第35話 これからの治療
第35話 これからの治療
ギュッ、ギュッと一定のテンポとスピードで体を揉んでいき、背中から脚にかけての鱗がベリベリと剥がれていった。
「あ〜、気持ちぃい。こんな治療があるんだったら毎週でも来るのにな。この前ここで飲んだお薬は苦かったし」
「この前もこの治療したよ?なのに、その割には来なかったじゃん。次はふくらはぎのリンパ流すからね」
「え?嘘....。覚えてませーん」
とろーんと蕩けた声や瞳で微睡みながらシルに返事をする。
肉を少しだけ指先で摘み、フニフニと刺激していく。
「智からは魔漏症で道端で倒れてたって聞いてたんだけど、智に応急手当をして貰った時はどんな治療したの?」
「うーん?よくわからない。あの人に初めて会った時は全身が鱗に包まれた暴走期だったからあんまり覚えてないんだよね」
「全身が鱗鎧に覆われてたんじゃ、マッサージは無理か。ひょっとしてだけど、宿に着いた時いつもと違う感じとかしてた?」
「そう言えば、してたかも。体中の突っかかりが取れた感じ」
「じゃあ、マッサージじゃなくて鍼治療かもね」
「何それ?」
「見てみる?」
おもむろに、銀色の髪の毛を一本引き抜くとそれが指の中で細い鍼の形になっていった。
「これが鍼。これを体に刺して治療したんだと思うよ」
「ちょっと待って!?それ刺して大丈夫なの?」
どこをどう見ても治療用だとは思えない鍼に恐怖を拭えない。
「勿論。試しにやってみる?」
「え、いや、また今度でいいかな?」
必死に訴えるも、体から体中に稲妻が駆けるようなビリッとした感覚が走る。
「ごめん。もう遅い。刺しちゃった」
「何今の!?滅茶苦茶凄かったんだけど!!ピリッときた!」
「暴れないで。まだ鍼が刺さってる」
背中にもう一度手を当て、慣れた手つきで鍼を抜く。不思議なことにその鍼には血液が全く付いていない。
「これで治療は終わり。鍼は刺しても体内の血液の流れがそれを避けるから血は出ないよ」
「え?でも、まだ鱗鎧残ってない?」
ゆっくりと身体を起こし立ち上がる。すると、今まで頑固にへばり付いていた脚や背中の鱗鎧がガシャガシャと音を立てて床へと落ちていく。
「へ?何で剥がれたの!?」
「貴方の魔漏症は身体に付いた鱗鎧を剥がすために精孔が必要以上に開いて鱗鎧を剥がそうとする事によって起こってた。でも、成長するにつれて鱗鎧が丈夫になり、精孔が広がり命に関わるほどの魔力が放出され鱗鎧は魔力が身体から流失しないように精孔が閉じられていない部分に張り付く様になって、両方の要素がせめぎ合い体のあらゆる所で魔素が形成され、体に様々な不調を齎した」
「それで、マッサージで精孔の調子を整えて鱗鎧を剥がしてくれたんだよね?鍼だとあんな一瞬で精孔を閉じられるものなの?」
「身体がリラックスしてればね。取り敢えずこれ着なさい」
手早くシルが着ている施術着と同じ物を着せる。
「へー。面白い!でも、私の体質が治ったわけじゃ無いんだよね?」
「そうね。暫くすれば今回みたいに薬で溶かしきれなかった鱗鎧が身体にへばりついて身体に魔素が蓄積して、また森を吹っ飛ばすかも」
「そっか」
短くそう呟くと表情を暗くし、下を俯く。
よっぽど森を吹っ飛ばしてしまった事を気にしているのか...
「ほーら!しっかり前向いて。可愛い顔してんだから、クヨクヨしない!」
「だって!だって〜!」
クシャクシャに泣きじゃくり、もう感情の収集が間に合わない。
ガシッと肩を掴み正面から力強くシイナを見つめる。
「良い?よく聞いて!確かに魔力を使えば使うほどシイナは危険な存在になる。だけど、そんなシイナにだって助けられた人は沢山いるんだからシャンとしな!」
「だって、もし誰かを巻き込んでいたら...!」
「そうならないように私達がいるんだ!だから、思い切り砂漠の平和を守って思い切り羽を伸ばしに来なよ。どうせ律儀なあんたの事だ。迷惑だとか思ってギリギリまで来なかったんだろ?逆に来ない方が迷惑なんだからね!」
それを聞いた途端には今まで堰き止められていた涙が溢れ出し、枯れるまでシルに抱きついて泣いた。
涙が心の蟠りを洗い流してくれるかの様に少しずつ軽くなっていくのを実感しながら。
「さて、落ち着いた所でこれからの治療の説明するよ」
泣き疲れて今にも眠ってしまいそうなシイナをどうにかマッサージ台にちょこんと座らせ口早にシルが説明して行く。
「今回の治療は身体の不調を整えただけで体質を変える物じゃないの。だから、二週間に一回ぐらいのペースで温泉に浸かりに来てもらって少しずつ体外に魔力が漏れ出なく、鱗鎧も剥がれやすい身体に作り替えていきましょ!分かった?」
「ふぁーい!分かりました」
勢いよく手を挙げ返事をするのだが、表情は蕩けて今にも寝てしまいそうなぐらい夢見心地だ。
「じゃあ、疲れただろうし。部屋に案内するね」
髪の毛を結んでいた紐を解く。歯でそれを食い千切ると静かに燃え出し、空中に燃え盛りながら輪の形を保つ紐が固定された。
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