第47話 隣に座る親友と後輩の言い争い
「にしても、あんたさ。メキメキ足が速くなってるわよね。どうしたのよ、万年凡人のくせして」
「誰が万年凡人だ」
だが実際、亜伽里の言う通りだ。
以前と比べると雲泥の差。
明らかに速くなっている。
これはあれか。
俺の隠されし才能が開花したと……、
「そりゃあれだろ。今まで運動なんかまともにしてなかったから、ようやく身体を常人レベルで動かせるようになっただけじゃね?なぁ、愛原ちゃん」
「え、えっと……あはは」
愛想笑いされたんだが。
まさかお前もそう思ってんの?
結構ショック。
「で……でも、思ったよりは速かったですよ!思ったよりは!」
「愛原ちゃん、それフォローになってない」
「……ハッ!」
電気が走ったようなリアクションに、皆クスクス笑う。
「おいお前ら、なに笑ってんだ。バカにしてんのか?バカにしてんだろ!上等だ、表出ろや!今日こそわからせてやんよ!」
「バカなのは間違いないな」
「ここ、表出しな」
「バカってかアホじゃん」
こ、こいつら……!
「ま……まあまあ皆さん!先輩が可哀想なのでそこら辺で!」
「しゃあねえなぁ。耳まで真っ赤にしてるし、ここらでやめてやるか」
いつか絶対百倍返ししてやる。
俺は沈む夕日に向かって、そう固く誓った。
「あー、そういえばよ。ずっと当真に聞きたかった事があんだけどさ」
「ん?なんだよ、改まって」
「田中……だっけ?あいつ、本当に信用できんのか?俺は今一信用しきれないっつーか」
実情はどうあれ、愛原をいじめたのは事実だ。
一季の気持ちもわからないでもない。
けどその話題はせめて愛原が居ない時とかにだな。
「どういう意味ですか、それ。田中先輩が信用出来ないとでも言うんですか」
「いや、そこまで言わねえよ?ただ、イジメをしてたのは間違い無いわけだろ?なのに簡単に信用して良いんかなー、って」
「なっ!田中先輩は強要されてたんですよ!?好きでやっていたわけじゃ……!」
「だとしても、イジメに荷担した事実が消えるわけじゃないだろうが!」
この二人ならいつかぶつかるとは予想してはいたが、やっぱりこうなったか。
一季は仲間意識の高い男だ。
だから仲間となった愛原を心配して、こんな言動をしてしまったのだろう。
だが愛原からしてみれば、大切な先輩を貶されたと同義。
機嫌を損ねない筈がなかった。
「イジメられてる私が良いって言ってるんだから、それで良いじゃないですか!大槻先輩のわからず屋!」
「わからず屋は愛原ちゃんの方だろ!仮に今回なんとかなったとしても、また繰り返すかもしれないんだろ!?そんなやつを百パーセント、どう信用すれば良いんだよ!」
「むむむ……!」
本来ならトコトンやりあって理解を深めるのが一番なのだが、今回ばかりは間に入った方がよさそうだ。
そこで俺も立ち上がり、二人の間に入って。
「はいはい、はいはい。一旦ストップしろって、二人とも。ヒートアップし過ぎだぞ。そんなんじゃまともに話し合いなんか出来ないだろ」
「でも……!」
「だけどよ!」
端で見るからに苛立っている秋乃を見ながら。
「良いのか?引き返すなら今のうちだぞ。これ以上やりあうつもりなら、俺は拷問姫アイスメイデンを召喚する。それを教えた上で訊くが……本当にまだやる気か?俺ならやめとく」
二人は俺の脅しを聞くなり、秋乃さんをチラッ。
そして顔を見合わせたのも束の間、二人はフッと微笑むと。
「「ごめんなさい!」」
恐ろしく早い謝罪。
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「一季、お前が愛原を心配して言ったのは俺もよくわかってる。信用しきれない気持ちもな。確かに田中さんは愛原へのイジメに荷担した。 それは良くない事だ。でも誰よりもその事に責任を感じているのも、また田中さんなんだよ。そこは理解してやって欲しい。愛原の気持ちも」
「……わあったよ。当真がそこまで言うなら、信じれるよう努力してみる。ごめん」
「謝るのは俺じゃないだろ。後で愛原に謝っとけよ」
「おう、せんきゅ」
よし、一季の方はこれで問題ないな。
あとは愛原か。
「なぁ、愛原。さっき一季にはああ言ったけど、一季の言い分も間違いじゃないと思うぞ。イジメをした事実がどうあっても残る以上、皆の信用を得るのは一長一短じゃ不可能だ。俺はともかくな」
「でも田中先輩は……!」
「愛原」
「うぅ……」
納得はしていないが理解はした、という所か。
愛原は難しい表情を浮かべながら、ゆっくり頷いた。
さて、いつまでも俺が間に入ってたら謝るものも謝れないからな。
ここは二人きりにしてやった方が良いだろう、と。
「秋乃さん、向こう行ってようか」
「ん」
秋乃さんを誘って場を離れるや否や、案の定二人は頭を交互に下げ始めた。
雨降って地固まる、だな。
これで田中が輪に入ってもいざこざが少なく済みそうだ。
なんて、笑顔になった一季と愛原を見ながら考えていたら、ふと夏日が喋りかけてきた。
「やあ当真くん、お疲れ様。流石は先生の弟だね。お姉さんに似て、面倒見が良い」
なにを言ってるんだ、こいつは。
うちの姉は独裁者の放任主義なんだが?
目玉腐ってんのか。
「眼科行って来た方が良いぞ。視力絶対おかしいから。いや、脳外科医に診て貰った方が良いかもな。脳ミソが腐ってるとしか思えない」
「あはは、酷いなぁ。将来は兄弟になるのに」
やめろ、ゾッとしかしない。
「え……兄弟に、なる……?」
おっと、まずい。
どうやらうちのツンデレ姫に、今の会話を聞かれてしまったようだ。
血相を変えてこっちに向かってきている。
「夏日くん、ごめーん。こいつ、また借りて良い?」
もう慣れたもので、夏日はいきなり割って入ってきた亜伽里に嫌な顔を一つ見せず。
「どうぞどうぞ」
後ろ手に、凝り固まった笑顔で浮かべると。
「ありがとー。ほら、さっさと来なさい」
亜伽里もまた似合わない笑顔を浮かべながら俺の腕をガシッと掴み、ズルズル引っ張っていく。
こいつはほんとに女なのか。
掴まれたところがアザになりそうだ。
ゴリラが転生したのかな。
「ちょっと当真……今の話、どういう事よ」
「どうって、なにが」
「決まってるじゃない!兄弟になるとかって話よ。ま、まさかとは思うけど!夏日くんと葉月姉って……!」
違う、そうじゃない。
面倒臭いが訂正しておくか。
「言っとくけど、付き合ってはないぞ。 付き合っては」
「……ほっ。 なら良かった。 付き合ってないのなら、あたしにもまだチャンスが…………あんた今なんて言った? 付き合っては、とか聞こえたんだけど」
あっ。
「あんたのその顔…………じゃあ夏日くんはマジで葉月姉の事を!?う……ああああー!なんで……なんでよりによって、葉月姉さんなのよ!わざわざ教師を好きにならなくても良いじゃない、目の前に同い年の女の子が居るのに!もぉぉぉぉ!」
性的嗜好は人それぞれではあるが、ごもっともである。
ごもっともではあるが……肩を揺らすな。
脳が揺さぶられて────
「あはは、二人とも相変わらず仲が良いね。うん、やっぱり二人が一番お似合いだ」
殺されたいのか、貴様。
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