第20話 余計なお世話
メリーの作戦が何なのか、ウィリアムは理解出来ずただ流れに身を任せるしか無かった。だが、一向に向かう先が読めず、選ぶ言葉の一つ一つが地雷の様にさえ感じられ、胃がキリキリと痛んだ。また、エリアリスの『想い合える相手』という言葉にウィリアムは泣きそうな心を抑え付けていた。さて、そんなウィリアムの心の声を聞いてみよう。
うぉぉぉぉぉ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
レナウスが誰を好きでも、嫌いでも私には関係無いし国境も年齢も性別もこの際どうでも良い!
だが断固否定させてもらう!私がメリーを想っているだと?今にも軍部の食堂で食べた物が吹き出しそうな程気分が悪い!
分かっている!これはエリアリス殿に恋愛に目を向けて貰うためのアクセントなのだ。しかし、もし、この様な私の精神を抉る様な攻撃ばかりを打ち込んでおいて、エリアリス殿の心を向けられないとすれば私はメリーを許さん!許さんぞ!
怒りを滾らせるウィリアムを尻目に、メリーは悪戯な微笑みでエリアリスに視線をやった。どぎまぎと、恋愛に不慣れなエリアリスは頬を薔薇色に染め、指先をモジモジと絡めてはカップの縁をなぞったりと所在無さ気である。
「ふふ、エリアリス様ったら!私達、親同士が決めた許嫁でしたけれど、ウィルと恋愛が出来て良かったと思っていますわ!ですが、他に良い男性が現れたならどうなるか分かりません事よ?エリアリス様だって恋愛を楽しむべきですわ」
「えぇ?婚約破棄などおやめくださいませ。メリー様の名前に傷が付いてしまいますわ。それに……恋愛なんて」
少し悲しそうにメリーを見つめるエリアリス。忘れかけていた現実が、ピンと伸ばしたその背筋をスルリと撫でて【お前など幸せにはなれない】そう囁いた。俯き、働けるだけまだありがたい事で、多くの令嬢達が楽しむ【恋愛】などをするなど自分には勿体無い事である。そうエリアリスは思った。
「エリアリス様、良かったんですよ。婚約破棄されて」
「お、おい!メリー!」
「だってそうでしょ?もしも、第二皇子との婚姻がなされていたら今頃楽しい事も幸せを感じる様な事も出来ませんでしたわ!あの第二皇子がエリアリス様を慮る事は無かったでしょうしね」
メリーの言葉を、エリアリスは考えていた。もし、第二皇子妃となっていたならどうだっただろうか?きっと今頃1人部屋で、来る事のない第二皇子を待ち続け、皇妃や義姉である皇太子妃にいびられる毎日であっただろう。心から笑い、些細な事に幸せを感じる今の様な日々は送れなかったに違いない。
「そう……ですね」
「エリアリス様、今してみたい事などはありませんの?」
「してみたい事ですか?」
「えぇ、街に出て買い物をしたり、お友達を作ってお茶をして恋愛話に花を咲かせたりしてみたいとはお思いではないのですか?」
「恋愛……」
その言葉に考え込むエリアリスを、ウィリアムとメリーはごくりと生唾を飲み込み凝視した。もしも、エリアリスが恋愛に前向きであればウィリアムにも可能性はあるのではないかと思った。
恋愛……私に出来るでしょうか?いつか、メリー様とウィリアム様の様な事を私が?うーん。なかなか想像出来ませんね。
「どうでしょうか……恋愛が何なのか、私にはまだ分からない事ですので何とも」
「ウィルの様な殿方が、エリアリス様を乞い慕うとしたら如何ですか?楽しいと思いますわ。恋愛も」
「ウィリアム様の様な方でございますか?」
想像するエリアリス。心臓が胸筋を破って飛び出さんばかりにバクバクと緊張するウィリアム。『どうだ?どうなんだ?』食い入る様にエリアリスを凝視するメリーはエリアリスの言葉次第では、明日から早速ウィル×エリアリスをゴリ押しする算段を立てていた。
「そうですね……ウィリアム様の様な方でしたらきっと、メリー様の様に幸せになれるのかもしれませんね」
フワリ。ニコリ。
微笑むその姿はファンファーレの様にウィリアムとメリーの脳内で、パレードの開始を告げる。
『キターーーーーーー!』
『うぉーーー!我が人生に一遍の悔いなーーーし!』
テーブルの下では、メリーとウィリアムが汗でベタつく手を握り合い、力一杯上下に振りつつ、メリーは足をバタつかせた。
「ですが、まだまだ
「そんな事はありませんわ!いつだってそのきっかけは身近に転がっておりますが、それに気付かなければ永遠に恋愛は出来ません事よ?」
「きっかけ……ですか?ふふ。でも、私はいま皆様の事で頭がいっぱいですからね」
「では、ウィルと私がお教えいたしますわ」
「え?」
「な、何を教えるんだメリー」
「それは秘密です!」
「「秘密?」」
ここまで恋愛をゴリ押ししたなら、後は明日から兄様の大人の男の魅力をアピールですわ!うふふ、うふふふふ!はぁ、沸るわぁ~ウィリアム兄様に次第にトキメクエリアリス様を見られるのね!きゃーー!心躍るわぁぁ~!
またもや何処から取り出したのか、メリーは扇子を取り出すとばさりと広げて興奮を噛み殺す口元を隠した。彼女の脳内には、薔薇を背負いエリアリスに微笑むウィリアム、そんな彼の手を取るエリアリスのスチルが浮かんでいた。
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