第21話
ギルドは元々商人達の組合であった。
当然問題は多発。
ギルド本部はそれを解決するため、自分達でも法の執行をするようになった。
昔も今も、一番多い問題は奴隷絡みだ。
拘束されたクレイとマリイはギルド本部へと連行された。
二人が連れてこられた裁判室には傍聴席がないため、アリアは外で無事を祈るしかない。
部屋には段差があり、その上段に執行官であるエバンが着席し、そこにいる者を見下ろす。
「それでは、亜人であるマリイの所有権についての話し合いを始めます。まず所有権を主張するライル・ファング。その主張を裏付けるものはありますか?」
ライルは頷くと胸ポケットから書類を取り出した。
「ああ。これがマリイを買った時の証明書だ。日時と値段もしっかり記入されているし、互いのサインもある。魔力を秘めた判も押しているので偽造されたということはありえない。そしてさっき、売り主からの手紙も届いた。間違いなく俺に譲渡したと記入してある」
ライルはその手紙を部下を通じてエバンに渡した。
エバンは眼鏡をずらして内容を確認する。
「……なるほど。たしかに証明書と矛盾はないようですね」
「当たり前だ。なんなら帳簿も取り寄せよう」
「そちらも提出していただくとありがたい」
クレイの顔が青ざめていく。
どう考えてもマリイの所有権はライルにあった。
それはマリイも分かっており、先ほどから俯いている。
エバンはクレイの方を向いた。
「なにか反論はありますか?」
「……そ、それは」
「ないならこの亜人を盗んだ罪を認めるということですね?」
「…………………」
罪を認めれば何年もの間、ギルドは作れない決まりだ。
そうなれば賞金を得ることもできなくなり、最悪牢獄か、あるいは街から追放される。
マリイを匿ったせいでクレイの未来に濃い暗雲が漂っていた。
だがそれでも尚、クレイは自分を頼ってくれたマリイの為に顔を上げる。
「……たしかによくないことをしたのかもしれません。だけどマリイはただ自由になりたかった。それがそんなに悪いことですか? 亜人だからって自由を認められない。そのルール自体が間違ってると僕は思います」
ライルは呆れて笑い、エバンは微かに眉をひそめる。
「あなたは法を守る気がないということですか?」
「そうじゃない。ないけど……。亜人だって人間じゃないですか。だから、もっと権利を認められるべきだと僕は思います」
エバンは静かに息を吐いた。
「なるほど。あなたの言い分は分かりました。なぜその奴隷があなたの元を訪れたのかも。しかし法律は法律です。守らなければ秩序は崩壊する」
エバンはパンと手を打った。
するとその部下が小さな箱を運んでくる。
エバンが装飾されたその箱を開くと、魔鉱石のついたネックレスを取り出した。
「私は常に公明正大を重んじます。こちらは所有者の分かる一級宝物『オーナークラスター』です。奴隷に用いると今の所有者の名がこちらの水晶に刻まれます。これを付ければ誰の言い分が正しいか一目で分かるでしょう」
ライルは苛ついて舌打ちした。
「そんなものがあるなら証明書など持ってこさせるな」
「互いの主張や証拠品で判断する執行官もいますが、私ははっきりさせたい。ではこれを身に付けてください」
エバンの部下が手錠を外したマリイにオーナークラスターを手渡した。
マリイは売るんだ瞳でクレイを見つめる。
そして覚悟を決めるとネックレスを首にかけた。
ライルがニヤリと笑った。
「さあ! これで誰が持ち主か分かっただろう? あいつは盗人と決まった。二度とこの街に入らせるな!」
エバンは眼鏡を直して頷いた。
「ええ。決まりました。危ないところでした。危うく騙されそうになった」
「騙される? なにを言っている?」
ライルは疑問を持ち、そしてマリイの胸元に光る水晶を見て目を丸くした。
「なん……だと……っ?」
そこには確かにクレイ・ビッグロッドの名前が刻まれている。
事態を飲み込めず、ライルは体を硬直させた。
「なんだ? どういう意味だ?」
ライルはクレイを睨み付ける。
だがクレイもなにが起こったか分からない。
ただ水晶には間違いなくクレイ自身の名前があった。
「え? あれ?」
クレイとライルが混乱する中、エバンが宣言する。
「亜人マリイの所有権はクレイ・ビッグロッドに認められました。よってライル・ファングの言い分は却下します。審議は以上です」
離席しようとするエバンにライルが叫んだ。
「ふざけるな! なにかの間違いだ! もう一度審議しろ!」
「却下します。オーナークラスターの効果はギルド本部も認めています。所有権については百発百中です。これ以上の話は無用。それとも虚偽で亜人を取得しようとした罪に問われたいのですか?」
ライルはクレイを指さした。
「ならあいつだ! あいつがなにかをやったんだ!」
「紋章使いがですか? それこそありえません。では私はこれで」
エバンは何事もなかったのように静かに退出した。
マリイは涙目でクレイに抱きつく。
「やったぁ! よく分からないけどあたしはクレイの奴隷になれたんだよ!」
「……みたいだね」
マリイの胸が頬を当てられるが、クレイは未だに事態を飲み込めていなかった。
そんなクレイをライルは睨む。
「……許さん。この借りは必ず返すぞ!」
激怒したライルにクレイは震え上がった。
だが視線を外さず、力強く言い返した。
「う、受けて立ってやる!」
それはクレイにとって精一杯の虚勢だった。
ライルは更に殺気立ちながらも振り返ると向かいのドアから外に出た。
ライルがいなくなるとクレイはホッとして体から力が抜ける。
「……よく分からないけど、よかった……」
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