」
「あっ……!すみません……!とっても美味しくて少し驚いていただけです……!えへへ……。」
美味しすぎて固まっちゃうなんて。思ったより面白い子なのかもしれない。
「あっはははは!華楓ちゃんって面白いね!」
「え?そんなにおかしかった、かな?美味しくってつい……。」
「ううん。美味しくて固まっちゃうなんて可愛らしいなと思って!」
「え……。」
また固まってしまった。しかも顔が赤い。だ、大丈夫かな?
「大丈夫!?おーい!」
「あっ……!大丈夫……!ごめんなさい。この、キャラメルラテ、飲んでみます。」
そう言ってキャラメルラテを飲み出す。ひと口、口をつけてまた固まった。
「あっははは!本当に面白くて可愛い子!友だちになれてよかった!」
「え……!あ、また私。恥ずかしい……。でも、ほんとうに美味しいですね。こんなに美味しいとは思っていませんでした。」
「そうなの?そんなに感動されると華楓ちゃんがいつも何食べてるのか気になってくるよ。」
「いつもは和食が多い、かな。お菓子とか甘い飲み物とかも基本的には飲まないから。とっても美味しくって……!」
和食なんだ。なんかちょっと意外かも。紅茶とかコーヒーとか飲んでそうだと思ってたから。
華楓ちゃんは、なんとなく遠い存在って感じがしてたからこういう私生活とか知れると近くにいるって感じられて嬉しいな。
「あはは!なんか、今日来てよかった。」
「私も……!来てよかった。ありがとう!」
「こちらこそ!」
そんな会話をしつつキャラメルラテとスコーンを味わう。それは、固まってしまうくらいに美味しかった。
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