隣の席のアイスメイデンが俺にだけ優しい

@belet

第1話 誰に対しても冷たいアイスメイデンが俺にだけ話しかけてくる

 俺こと『冬月当真』は平凡な人間だ。

 どのくらい平凡かというと、


「あんたって顔に特徴無いわよね」


 なんて幼馴染みに言われるくらい可もなく不可もない顔立ちで。

 髪の毛は短くもなく長くもない中途半端な黒髪。

 声色も同じくあまり個性がない。

 一人一人声帯が違うのだから個性がまったく無い訳ではないが、この間クラスメイトに。


「冬月くんにこの間話しかけられたんだけど、あんまりにも特徴無いから一瞬わかんなかった」


「むしろあれ、ある意味個性じゃない? 無個性すぎて逆に、みたいな」


「草」


 こんな噂を立てられる始末。

 個性がない事で個性を樹立してしまった稀有な例である。

 けれど結局は没個性という。

 複雑な心境だよ。

 あと人の個体情報に草を生やすのはやめろ。

 ちなみに背は165センチくらいで、学業成績も毎回だいたい中間。

 50メートル走では六人中四位をキープしている。

 それが俺、冬月当真だ。

 とはいえ、そんな人間別に珍しくもなんともない。

 世の中にありふれている一人に過ぎない。

 だがもちろん世の中には俺みたいな人間ばかりじゃない。

 平凡からは遠く離れた人間も、もちろん存在している。

 こんな平凡な私立高校の中でもだ。

 陸上で敵無しの一年生、学校中の女子からモテるイケメン、常にテストで一位を取る秀才。

 色んな個性派が。

 その中でも特に有名な奴といえばあいつで間違いない。



 ────ガラッ。


「あっ、おはよう秋乃さん」


 今しがた教室に入ってきた、腰まで届きそうな銀髪が最初に目につくあの女。

 『秋乃来栖』以外に考えられないだろう。

 秋乃は絵に描いたような容姿端麗、才色兼備だ。

 その容姿やポテンシャルから男女問わず人気者。

 我が校でまず最初に名前が上がるとしたら、秋乃来栖と言っても過言ではないと断言できる。

 だが、そんな秋乃来栖にも残念な部分はある。

 それは……彼女の性格だ。


「お、おはよう秋乃……さん?」


「邪魔だからさっさと退いてくれる?道を塞いでるのがわからないの?」


 あのキツい物言いからも分かる通り、秋乃来栖は性格があまりよくない。

 よくない、という言い方はまだ優しい方か。

 包み隠さず例えるならば……冷血女、氷の乙女アイスメイデン、と言った方が正しいかもしれない。

 

「ご、ごめんね!ほら皆、秋乃さんの邪魔になってるから!」


「ふんっ」


 冷たい瞳で睨まれた女子が、教室の入り口で談笑していた友人達と一緒に道を開けると、秋乃は鼻を鳴らして歩き始める。

 向かう先は教室の最奥。

 最後尾列端のいわゆる窓際席である。

 が、そこへ向かう途中また邪魔が。


「お、おはよう秋乃さん!今日も可愛いね!」


 本日の勇者が現れた。

 あろうことか可愛いと声をかけたのは我がクラス、二年一組が誇るイケメンくんである。

 さて、秋乃は彼にどう対応するかこれは見物……


「チッ」


「………………」


 おっと、まさかの舌打ちであった。

 今まで『死ね』だとか『殺されたいの?』だとか『湾に沈めるわよ』と罵詈雑言を浴びせてきた事はあったが、舌打ちは初めてだ。

 流石のイケメンもこれはクリーンヒット。

 白くなってしまった。

 だが全く歯牙にもかけない秋乃はスルー。

 何食わぬ顔で席に向かう。

 わざわざ俺の前を通って。

 そう、秋乃来栖の席は俺の隣。

 誰もが気に止めやしない。  

 本来なら誰も気に止めない筈の俺の隣なのだ。

 

「ふぅ……」


 秋乃は座ると一息つく。

 それから少ししてこちらに目線を送ると、秋乃は俺の平穏を揺るがす一言を、いつもの如く放つ。


「おはよう、冬月くん。今日も良い天気ね」


 嬉しそうにはにかんで。

 俺はそんな彼女に、周囲の目線に晒されながら、いつも通りにこう返すのだ。


「ああ、おはよう秋乃さん。今日もご苦労様」


 ────と。

 胃に穴が開きそう。

 



 

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