第27話 隣の席のアイスメイデンと振り分け
「なあ、当真」
「んー?」
「葉月姉ちゃん遅くね?ホームルームの時間過ぎそうなんだけど」
右斜め前の席に座る一季に言われ、スマホの画面から備え付けの時計へと視線を上げる。
確かにもうすぐ一限目が始まる時間だ。
という事は恐らく、先週の頭にホームルームで言っていたアレの話を、一時限目にするつもりなのだろう。
「もう来るだろ。だって今日は多分……」
言いかけたその時。
教室の扉が開き、姉さんが現れた。
手にはファイルや学生名簿の他に、チョークケースとノートパソコン。
思った通り、今日はあの話をするらしい。
「ほらほら、貴方達静かにしなさい。今日は一限目は自習にして、お待ちかねのあの話をするわよ」
教育された我がクラスの面々は、抵抗なく続々と席に着く。
そして最後の一人が座ったのを確認した姉さんは、黒板にとある単語を書いた。
そう、それこそが十月の末頃に開催するあの一大イベント。
「秋の祭典、体育祭のメンバー振り分けをします。一人一つには必ず出るように。分かったわね」
体育祭である。
「ほーほっほっほ!これより先はワタクシ、『鳳凰院伽凛』がクラス委員として進行を努めますわ!ほーっほっほっほ!」
うちのクラス委員の鳳凰院伽凛は、ここら辺では知らぬ者が居ない大会社、鳳凰院グループの跡取り娘だ。
ウェーブのかかった金髪にお嬢様口調。
どこからどう見てもお金持ちの女の子、鳳凰院さんはとっても目立ちたがり屋。
進行役にはうってつけの人材だ。
「ではまず、長距離走から決めるとしましょう。やりたい者、挙手!」
副委員である寡黙な男子が黒板に種目を書き連ねていく中。
鳳凰院さんがセンスをパチンと閉じたのを皮切りに、数人が手を上げた。
立候補者はいずれも男子。
野球部二人に、サッカー部が一人か。
となれば当然……。
「ふむ、そうですね…………やはりここは手堅くそちらのサッカー部所属の方にお願いしましょうか」
「おっし!」
サッカー部員もとい、クラスで一番イケメンのモブ君は、選ばれるや否や喜びをガッツポーズで表現する。
ちなみに彼は秋乃さんをナンパして舌打ちされたあの男だ。
どうやら秋乃さんが俺の彼女となった今、鳳凰院さんに鞍替えしたらしい。
「俺、鳳凰院さんの為に頑張るからさ……。だからもし一位だった暁には……!」
美少女なら誰でも良いのか、お前は。
「佐伯さん、次は?」
「あれ……?鳳凰院さん、僕の話を聞いてる?デートのお誘いなんだけど……」
「短距離走だ」
「わかりましたわ。では次の短距離走!やりたい方、挙手をなさい!それと貴方なんかとデートはしません。顔を洗って出直してきなさい」
「酷い……」
不憫な奴だな、あのイケメン。
ああいう立ち位置なんだろうな、あいつは。
「でもなんだろう。秋乃さんといい、鳳凰院さんといい。強気な女の子に罵倒されるのって……なんか良いな」
あいつはもうダメかもしれん。
短距離走はさっきの野球部の一人に決まり、次の競技は二人三脚。
ここで一波乱起こった。
主に二つの派閥争いで。
「あんた達男子はわかってない!二人三脚は秋乃さんと冬月くんしかあり得ないから!それ以外は全て却下!」
「絶対嫌だね!んな事したら、二人の交際を認めるようなもんじゃねえか!俺らはまだ冬月が秋乃さんの彼氏だなんて認めねえからな!断固反対だ!」
「だからモテないのよ、あんたらは!良いじゃない、芸能人級の美少女の相手が冬月くんみたいな特に取り柄のない男の子でも!」
「だからこそ、あんな男に御姉様を任せるわけにはいかないのですわ!あんな凡人に御姉様を任せられるものですか!貴女達こそ理解なさい!あれに御姉様は勿体ないと!」
おい、失礼か。
とまあこんな感じで、俺と秋乃さんの交際肯定派と否定派の論争になってしまっているのだ。
なんという迷惑な争い。
俺としちゃあ静かに学校生活を送りたいので、そっとしておいて欲しい。
が、意外にも秋乃さんは俺とは違い、やる気満々。
なんらかの思惑があるのだろうか。
「やるわ」
「御姉様!?」
「え!ちょっ、秋乃さん!?」
「待って待って!勝手に決めないで!俺らの話聞いてた!?」
男子どもが止めに入ろうとするも、秋乃さんの意思は固い。
「やるったらやる。異論は認めない。文句言う人は湾に沈める」
「くそぉ!」
「俺らの秋乃さんが……!」
「冬月め……」
「御姉様、そんな……!」
断固とした決意に男子プラスアルファは膝から崩れ落ち、
「いつもは淡々としてる秋乃さんがやる気になってる!うぅ……見守ってきた甲斐があったわ……。嬉しくて涙が……」
「これが愛の力…………愛は秋乃さんですら変えるのね……。尊い……」
「推しが……推しが輝いてる!私もう天に召されても良い……」
女子は軒並み推しの成長を噛み締めている。
ただ一人を除いて。
「また貴方なの、冬月当真!貴方はやはり始末しておくべきですわね……御姉様の為にも!」
度々聞こえてきた不穏な声の主はお前だったのか。
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