第42話 隣に座る同級生と秘密のお話 【前】

「いらっしゃいませ!ファミレスメニーズへようこそ!1名様ですか?」


「あー、いえ。田中って人が先に来ていると思うんですが」


「少々お待ちいただけますか?調べますので」


 お姉さんはそう言うや否や、レジ近くの機械を触り始めた。

 どうやらその機械は来店中の客を把握する為の機械らしく。

 田中の名前を見つけたお姉さんは、より一層の笑顔を浮かべると、あの場所を丁寧な所作で示す。


「お待たせいたしました!あちらの席になります!」 


 お姉さんが促したのは最奥の席。

 人目につきにくい壁際の四人用の席だ。

 まだ田中の両親は来ていないのか、田中美住は暇そうに携帯を弄っている。

 俺はその姿を確認するなり、お姉さんに礼を伝え、田中の座る座席に向かった。


「よう、お待たせ」


「おっ、ちゃんと来てくれたのね。感心感心」


「あれだけ真剣に頼まれちゃ、来ないわけにはいかないだろ。ところで、田中さんの親はまだ来てないのか?」


 訊ねながら隣に腰を下ろすと、田中はスマホ画面をスライドさせながら。


「んーと、もうちょいかかるってさ。パパとママ」


 パパ、ママ。


「なによ、なにニヤニヤしてんのよ」


「いぃや、別に?ただ高校生にもなって親をパパママって呼ぶやつ、なかなか居ないよなと思ってさ」


「んなっ!」


 突っ込まれたのがよっぽど恥ずかしかったのか。

 田中の顔がみるみる真っ赤に。


「べっ、べべべ別にいいでしょ!?親の呼び方ぐらい好きにさせないよ!てかあんた飲み物何にすんのよ!さっさと選べば!?てかもうドリンクバーにするわね!はい、決まり!」


 俺の返事を待たずに、呼び鈴を叩くようにポチッ。

 ピンポーンという小気味良い音が鳴り響くと、店員さんがやってきた。

 

「ご注文はお決まりですか?」


「ドリンクバー四つで!」


「かしこまりました。コップなどはサーバーの横に置いてありますので、ご自由にどうぞー」


 サーバーというと、入り口近くに置いてあるデッカイあれか。

 何にしようかな。

 やっぱり初手は炭酸でグイッといくべきか?

 しかし、果物ジュースの爽快感も捨てがたい。

 うーん、悩む。


「よっし、早速取りに行こうぜ。田中は何飲む?俺は……」


「コーラ」


 めちゃくちゃ不機嫌。

 田中は机に突っ伏して、ぶっきらぼうにそれだけ伝えてきた。


「なんだよ、取ってこいってか?どうせなら一緒に行こうぜ。他にももしかしたら旨いのが……」


「コーラ!コォォォォラッ!」


 へい。






「ふむ…………どうするか」


 ドリンクバーの前で腕組みをして悩むこと三分。

 俺は未だにどれを注ぐか決められないでいる。

 といっても、自分の飲み物で悩んでいる訳ではない。  

 田中の飲み物で悩んでいるのだ。


「コーラに合うブレンドか。ここはやはり……紅茶か?」


 ドリンクバーって言ったらやっぱりこれをやらなきゃだよね。

 そう、悪魔のブレンドドリンク製作を。

 とりま自分のドリンクはメロンソーダにカルピスを混ぜた、神ブレンドのカルピスメロンソーダにした。

 が、肝心の田中専用ブレンドをどうすべきかなかなか決まらない。

 どうせなら旨くもなく、かといってゲロマズでもない、飲めるけど飲む気が失せるブレンドにしたいところ。

 コーラに紅茶も悪くはないが、もう一手何かが欲しい。

 そんな下らない事に悩みながら、


「うん、ひとまず混ぜてみよう」


 俺は紅茶のボタンを押下。

 黒い液体に砂糖とシナモンをぶちまけた特殊配合に、ストレートティーが混ざっていく。

 既に最悪の一品である。

 絶対飲みたくない。

 しかしこれではただ不味いだけ。

 ここから挽回できる何かを……!


「そうだね、この配合なら……お湯なんかどうだろうか?このままだと飲めたもんじゃないだろう?だからここはお湯で味を薄めつつ、ホットにする事で飲めるは飲めるけど、とんでもない味のブレンドになると思わないかな」


「お湯……?ハッ、確かに!」


 俺はいきなり話しかけてきたおっさんに疑問も抱かず、お湯をブレンド。

 うん、なかなか悪くない劇物だ。

 田中に持っていってやろう。


「おじさん、ありがとう!お陰で最高のブレンドが完成したよ!それじゃあ俺はこれで!」


「そうだね、では行こうか。冬月当真くん」


「…………へ?」


 今更で大変恐縮なんだけど……あなたは一体どなたなの?

 


 

 

 

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