奇跡の日々が続いていく季節4

 白夜の病室の前に着くと、すぐに扉を開けていいものか悩んで、とりあえず外側で耳を澄ます。

別に盗み聞きというわけではないが、自分の事を何か言っていないか気になる。

白夜にとっての自分の存在は?

しかし話し声はひとつも聞こえない。

そっと、扉を開けるとすぐに理由がわかった。

毛布を頭からすっぽりかぶって、得意の布団潜りをきめ、それに対してなす術がないという状態の天堂の姿に苦笑いしてしまう。

しっかり話したくないアピールが出来るのは、元気な証拠。

天堂の苦労を察すると、喜んでばかりはいられない、か。

話したくない時はそれでもいい。

しかし心の状態が辛いのを1人で抱えたままにしているのは身体の状態にも悪影響してしまうから、放ってもおけない。

声を掛けようと思ったのだが、天堂が首を横に降って手で追い払うから、この場は専門家に任せることにして黙って退出した。

余計な邪魔をして、天堂の仕事を増やしてはいけない。自分に出来るのはそれくらいだ。


 ナースステーションに戻って、雑用と事務仕事をこなして、時々他の看護師同士の楽しそうな噂話に勝手に耳を傾けたりしていたら、結構な時間が過ぎていた。

まだ、白夜と天堂は話しをしているのか?

だとしたら、白夜が疲れていないか…?

いや、天堂なのだから、状態を理解して、疲れさせないようにゆっくり話しを聞いているのか…

色々考え込んでいると、ポンと肩を叩かれた。


「ヤマさん、お疲れ様です。」


振り返ると、天堂がいる。

いったいいつの間に!?


「…お疲れ様です。話し聞けました?」


天堂はニコニコ笑うばかりで


「白夜くんを院内なんだけど、ちょっと連れて行きたい場所があるの。大丈夫かしら?」


応えは返してくれなかった。


「……午前中、散歩に連れて行って大丈夫だったし、短時間ならバイタルに影響はないかと…?あ、でも行く前の状態にもよりますよ?」


「そうね。ヤマさんと私も着いて行けば、全然大丈夫そうね!」


「で?どこに連れて行くつもりなんです?」


病院内に楽しめるような所はひとつもないし、白夜が喜びそうな所と、言ったらエントランスのストリートピアノくらいしか思い付かない。

まさか、先に、こっそり連れて行ったなんて、今更言い出せない。


「明日のお楽しみにしておきます。」


そう言って笑顔も返した。

白夜が少しでも元気になってくれるなら、断る理由もないし、ひとまずこの話しにのるしかない。


「じゃあ、楽しみにしておきます。」


「…白夜くんって、本当に優しい子ですね。」


天堂はそう言って手をパタパタ振って去って行った。


「……優しい子か…。」


優しい子というか、優しすぎる子……

自己犠牲を厭わない。


親友も……


高能力者の家系では幼い頃から植え付けるように、それこそが正義だと、教育がされているんだ。 




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