第4章 決戦!

第61話 戦闘ではなくもはや戦争だ

「魔獣を召喚した!? いったいどうして……!」


 無数に現れた魔獣にジップオレが呆然としていると、いつの間にか隣にいたミュラが言った。


「ユーティが魔人だったということです!」


「ま、魔人!?」


「そうでなければ、あれほどの魔獣を召喚なんて出来ません!」


 上空には、ざっと見ただけでも数千匹の魔獣が出現している。


 召喚魔法は人間には扱えない。理論としては確立しているのに、なぜか発現しないのだ。おそらくはダンジョンの影響だろうということなのだが……


 しかし召喚魔法が、ユーティの固有魔法だという可能性は残っている。


「固有魔法の可能性は!?」


「だとしても、強力な魔法で都市にあだなすならば魔人と見なすべきです──来ますよ!」


 ミュラの声に上空を見れば、いよいよ魔獣が降下してくる。


「くそ! 身体強化コールプス・フォンフィルマーティオ!」


 だが物量戦略ならこちらの得意分野でもある。オレは、魔獣以上の残機を一気に出現させた!


 少し離れた場所で立ち竦んでいたレニとレベッカの元には、尾行していた準本体が、すでに防御結界を張り巡らせている。


「に、偽物がたくさん!?」


「これが、ジップの固有魔法……」


 上空に現れた残機達を見て、レニとレベッカは呆然としていたが、今は説明している余裕はない。


 オレは残機を使って魔獣達を鑑定してみるが──


「──ミュラ! 魔獣達は軒並みレベル70を超えているぞ!」


「レベル70!?」


 つまりあの魔獣一匹一匹が、ギルマスであるミュラより断然強い。中層から上層に掛けて生息する魔獣だ。多頭雷龍ほどではないにしろ、一匹でも街に入られたら甚大な被害を受ける……!


 今にして思えば、多頭雷龍もユーティが召喚したのだろう。天井に大穴を開けるだなんてカモフラージュまでして。だとしたら、ここに召喚しなかったのは──都市攻略には質より量ってことか!?


 そんな無数の魔獣達が一斉に攻撃魔法を放ち、残機が結界で防ぐ。さらに残機達も負けじと応戦を始める。


「ジップ! 増援は必要ですか!?」


 ユーティが本当に魔人であり、伝説通りの力量なら荷が重すぎるが、しかしこの場に冒険者が来たところで太刀打ち出来ない。魔獣相手でも勝てないだろう。


「必要ない! ここはオレがやる!」


「期待していますよ!」


 ミュラは通信用魔具を取り出して、すぐに連絡を始める。


「緊急事態発生! ダンジョン正門に魔人と思われる存在を確認!」


『はぁ! 魔人!?』


 通信機の向こうからカリンらしき悲鳴が聞こえてくるが、ミュラはお構いなしに指示を出す。


「現在、数千匹の魔獣を正門前に召喚され、こちらはすでに交戦に突入! 全冒険者は都市防衛に当たりなさい! 指揮権はカリンに委譲します!」


『りょ、了解……!』


 カリンの声は戸惑ったままだが、それでも疑問を挟むことなく通信を終える。すぐさま街から非常事態用サイレンが響いてきた。


 全冒険者が都市防衛に当たるとはいえ、レベル70オーバーの魔獣を都市に向かわせるわけにはいかない。一匹でも行けば、都市は甚大な被害を受け、死者が出るかもしれないのだ。


 魔獣達の知能は幸いにして低いのか、無数に出現した残機達に気を取られている。いくら中上層の魔獣とはいえこちらの残機もレベル64だ。魔獣一匹に対して複数の残機で戦えば勝てない相手ではない。何しろこちらは数で圧倒できるからな!


 上空を飛ぶワイバーンやグリフォンを至る所で袋叩きにして撃墜し、地上を揺るがすサイクロプスやベヒモスをたこ殴りにしては殲滅する。


 その代わり、森の樹々は薙ぎ倒され炎上しメチャクチャだ。ダンジョン内では森林も重要な資源だがやむを得ない。ここで都市侵攻されては元も子もないのだ。


「まさか……これほどまでとは……」


 オレが張り巡らせる結界の中で、ミュラは呆然とつぶやいていた。


「あなた一人で……ギルド軍を遙かに凌駕していますよ……?」


 珍しく目を見開いているミュラに、オレは苦笑を返す。


「だろうな。これがオレの奥の手ってわけだ」


 目の前で展開されているのは、戦闘ではなくもはや戦争だ。しかも乱戦状態の。


 総勢一万の軍勢が、森林一帯を焼き払うかのように戦っている。ここまでの乱戦だと同士討ちの心配も出てくるが、しかし残機達は、戦闘中であっても経験共有で連携できているからその心配はない。


 それに比べて魔獣達は連携なんて知らないから、結構な数が同士討ちになっている。むしろ魔獣の攻撃を利用して別魔獣の不意をついたり、足場を崩したり、衝突させたりなどの戦術も作りやすい。乱戦ならオレ達が有利だ。


 さらにオレの脳内ではファンファーレが次々と鳴り響き、レベルアップを知らせてくる。さすがは中上層魔獣だけあって、停滞していたレベルもあがるな!


 だがそうであっても、魔人かもしれないユーティに敵うかどうか……


 少なくとも個人戦ではユーティの圧勝なのだ。その強さは尋常ではない。


 オレのように、固有魔法を複数所有している可能性もあるが、召喚と剣技とではその質が違いすぎる。オレが固有魔法を複数所有できているのは、おそらく、それぞれが関連する魔法だからだ。だから複数所有というよりは、残機無限・身体生成・経験共有の三つを合わせて一つの固有魔法と見ることも出来る。


 そして固有魔法ナシであの強さであるならば、ユーティが魔人であることは間違いない。


 だとしたら、なぜユーティは人間の真似をして都市に潜んでいた?


 あるいは魔人は皆、人間の都市に潜んで様子を見ているのか? その理由までは分からないが……


 だからオレは、ユーティと接敵する残機を通して話しかける。


「ユーティ! お前は一体何を考えている!」


 ユーティは無造作に残機を見た。


「ふぅん……偽物の体でも会話が出来るんだ。便利だね」


「んなことはどうでもいい!」


「確かに……今のこの状況はわたしも予想外だった……というより予想以上だったよ」


 そういう割に、ユーティはなぜか嬉しそうに見える。さきほどまでの焦燥感がなくなっていた。戦闘狂か何かなのか?


 オレは眉をひそめながらもユーティに問いかける。


「なぜ喜んでいる?」


「あなたが、わたしの予想より強くなっていたからだよ」


「どういうことだ? オレが強くなればなるほど、お前は危険になるんだぞ」


「それはないかな。今のジップではわたしに──敵わないんだから!」


「──ッ!」


 オレは、ほぼ本能で体を動かす。そしてユーティの斬撃を自身の剣で受け止め、その直後に別の残機がユーティに斬りかかる。


 だがユーティはそれをかわし、残機から距離を取った。


 ユーティにはまだ当てられないものの、少なくとも攻撃は見えたぞ……!


 内心では冷や汗をかきつつも成長を実感するオレを、ユーティが睨んでくる。


「さっきは……本気じゃなかったってこと?」


「さっきだって本気だったさ」


「なら、なんで今はわたしの剣を避けて──あっ!」


 オレの能力に気づいたらしいユーティが、目を見開いて周囲を見渡す。


 周囲では未だに残機VS魔獣の戦闘が繰り広げられていて、そこら中で爆発や雷撃が巻き起こり、阿鼻叫喚と化していた。


 そうして、オレの脳内ではレベルアップのファンファーレが鳴り響いている。


 そんな死闘を繰り広げている魔獣に向かって、ユーティが叫ぶ。


召喚解除ヴォカーレ・レセプティ! 残留魔獣は直ちにダンジョンへ帰れ!」


「せっかくの獲物、簡単に逃がすかよ!」


 オレは、背を向けた魔獣に残機達を差し向けた!

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