輝きをくれる 君のうたは…
くま つばさ
はじまりの季節
「が、が、学校に行きたい!?」
看護師のヤマは手渡されたカルテとは別にある診断記録に一通り目をやって驚きのあまり周りを忘れて大きな声を出しまった。
すぐ隣の椅子に深く腰掛けている医師の浜野は、静かにこくこくと頷く。
思わず診断記録を握った手がガクガクと震える。
『うたの力』は、聖なる力。
簡単に口ずさめるような普通のうたとは違う
その力は…
古来より世界の表側では知られる事は一切なく、裏側でひっそりと、だけども確実に人々を救ってきた。
しかしこの力は何もない所からは生まれない。
驚いた事に自らの命を糧にするのだ。
うたうことが
うたの力が体を蝕むのは
自分自身の体験で知っていたが…
ごく僅かな力では
それをほとんど感じる事もなく…
無事に力を失う日を迎えた。
その後は本当に平凡な…
普通の人間と同じような日々だった。
うたの力は、選別という、ある一族に備わった耳の能力により、大まかにランク付けされ
下から順に
D以下の未満力と呼ばれる力
ぼくの持っていたC能力
これが能力者の中では平均で一般的
それに、ぼくより少しだけ力のあったB能力
ほとんど
特別な遺伝の血族たちでしか構成されないA能力
そして、A能力を持つ者たちの間から生まれる、まるで伝説のような、ごく稀なS能力
力は普通はうたや演技の特別な発声によって、発動するものだけれどもSだけは違っていた。
常時その力を本人の意識とは関係なく発動しているのだ。
うたの力なのに?
その恐ろしいほどの力、故にSはその場にいるだけで人々を救えるし、争いを抑止できると言われる。
その救いの能力が恐れられ、禍の種だと言われたこともあったし、逆にSこそが世界に平和をもたらす者だとする伝承も存在する。
話しに聞いただけで、本物のS能力を持った人物に会った事はない。
なにしろ片手で数えるほどしか生まれるか生まれないかのレベルだ。
日本には今は2人だけ。
しかし、Sは常に力を使っているせいで、力に蝕まれるスピードも異常に早く、とても短命で、大体の子が生まれてすぐ、もって1、2年、そこから医療を駆使して生きながらえても12歳前後で…歴史上で1番長生きした子でも15歳だと聞いた。
ヤマの手の内にある診察記録は、今年まさに、その15歳になろうとしている、Sのうたの能力者の子の物だった。
どうして、人を護るのに?
護る側ばかりが…命を削るのは
不公平なんじゃないのか……
答えはわからないけれど
この子たちを救いたい…
だから、ぼくは舞台を降りて
一線を退いた後
猛勉強の末に資格を得て
うたの力を持った子たちを看る
医療従事者になったんだ。
だから…!
「ぼくが全力で止めます!」
「……なに?本人の意思を無視するのか?」
「だって、24時間酸素療法が必要で、車椅子で…他にもまだまだ沢山!それなのに、あの学校とはいえ、普通学級に行かせるなんて、いくらなんでも無理があり過ぎます。」
「学校側は十分理解している。なにしろ、あそこは東の力の要、総本山だからな。お前も懐かしいだろう?」
「………それは…」
「とにかく、午後から訪問診療を兼ねて、1度、本人に会って来なさい。始業式まで、まだ10日以上もある。そんなに急がなくても判断する時間は十分にある。」
「…はあ…」
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