第172話「よし! では、風弾を撃て!」
北の砦へ到着した俺たちグランシャリオは、正門を開けて貰い、
出迎えた守備隊兵士たちに馬を預けると、本館玄関前で待つ隊長の下へ案内された。
守備隊隊長はまだ30代半ばと若い、エルネスト・ブイクス伯爵である。
とうとう待ち人来る!という満面の笑みで、ブイクス伯爵は俺隊を迎えた。
「これはこれは! マエストロ、ローラン様、バスチアン殿! セレス殿! クリス殿! それと新人の方々か! よくぞ、遠路はるばる我が砦へいらっしゃいました! お待ちしておりましたぞ!」
「ああ、エルネスト、お疲れ様!」
ローラン様は、ファーストネームで、ブイクス伯爵を呼んだ。
口ぶりも親しげだ。
守備隊支援の為、何度か、北の砦には来訪した事があると、
セレスさんからは聞いている。
今回も第一の目的は、押し寄せたオーガ5千体の討伐、なのだが、
グランシャリオは、守備隊への武術指導、慰問、
救援物資運搬なども請け負っている。
まずは救援物資をと、ローラン様は自身の収納の魔道具より、
本館玄関前に大量の武器防具、食料品、生活用品などを出した。
積み上げられた大量の物資を目の当たりにし、ブイクス伯爵は大喜び。
部下たちに命じ、倉庫へと運ばせる。
オーガ5千体の討伐も大事だが、不足し、難儀する物資の搬入は、
本当にありがたいようだ。
部下たちも嬉々として、運んで行く。
そして、笑顔のブイクス伯爵は、俺たちを応接室へ、招き入れた。
砦の応接室だけあり、簡素な家具、調度品である。
「報告書は見たが、エルネスト、相当、難儀しているようだな」
「はい、ローラン様、ご報告した通りです。我が守備隊は総勢1,500名余り。優秀な魔法使い、治癒士もおり、通常の騎士隊、王国軍よりははるかに強力ですが、さすがに人間の10倍の膂力を誇るオーガ5千体と、まともには戦えません」
「……成る程。多勢に無勢だな?」
「はい、ですので、まずは無理をせずに、持久戦に持ち込むのがよろしいかと判断。砦の堅固さを頼み、守備隊魔法使いの遠距離攻撃魔法で奴らの数を少しずつ削っているところです」
「そうか、賢明な策だ」
「はい、ですが数はあまり減りません。というか、徐々に増えております。どうやら増援があるようで」
「うむ、こう着状態というわけだな」
「はい、ローラン様とグランシャリオに加勢して頂き、オーガ5千体に大ダメージを与え、討伐もしくは撃退を出来ればと」
「承知した。しばし休憩して、もろもろ準備をし、今から1時間後より、作戦を開始する。倒したオーガ5千体の死骸処理は、こちらへ任せて貰えるな?」
「はい、ローラン様へお任せ致します」
「では、今回の作戦を説明するぞ」
……という、やりとりの結果。
少し休憩を取った後、俺たちはオーガ5千体との戦闘に入る事になったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ブイクス伯爵は、俺たちが宿泊する部屋へ案内してくれた。
研修の時同様、男女別で、中には簡易ベッドと質素なテーブル、椅子のみという、
殺風景な部屋である。
伯爵が去ると、テーブルにはお茶のセットがあったので、
俺がお茶を淹れ、ひと休み。
装備を整え、いざ出撃。
現場への案内もブイクス伯爵自らが行ってくれた。
まずは、高さ20mにもなる防護壁、巨大石壁から眼下を見る。
オーガどもは、この防護壁から少し離れた場所へ陣取り、
こちらへ凄まじい殺気を放っている。
そこそこ距離を取っているのは、何度も攻撃魔法を受け、射程距離を覚えたから。
石壁近くに、砕けた岩が大量に散乱している。
奴らが遠くから岩や石を投げ、防護壁を破壊しようとしているからだ。
しかし、魔法で強化された石壁は、岩の
投石くらいではびくともしない。
ただ岩や石が当たった際、そこそこ振動が伝わって来るのは、
気持ちが良いものではないと、伯爵は苦笑した。
ちなみに、下へ降りる際は、防護壁に数か所備えられた魔導昇降機を使う。
人間10人ほどが乗れる無骨な箱を魔力で強化されたロープを使い、
滑車と魔力で上げ下げするものだ。
「うむ、では作戦を開始する。クリス、シャルロットは風弾で、オーガどもを威嚇、牽制、セレスも魔法杖でこれに参加。その隙に私とバスチアン、エルヴェ、フェルナンは魔導昇降機で降り、オーガどもと戦う。その際、エルヴェは魔獣兄弟を召喚。片方は戦いに参加させ、もう片方は魔導昇降機を守らせるように」
「「「「「「了解!!!」」」」」」
「よし! では、風弾を撃て!」
どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!
どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!
どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!どしゅ!
ローラン様の指示とともに、大量の風弾が、オーガどもへ向け、放たれたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます