第27話 遠方から
第27話 遠方から
「さっきはよく分からない凄い大きな爆発がありましたけど、どうなってます〜?」
「分からない。爆発が起こったと思ったら全て消し飛んだ。何が起こったのかもさっぱり分からない」
玄関の入り口で割れた水晶玉をリンが指でいじくり回す。落としてしまったのか木製の台座までもが粉々になっていた。
「早いところ直さないとですね。相変わらずシルさんは防御魔法が苦手なようで...」
「その代わり、支援魔法には自信あるんだから良いでしょ?あんまりウダウダ言ってるとこの小さな望遠鏡もこわれちゃうかも...ね」
互いに横目で相手を確認するのだが、バチバチと静かに二人の間では音が鳴る。
「やめておきましょうよ〜。私達がここで争っても何も生まれませんしね」
「逃げるの?」
「まさか。私が逃してあげるんですよ。命拾いしましたね。でも、私が大事にしてる望遠鏡を壊したらどうなることやら...」
笑顔を浮かべ血生臭い殺伐とした話しをしているうちにリンの掌の中で水晶が元の形に戻っていった。
「時間かかりましたけど、戻りました〜」
「映像写すから、防御魔法での保護はお願い!」
「はーい〜!」
さっきまでの牽制が嘘のように阿吽の呼吸で状況把握に努める。
リンが庭まで出てきて、防御魔法で水晶玉を保護しながらシルが手を翳し、支援魔法で爆心地のリアルタイムの映像を投影した。
「お!爆風が丁度引いたところみたい。シイナの子の困惑した表情を見ると無意識にやっちゃったな」
「これ?シイナちゃんがやっちゃったんですかね?」
「そうじゃない?他に原因がなさそうだし。まぁ、あんなに取り乱したのを連れてくるには時間かかるし、私も手伝いに行くかな?」
水晶から手を離し、背筋を思いっきり伸ばすと体のラインが服に浮き出る。
「あ!後、急いで宿の中に戻って下さい!」
「ん?何に備えるの?」
悠長にシルが答えるのに苛立ち、急いで身体を引っ張って自分に近づけた。
パチンと指を鳴らして半透明の三角錐のバリアを張り、身を屈めた。
「ちょっと!?何?」
頭をバリアにぶつけたのか頭を摩りながら長い脚をくねらせながらグラビアアイドルのようなポーズを取る。
ド、ドガん!
鈍い衝撃波がバリアを突き抜けて来た!
そして、雛野が迎えに行っていたリザードマンを抱えてお地蔵様の前に佇んでいた。
「どうにか間に合ったー!」
額から噴き出る汗をかいてリンが爽やかに叫ぶ。
「何コレ?え?地面に落ちてた石が爆ぜたんだけど?」
落ちてきたものをシルが見るとようやくそれが石ではないと理解する。
「なんでお二人とも外にいるんですか!」
「それより、雛野は大丈夫なの!?生身で?」
シルがリンのバリアから出ると雛野の身を案じる。
「問題ありませんよ。さっきのは私の空間魔法の余波です。私はまだ未熟で所縁のある物が繋いでいる所にしか行けないし、衝撃波を出しちゃうから宿屋の結界の中にいて欲しかったんですけどペシャンコにならなくて良かったですね」
まるで他人事のようにぼやいた。
パリンと半透明のバリアが粉々に砕けていき、リンの顔が青くなっていく。
「ちょっと!そんな大事な事教えといてよ!危なく内臓ぶちまけて死んじゃうところだったわよ!?」
それを聞きシルが喚き散らす。
「まぁまぁ、運良く助かって良かったじゃ無いですか。生きるか死ぬか、二つに一つでしたしハーフアンドハーフだったんですよ」
「半分の可能性で死んでたんじゃ無い!?まだピチピチなんだから死にたく無いわよ!」
半泣きで雛菊の襟を掴むと体を思いっきり前後に揺する。
「えー、ちゃんと言っときましたよ?多分リンさんに。リンさんのおかげで死ななくて良かったっですね」
そう聞いてリンの方を見るのだが、フルフルと顔を横に振っていた。
「お客様に捧げる優しさをスプーン一杯で良いから従業員にも注いで!」
「それは後で話し合いましょ?今は一刻を争います!」
体が揺さぶられているせいか声もダブって聞こえる。
「せめて、一発殴ったら離してあげようかなー!リン!私の事を止めても無駄だからね?」
しかし、声は何も聞こえてこない。いつもなら弱々しくもこういった無茶を止めてくるのだが、今回は一番大きな無茶に限って止めてこない。
「ねぇ?あんたが止めてくれないと私が振りかざした拳を解けないんだけど...」
振り向くと具合を悪そうにして息を荒くするリンがうつ伏せに地面に伏せていた。
「どうしたの!?ねぇ!しっかりしてよ!?再生の力を司ってるんでしょ!?なんでそんなに具合が悪そうなのよ!?」
抱き起こし、気道を確保する。ひゅるひゅると細くなった呼吸音が身体を通って鼓膜に伝わる。
「防御魔法は基本的に呪いの一種。自分に好意を持っている生物の寿命を対価にしたり、自分の大事なものを対価に出す。リンさんは見たところ魔力を対価にしてたから疲れたみたいです」
「でも、無限の魔力を生成するグリーンドラゴンがなんでこんなに消費してるの!?」
リンの手を握りながらボロボロと大粒の涙を流す。強気な見た目からは想像できないほど顔を歪めていた。
「私のせいだ。私が素直にリンの言う事を聞かなかったから...だから、リンはここで死ぬんだ」
目が赤くなるまで指で擦り涙を拭う。普段の強気なイメージが壊れる程鼻水を垂らし、顔をジュグジュグにして鳴き散らす。
「私のせいにはしないんですか?黙っていたのは私なのに?」
「結果的には私のせいなの!私が悪いんだよ!」
駄々をこねる子供のようにシルが言う。
「じゃあ、二人して悪者になりましょう。空間の魔法が未熟なのに長距離魔法を使って巻き込んだ私も悪いしシルさんも悪い。起きた事は変えられない。でも、未来は今の努力でどうとでもなる。さぁ、二人を救う悪徳な治療を始めましょう!」
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