第44話 隣に座る同級生と秘密のお話 【後】

「それで、美住。大事な話とはなんなんだ?そろそろ聞かせてくれないか」


 主に俺が原因で紆余曲折あったが、ようやく本題に入るらしい。

 おじさんが神妙な顔をして尋ねると、田中は俯きゆっくり語り始めた。  


「うん。でも本題に入る前に、パパ達に言っておかなきゃならない話があるの。中学生の頃から私の身に起きている、その……イジメについて。それに関係している事だから」


 俺も知らない中学時代から続く、青木と桃川との因縁を。

 

 二人と出会ったのは中学二年に上がってからと、田中は言った。

 たまたま席が近かった三人は、なんとなく友達になり、よく一緒に行動するようになったんだそうだ。

 だがあの二人。

 青木と桃川は、優等生だった田中とは違い、いわゆる非行少女だったんだとか。

 だった、というか、今も、なんだが。

 まぁそんな奴らと関わったのが運の尽き。

 真面目で気弱な性格だった田中は、青木達の素行や行いに嫌とは言えず……。


「はぁ……?タバコを吸わされて、それを動画で撮られた?」


「うん、そう……断りきれなくて。……ごめんなさい。こんな不良娘でパパもママも、当真も嫌気が差したわよね……」


 田中美住の弱みとなる秘密。

 奴らに逆らえなくなった理由を聞いた俺は田中夫妻は顔を見合せ、「はぁぁぁ……」と呆れたように目頭を指で押さえる。

 おじさんも、思ったより大した秘密でなくて安堵したのか、ホッとした表情を見せる最中。

 唇に人差し指を添えながら、おばさんは娘にある事を問いかけた。


「えっとぉ、一つ良いかな美住ちゃん。タバコって一本だけ?それとも今も吸ってたり……するのかしら?」


「吸ってない、吸ってない!吸ったのはその時の一本だけよ! 断じてあの時以外吸ってないわ!本当よ!?」


 まるで重犯罪をしでかしたかの如く、必死で懇願する田中。

 俺と夫妻はそんな田中から視線を落とし、安堵の溜め息を吐いた。


「な、なによその反応…………怒ら、ないの?私、非行に走ったのに……」


「お前、非行って……。まぁ確かに未成年は吸っちゃダメだとは思うがな?でも、このくらい誰でも一度はやるだろ。俺も昔、親父にビール飲まされたし…………なんだよ」


「別に……」


 こいつ不良だったの?

 とでも言いたげな目をしている田中に、おばさんが続けて。


「もちろん吸ったのはよくない事よ?成長の妨げになるしぃ、違法だしぃ。でもねぇ、一本くらいならわざわざ怒らないかなぁ。ねぇ、あなた」


「くっ……くくくくく!はー……ああ、そうだな。お父さんだって子供の頃、落ちてたタバコを吸ってみた経験あるからな。一本二本なら怒る気にもならんぞ。常備してたら流石に怒らなきゃならんが、そういう訳でもないんだろう?なら怒る必要もないな。反省もしてるみたいだし」


「…………えっと、そういうもんなの?」


「そんなもんなんだっての。……ったく、お前は真面目すぎるんだよ。この程度、別に悩む必要も無い。弱みにもならんわ。まぁでも……お前がそれだけ真面目だからこそ、あいつらはつけ込んだ訳だがな」


 よもや自分が思っていたよりもそこまで大した問題では無いと、三人の反応から思い知った田中は脱力。

 机にグテーッと寄りかかる。


「な、なによそれぇ……じゃあなんの為にあいつらの……。愛原を傷つける必要なんか本当に無かったんじゃない。最悪…………泣きそう……」


「美住、お前はもう少し遊びを覚えなさい。勉強や部活を真面目に取り組むのも良いが、世間を知るのも大切だぞ。知っていれば、今回のような事態を防げたんだからな。もちろんイジメをする方が悪いのは言うまでもないが」


「うぅ…………」


 あかん、本格的に泣きそうになっている。

 なので俺とオバサンはせめて田中の味方をしてやろうと。


「まあまあ、おじさん。そんなに言ってあげないでくださいよ。イジメって、イジメられてる方はなかなか言いづらいもんなんです。俺も昔そうだったんで、田中さんの気持ちも分からないではないといいますか」


「そうよ、お父さん。あんまり責めちゃ可哀想じゃない」


「む……そうか……」


 似た者同士か!

 お父さんまでしょげてしまったんだが!


「ごめんなさいねぇ。うちの人達、めんどくさいでしょう?」


「いえ……そんな事は……」


 言えるわけないだろ。

 めんどくさいなんて。

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