第20話 食欲全開
第20話 食欲全開
『この料理変わった味付けだね。煮込むと味が変わる。しかも、辛いや!』
『面白いでしょ?本当は穀物と合わせて食べるのが良いんだけどね。それと、最低限俺たちの話はしたんだからこれ以上は何も話す気は無いよ』
『えー!強情だな。ここまで来たら話しちゃえば良いのに』
いじけたのか、頬っぺたをプックリと膨らめてこっちをじっと見つめるのだが教えたくないと言う気は変わらない。
『もしも、ホーネットを美味しく調理してくれるならぽろっと話しちゃうかも』
絶対にそんな事できないだろうとタカを括りながら話す。
『本当に?じゃあ、ちょっと待ってて!』
その言葉にリザードマンの女の子が表情を輝かせる。
『良かったら、コレ使え!』
足元に置いておいたスペアのランプを手渡し、リザードマンの女の子は勢いよく部屋の外へと掛けていった。
『さて、そろそろ二人が起きる頃かな?』
ぐっすりと眠っているシュロウとセシンに目を向ける。丁度、シュロウが目を覚ます所だった。
『って、事が寝てる間にあったんだけど何か質問とかはあるかな?』
『つまり、要約するとこの滅茶苦茶強いリザードマンの女の子は砂人で俺たちが盗賊でない事がバレて一般人である俺たちは無許可で豪魔地帯に入った事がバレてしまった。その処遇は、ホーネットを丸噛りするような超ドsの沙汰次第か。はぁー、泣けてくる』
『まぁ、ポジティブに考えよう。お前はもう盗賊っぽい喋り方で話さなくて良いんだから肩の力は抜けるだろ?』
『そうですけど、処遇が怖いですよ』
『法を犯したのは俺たちなんだからそれは甘んじて受けよう』
『話は済んだ?』
奥に行ったリザードマンの女の子が帰ってくる。
『大体の状況は飲み込めたよ。改めて、大蠍から助けてくれてありがとう!』
『気にしないで。そんなことよりも、あれだけ嫌っていたホーネットを食べる覚悟はできた?』
『いや、それはまだ...不安と言うか...』
目を覚ましたばかりのシュロウが目を逸らす。
『えー!何が不安なの?』
『だって、ホーネットには毒があるんでしょ?リザードマンならともかく、俺たちには解毒する機能なんて付いてないから...』
『ん?そんな事?今ちゃんと毒抜きしたから大丈夫!』
『お前、ホーネットに埋もれた時不自然な二つの穴がある事に気がつかなかった?あれが解毒された後だよ?』
それを聞いた途端にシュロウの脳内で一つの考えが浮かんだ。
『その解毒ってもしかして?』
『そう、私牙で毒を吸って無効化させたの』
可愛らしい口を開くとその可愛さの影もない図太い牙が生え揃っていた。
『だから、解毒器官がなくても大丈夫!そろそろ焼けたと思うから寝てる人を起こしといてね』
そう言って奥へと再び消えて行った。
『じゃあ、俺セシンを起こしてきます。ここで逆らったらダメな気がする』
『それには同意だ』
無理矢理休んでいたセシンを叩き起こし、3人が鍋を囲い丸太の椅子に座る。
シュロウとセシンが向かい合って座っているのだが、二人の表情はかなり強張りながら話をする。
『自分を痛めつけられだ魔物を食べるんだから複雑な気分だよな』
シュロウがボソッとつぶやいた。
『ちょっと〜、ナイーブな所突くのやめて下さいよ!外套の中ではお腹さすってるんだから!』
『セシン、もう腹を括ろう。俺も今外套の中で腹をさすってる』
『全くもう。因みに俺も今腹をさすってる』
『『何であんたまでさすってるんだよ!?』』
特に嫌っていないように見えたアニキ格の男まで何故か摩っていた。
『だって、何か怖くて...』
3人が何とも言えない空気に包まれる。
『お待たせー。良い感じに焼けてたよー』
焼くという単語からして、ホーネットをぶつ切りにし、それを焼いただけの料理を想像して、リザードマンの少女に目を向けると座った膝の上に油紙を敷き、その上には目を見張るものが調理されていた。
サバサバとしている性格から考えるとそのまま焼いてまだ痙攣している生々しくてグロテスクな見た目の料理とも呼べないような物が出てくると思っていた。
良くても、ホーネットの姿を残した素揚げだったのだが、膝の上にあったのは全く違う物だった。
『何それ?え!?本当にホーネット?』
『コレは旨そうだ』
『ちょっと、俺にも見せて』
体を乗り出して覗き込むシュロウとセシンを掻き分けて覗き込んだ。
そこにあったのはホーネットの太い脚なのだが縦に切られ、断面には黄金に輝く金粉のような物が塗られていてそれが良い塩梅で焦げ、肉が鳴いていた。
『何それ?どうやったの?』
興味が湧いたのか食い気味にシュロウが話す。
『コレ?ホーネットの脚を千切って、外殻がお皿になるみたいに半分に切る。断面に、ホーネットの卵巣から取り出した卵を脳味噌で発酵させた合わせ調味料を塗って焼いただけだよ。これなら食べられるかな?』
心配そうなその言葉も、3人が滝のように流すヨダレを見た途端に杞憂に変わる。目をキラキラしてと輝かせて今にも齧り付きそうであった。
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