第37話 女性スタッフのいやし

第37話 女性スタッフの癒し


 「お前らどうして裸なの!?」


「私達は髪の毛長いですし、別に着なくてもいいかな〜って思ったんですよね~」


「何その考え!?自由人か!」



 シルが雛野に突っ込むのだが、リンの表情が訝しくなっていく。


「う〜、違う〜〜〜。私が酔い潰れて酔いを覚ましたいって言って上がろうとしたらここにそのまま連れて来られちゃいまして...」


「リン!まさか雛野と飲み比べしたの!?」


「しました〜。そしたらこの様です。おえ!」


「吐くな吐くな。今寝かせてやるから!」


 雛野からリンを受け取りマッサージ台に寝かせて吐いてもいい様に回復体位を取らせる。


「にしてもここの竜巣は壁はぼろぼろで少し狭い〜ー」


「壁がぼろぼろなのは別にいいでしょ?シここに3人が集まる事なんて無いから狭く感じるんだよ!?それに、雛野は滅茶苦茶お酒強いんだから同じ土俵に立っちゃダメ!?」


「なるほど〜。そんな事を気にするなんて意外とお馬鹿さんなんですね私だったらこうします〜」


 壁に向かってペッと口の中から出た柚子の種を飛ばす。


 壁に打ち込まれた種子は見る見るうちに木に成長していき、ふさふさと椅子のように生い茂りながら上へと成長を続ける。


 ミシミシと肩甲骨の下から虫のように鮮やかで薄く細い骨が見る見るうちに体外へと押し出され、虫のように繊細で生命を感じる僅かに緑を帯びた帆が張られていく。


「あそこ、私の席です〜」


ピョンと軽く飛び跳ねたと思った次の瞬間にはもう首を上げないと見えないほど高くなった木の上に居た。


「リンさ、顔とかは滅茶苦茶可愛いのにやる事には品が無いよね」


「別に、好きでこの顔に生まれたわけじゃ無いですからね〜。シルさんは見た目のわりに繊細ですよね」


 おっとりとした口調であるものの、口の中に別の生き物を飼っているのでは無いかと言わんばかりの悪癖が見え隠れしていた。


「見た目のわりにとかは余計だよ!」



「シルさん、お酒に強い私も少し酔っ払ってしまったので酔いを楽にする施術お願いできますか?」



「あ、はいはい!じゃあうつ伏せで寝そべって?」


 雛野を施術台の上に寝そべらせる。手の中でふわふわとした黄土色っぽい物体を捏ね、雛野の身体に米粒サイズにして至る所に置いていく。


「何それ?」



 上からその様子を見るリンが首を捻る。


「何って、艾。雛野に灸を据えて酔いを緩和するの。さぁ、リンは水飲んで」


「うーん」


 水の入った小瓶を唇に近付けるのだが一向と飲み込もうとしない。


「水飲ませる必要あるんですかー?」


「お灸をすると身体が温まって色々な効能があるんだけど、あんたは魔法が使えるところまで回復すれば自分でアルコール抜けるでしょ?あんただけ、自然治療」


「じゃあ、これならどうですかね?」


 木の上から小さな粒が投げられ、シルがそれを掌で受け止める。


「何これ?」


 ビー玉のように薄暗い中でも光を反射し、水泡が宝石のように輝いていた。


「水。持ち運べるようにしてみました〜」


「へー!男を籠絡させるだけあって魔力の扱いも綺麗なんだ!」


「あんまり変なこと言うと、返してもらいますよ〜。私はモテちゃうだけなんです〜」


「だって事実でしょ?」


 悪びれることなく雛野に水を飲ませていく。球体からかするんと口の中に入っていき顔色が良くなったのが見てわかる。


「さてと...」


 爪先で雛野の体に置いた艾を触り火をつける。小さく分かれた艾はチリチリとゆっくり燃え、灰になるとそれを潰し、新しい少し大きめの艾を乗せていく。


「うーん?脚のやつ少し熱すぎかもです」


「はーい。充分あったまってるし取っちゃうね。気分どう?」


「だいぶ良くなりました。色々とすみません」


「困った時はお互い様。夕餉はどうする?」


「シイナさんの好物って何ですかね?」



「確か、ホーネットが好きって言ってましたね〜」


 木の上からいつもの調子でリンが澄ました顔をして答える。


「ウェッ!虫類は食べたくないなー」


「シルさん、ここのルール忘れちゃいました〜?夕餉はその日来たお客さんの好物を食べるルールですよ〜。虫嫌いのシルさんがちょっと頑張って食べる姿見たいなー」


「別に頑張るけど、本当はあんたも食べたくないんでしょ?」


「まさか〜!一体私のどこを見てそう判断してるんですか〜?」


「どこって全体的に?」


 身体が小刻みに震え、貧乏ゆすりも増えあり得ない程に振動していた。


「お二方は虫嫌いなんですか?プリッとしていて美味しいですよ」


「なんで知ってるの!?食べたことあるの?」


 艾を取りながら興味を隠せない。


「え?普通食べません?虫ってバリバリしててスナックみたいで手頃ですし」


「え?嘘ですよね〜?雛野さん、食べたことあるんですか〜?」


「あるよ!エビみたいで美味しかった。リンさんは食べたことないんですか?」


 最終的には虫などみんな嫌だと言って自分の口には入らないと思っていたからこそ、シルを揶揄って楽しんでいたリンだが、遂にはその表情が引き攣っていた。



 そして、虫を食べている自分の姿を想像する。




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