第5話 すれ違い

第5話 エルフ姉妹の温泉事情 すれ違い

 自然と共に生まれ、長寿を誇るエルフ。今回はそんな二人のエルフ姉妹のお話。


緩やかな山道を歩いて下る二つの影があった。先頭を歩いている者は上機嫌で足取りが軽いのだが、それを追うもう一つの者の足取には余計な力が入りピリピリとした雰囲気が伝わってくる。


『姉さんちょっと待って。そっちは家がある方じゃ無いよ。どこに行くの?』


色白の肌に肩までの金髪。眉間にシワを寄せ肩と背中を大きく露出し、背中には簡素な弓と矢を携え膝ぐらいまでの緑を基調としたスカートから華奢な生脚が覗いている。足には分厚い革を鍛えて作られたサンダルに近い履物を履いていた。


『ん?教えなーい。でも、良い所よ。とっても楽しいと・こ・ろ』


 色白の髪にコシを優に越す金髪。緩くウェーブがかかり、表情も柔らかく悪戯をする様に少し笑って答える。 妹とは対照的に白に近いほど淡い薄緑の飾り気のないワンピースなのだが、手元の布が花のように大きく開いており、それだけで十分な優美さを醸し出し、妹よりも女性らしさは数枚上手に感じられた。



 足元は少しくたびれた革の靴を履いており、手元のザルには何種類もの山菜が積まれていた。 蕗の薹、タラの芽、うど、こごみ、アイコ、アカザ、青こごみ、赤こごみ、青みず、赤みず、あさつき、あざみ。春を彩る旬の山菜がこれでもかというほど摘まれていた。


どこに連れて行かれるのかわからない少し不機嫌そうな妹と、鼻息まじりにルンルン気分で呑気な姉の二人で、見た目すらも対照的である。二人とも、山を歩き慣れているようでどんどんと山菜を摘みながら山を降りる。


『あ、ナズナ山菜は根っこからとっちゃいけないし、一ヶ所から沢山取っちゃいけないんだよ...』


『え!?でも、沢山取らないと今日はダメなんだよね?』


『そうなんだけど、山菜とかはいっぺんにとっちゃうと来年取れなかったりするし、後から取りに来た人がガッカリするでしょ?だから戻そ。』


ナズナの手からゼンマイを受け取り、そっと根元に戻す。緑色の淡い光が伝わり茎が繋がり再生していく。


『じゃあ、姉さんが山菜集めしてよ。川で休んでるから!』


『あっ、ちょっと...』


姉の静止に聞く耳持たずにその場を離れる。しばらく歩くと、渓流が流れておりサンダルを脱ぎ捨てて、背負われた獲物を下ろし、足を水に付ける。


『はぁー、気持ちいい!』


ゾクリとした悪寒にも近い快感が電気のように体を駆け巡る。鳥肌が立ち体が震えるのだがそれが良い。


『お姉ちゃん、私に山菜採りなんて無理。私には弓の腕しかないんだから。それはお姉ちゃんも知ってるでしょ』


 はぁーと大きなため息を吐き水面を見つめる。そこには姉とは違い髪の毛が短く、余り女性的ではない少女が悲しげに浮かんでいた。


『ダメだな、私。嫌な子だ。』

 

キャーーーーーー


感慨深く浸っていると鼓膜を張り裂きそうな甲高い叫び声が聞こえてくる。幼少期から聞き馴染みのある姉の声だ。


『お姉ちゃん?』


 後ろを振り向くと、声に驚いた鳥の群れが飛び去りただ事ではない事を知らせる。川から足を出し、サンダルをすぐに履き弓と矢を持ち、木々を枝から枝へと飛び移っていく。底の厚いサンダルを履いているとは思えないほどの身体能力だ。


(どこにいるの?お姉ちゃん?)


 さっきまでいた所に戻るが姉の姿はない。地面に付いた足跡を頼りに辺りを探すしかないのだが、手遅れになっては元も子もない。


『そうだ。あの手を使おう』


ポケットの中から小さな蝋石を取り出す。そこら辺に生えていた葉っぱを何枚か摘むとそれに何かを書き出し、息を吹きかける。すると、葉っぱが小さな緑の服を着た四人の小人になっていき、自立して歩き出した。


『何でもいいから、姉の痕跡を探して!』


 そう言うと、小人達は了承したのか足早に散り散りになって山の中へと去っていった。再び枝から枝へ飛び移り姉を探す。しばらくすると、どこか遠くの方で笛のような音が聞こえてきた。


『あっちか!』


 再び木の枝に飛び移りその音が聞こえる方向へと走りだす。


 すると、そこには姉がさっきまで持っていた竹で編まれたザルと摘まれた山菜が大きな木の木陰に置かれていた。小人がそこで草笛を吹いているのだが、開けた辺りを見渡しても姉の姿はない。


『姉さんーーー!近くにいたら返事してー!』


 これまでかと言うぐらいの大きな声で叫ぶのだが、辺りには静かさが虚しく木霊する。いつもは恵みをもたらしてくれる風だが、これほど風に揺れる木の葉を疎ましく思ったことはない。


『どこにいっちゃったの?』


 キョロキョロと探し回る背後に迫る影があった。音も立てずにゆっくりと忍び寄る。手には何かが握られていており、細心の注意を払ってた。


 ナズナが頭に違和感を感じて振り返った時にはもう遅い。回避することのできない理不尽がナズナを襲う。

 

 背後から迫ってくる者が手に持っていた何かを頭の上に乗せられてしまったのだ!

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