没落寸前の伯爵令嬢はトキメク恋愛世界の住人を観察する
咲狛洋々
リハーサル
第1話 現実はこんなもの
お初にお目にかかります。
私はエリアリス・テルメール、16歳。
没落一歩手前のテルメール伯爵家の長女でございます。
何を隠そう私、先週までは我が国ヤルンセン帝国の第二皇子の婚約者でございました。
訳あってその婚約も解消と相成りましたが、私は気にしてはおりません。
お会いした事も御座いませんのに、この様な事を申し上げて良いのか分かりませんが……お相手の第二皇子、周囲からの噂では、性に大層奔放で国政にもまるっきり興味の無いと聞き及んでございました。そうなりますと、第二皇子の事をどう頑張っても夫とお慕いする事は困難でございました。姿絵を拝見しましても、お茄子につぶらな目がちょこんと乗っかった様なご容姿。まぁ、お相手は皇族でございますから、伯爵家として文句を言える立場ではございません。ですが、本音を申しますと流石にがっかりと致しました。ですので、婚約破棄。大変結構でございます。しかし、ここで喜びを表に出す事は不作法でございましょう?とりあえず泣き咽ぶ振りをその場では致しました。ですが、えぇ、内心では力強くガッツポーズとやらを致しておりました。
「ひゃっっっっっっっっっっふぅーーーー!」
領地に戻りました日は、一日中部屋で小躍りしたのは言うまでもございません。
しかし、本当の喜びを知ると小躍りしたくなると本には書いてございましたが誠であったのですね。
私、自由という物がこんなに心躍る物であるとは思いもよりませんでした。
これからはお妃修行も勉強も、皇太子の婚約者であるモンフェルノ伯爵令嬢からの嫌味と、理由を付けては行われる体罰をこれから受ける事が無くなるかと思えば、小躍りの一つとてしたくなるという物ではございませんでしょうか?
しかし、心躍らせている場合では無いのも事実なのです。
なぜなら、我が家が没落の崖っぷちに立たされている事に変わりはないからでございます。
少し前のお話をさせて頂きます。
それは、私が第二皇子の婚約者となった経緯でございます。
私の父であり、テルメール領の領主モントール・テルメール伯爵。
温厚で実直、領民にも慕われる優しい父でございます。
ですが、政治や駆引きが苦手でございました。
領地運営はそこそこの手腕を発揮しておりますのに、国政に関わると何故か途端に昼行灯となってしまうのでございます。ですがそれは、下手に派閥に関わる事で私や妹達を犠牲にしたくはない、父なりの芝居であったです。
ですが、やはりどこか抜けている父は、その芝居が自らの首を絞めるとは思ってもおりませんでした。
結局、派閥と距離を置く父は皇帝陛下にとって不安要素の少ない臣下と映ったのか、月の半分は王都に呼ばれる始末でございました。
「テルメール伯爵、そなたの所には娘が3人いたな?」
「……はい」
「なんだその顔は……余はまだ何も言ってないではないか」
「どうせ、娘を王子の誰かの嫁にって感じでは?陛下」
「……うむ。いやさ、そうなんだけど。そうなんだけどさぁ?そうストレートに言われるとなんだがさぁ、申し訳ない事を余がしているみたいじゃあないか」
「はぁぁ。どうせ私が嫌でございますと申し上げても決定事項なのでございますよね?」
「う、うん。あ、ごめ、ごめんね?なんか分かんないけど、マジごめんてー!だってさーー皇妃がどうしても君の娘が良いって言うんだもん。俺さ、あいつの実家の後ろ盾あるじゃん?強く言えないのよぉ」
「という事は第二皇子でございますか」
「う、うん。あ、嫌だった?嫌?あ、じゃあ第五皇子は?まだ小さいけどさ、好きに育ててくれていいしさ、好みの男に育てられると思ったら結構良くない?」
と、まぁこんな感じで、流石に5歳の皇子との婚約は難しく、私は第二皇子の婚約者となった訳でございます。
ですが、皇妃様が私を指名したのには訳がございました。
それは皇妃様のお母さまのご実家である、隣国ケッセドルドのベルモンド公爵家には多額の負債があり、その補填の為、ベルモンド公爵家と近い、我らがテルメール領の鉱山に目を付けられたからでございます。
その鉱山からは良質な鉱石と、天然ガスを産出しておりまして、当然我等が領の貴重な収入源でもございました。
父はその採掘権だけは絶対に譲れないと固辞しておりましたが、皇妃様と隣国からの圧力には勝てずとうとう手放してしまったのでございます。その対価として頂戴致しましたのは海運事業のいくつかと、鉄道事業でございましたが、これらは既に赤字を垂れ流し黒字へと転換させる事はもはや困難な状態の価値の無い物ばかりでございました。
案の定、簡単に我が家は傾いたのでございます。
「エリアお姉さま、これから私達どうなってしまうのかしら……」
「マリー……そんなの、私にだってわかりませんわ」
「エリア姉さま、マリー姉さま!姉さま達には、新たなる事業を打ち立て領地を守って、女伯爵となる……そんな案はございませんの?」
純粋な末の妹のアルマ……一体どんなご本を読んだのかしら?
私達は刺繍やダンス、ピアノやバイオリンを習っただけで、政治経済は学んでおりませんよ。
何も学んできていない私達が急に閃き、領地を救う。そんな事、出来る筈ないではありませんか。
「アルマ……あなた何を言っているの。そんなの現実で起きたりはしなくってよ?」
「えー?マリー姉さまでしたら男勝りだから新しい作物を作ったり、騎士団に入団して武功を上げる。そんな事も可能そうですよ?」
「……現実を見なさいな。アルマ」
そう、現実はそれほど甘くは無いのです。
何せ、私達三姉妹も、元婚約者の第二皇子も本に出てくるような文武両道で眉目秀麗でもないのですから。
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