第12話 凄い探窟家
「ん、今日も楽勝だったね〜」
Aランクダンジョンを攻略し、いつものように報酬を机の上に広げる。
ククルとミーシャ、それと俺を加えた三人でパーティーを結成して二週間が経過したが、未だ苦戦無し。
過去の因縁を克服したミーシャが思いのほか強かったのだ。
最初ククルは懸念していたけど、足を引っ張りメンバーを危険に晒すことはなかった。
「そろそろいいんじゃねえか?」
「ウロボロス?」
「それそれ」
「そうだねぇ〜」
ククルはさっと俺たちを見て、ポンと手を叩いた。
「第一層だけなら」
「うっし」
♧♧♧♧♧♧
世界最高難易度迷宮『ウロボロス』の近隣に構える大都市──ラドールに転移する。
迷宮攻略最前線ともいうべき街なだけあって、ギルドに近づかずとも行き交う人々はみんな
「はぁ〜すごいな。みんな僕らと同格以上の探窟家だ」
「うん、この街にいる探窟家は『ウロボロス』への挑戦資格を持ってるからハイレベルだよ〜」
ミーシャが目をキラキラとさせ、ピョンピョン飛び跳ねながら辺りを見渡している。
俺も正直感嘆が漏れそうな気分だ。
どいつもこいつも語彙力を失いそうになるくらい凄い武装をしている。ククルもそうだけど、『ウロボロス』を縄張りにしている探窟家はまるでワケが違う。
ほら、あいつ。
全身鎧に
「じゃあ、みんな
「あ〜、でも、どうだろ凄いのかなぁ。この辺うろついてるのは第一層すら突破出来てない人たちだからね」
「「えっ!?」」
ククルのあっけらかんとした物言いに、俺とミーシャは同時に声を上げて顔を合わせた。
ふいっと咄嗟に顔を背けるミーシャを訝しみつつ、ククルに続きを促す。
「なんでそんなこと分かるんだよ?」
「そりゃ分かるよ。とくに、この辺の人達とは顔馴染みだからね〜。声かけてみよっか────やあやあ、バルトー!」
行動力の鬼かよ……ククルさんや、知らない人連れてこないでくださいな?
「おおっ! ククルさまじゃないですか! お久しぶりですね!!」
「おっすおっす〜。調子はどうかな??」
ククルが声をかけるとパーティーのリーダーっぽいフルプレートの大男は甲斐甲斐しく頭を下げて、でへへとデレながら頭──鉄の兜を掻く。
「てんでダメですよ。同期で一層突破出来てるのは未だにククルさまだけです」
心底参った──て感じの口ぶりだった。
ゲームだと第一層はどうなってたっけ。
な〜んかこの辺の『ウロボロス』に関しての記憶が欠落してるんだよなぁ。
メインキャラクターの居場所とかは分かるんだけど……『ウロボロス』の防衛機構に関係しているのだろうか。
俺の思案顔が余程おかしかったのかミーシャが服の裾を引っ張ってくる。
「……あの人さ。もしかして『黒鎧』のバルトさんじゃないか?」
俺にだけ聞こえるような小さな声だ。
「知らねえな……どうかしたのか?」
「くそーっ、知らないか! 仕方ないっ、僕だけで行ってくるよ」
そう言ってミーシャは大男の元へ小走りで向かった。
「あ、あの──!」
「んん? どうした嬢ちゃん、いや少年か」
バルトは新調したベレー帽を見て言い直す。
「バルトさん、ですよね! 『黒鎧』の!!」
「……あー、そうだが?」
「ぁ、握手してください!!」
「…………っ、くはは、なるほどなるほど、俺のファンか! この街に来てからめっきりいなくなってしまったと思ったが、嬉しいねぇ──っ、ちょっと待ってくれよ!」
余程久しぶりだったのか手袋を外すのに手こずるバルト。
なんとも微笑ましい光景だ。
「ところでククルさま。この子が例の相棒ですかい?」
「うーにゃ、従者じゃなくて、本当の仲間ではあるけどね。大会でわたしに勝ったのはあっちの──」
両手でがっしと握手しつつバルトはこの街の多くの探窟家が聞きたかったであろう疑問を口にする。
これにククルが指さして──
「あ、エルくん。今ド派手に──」
「仰々しく紹介すんのはやめてくれ」
じゃじゃーん! と紹介されるよりも早くバルトの前に立つ。
こうなるとバルトは興味深そうに俺を下から上まで見定めて、ほうっと息を吐いた。
「素晴らしい、俺が今まで見てきた中で一番強そうだ」
「……」
「でしょっ、わたしの目に狂いなし!」
「やっぱエルも凄いのかぁ!」
惜しみない賞賛が心地よく俺の心を抉ってくる。
慣れていないもんだから「そ、そうかよ?」なんてぶっきらぼうに返してしまう。ぜってーキショい感じで口角上がってるわ。
「いやぁ本当にお強そうだ。よければ手合わせ願えないか?」
「……」
あ〜、そうきたか。
もちろん断──れないな、この人しれっと鎧脱いで殴り合う気満々じゃんか。
無貌の偉丈夫は何処行ったよ。
やれやれ……なんて傲慢な仕草をする気はない、
「やっちゃえエルくん! わたしの
「……っしゃあ。いいぜ!」
なんならやる気バッチリだ。
大剣を背負ったまま戦いの構えを取る。
「ハンデのおつもりか?」
「そのつもりはねえよ」
自重が重くなればその分攻撃力が増す。
そして俺の動きは、大剣の重さによって鈍ったりはしない。
「なるほど──では、遠慮は無用だな!!」
左脚を少し下げ顔を後ろに逸らし、放たれた右ストレートに鼻先を自ら触れさせる。
意表を突く先手必勝の一撃を逆手に取られたことを悟ったバルトはニヤリと笑みをこぼす。
薄皮一枚のところまで引きつけて、さらに上体を後ろに倒し──予め用意しておいた右脚を振り上げてバルトの顎を爪先でコツンと小突いた。
勝負ありだ。
「俺の勝──」
「うおおっやりやがった! 大型新人だぜ、ありゃあ!!」
「あの青年、かなり出来るなぁ。ククル様はイイ人を連れてこられた」
「ふふっ、今後が楽しみね」
────
──
いつから集まっていた……いや、最初からか。
盛大な拍手が周囲の
賞賛の声も敏感な耳が捉えまくる。
ああ、そうだった──この街の住民は全員探窟家。
街に入ってすぐのエリアは──
「……実力差がはっきりしていたからせこい真似をしたのに、ははっ、このザマか。きみは本当に強いな。完敗だ」
「あ、ああ……」
頭を垂れるように差し出された両方の手をしかと受け止める。
手袋越しに体温が流れ込んでくる。
「嬉しいよ。負け犬に認められても自慢にならないと思うが、きみ──きみ達なら
手を離し、バルトはパーティーメンバーに声をかける。
「どうやら新しい風が来たようだ。もう、ここで新人に洗礼を下す必要もない──俺たちの役目は今この瞬間に終わったんだ」
彼らは抱き合い、互いを称え合う。
俺は彼らの道程を知らないけれど、そこに確かな絆と紡いできた歴史が垣間見えた。
その昔、夢に見た望郷。
目が痛くなるほどの光が、手の届く場所にある。
「──ククルさま。俺たちはこの街を出ることにします。もう、出来ることはないので」
「そう……寂しくなるね。今までありがとうございました」
「いえいえ、元々
バルトはミーシャの華奢な肩に手を置いて年輪の刻まれた顔でくしゃっと笑って見せる。
「また一から小さな栄光を積み上げていきますよ。子ども達に夢を見せてやるのが俺たちの仕事ですから」
彼らは去ってゆく。
俺がバルトに勝った時以上の喝采に包まれて。
「なぁ、ククル」
「んん?」
「やっぱ凄い探窟家じゃねえかよ」
「……ん、そうだね」
絡んできた先輩探窟家を華麗に撃退する。
それだけのイベントだというのに……。
いつぶりだろうか。
6年ぶりに、暖かく心臓が震えた気がした。
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