第4話 オレが責任を取って、レニを一生養うのもやぶさかではないのだが……

 オレたちが住むダンジョン都市は、敗戦という歴史的経緯もあって、子供の頃から戦闘訓練を叩き込まれる。フリストル市にも、初等部・中等部・高等部という区分けで学校があるが、主な授業は戦闘訓練なのだ。


 何しろ、都市を一歩でも出ればダンジョンで、人を襲う魔獣がウジャウジャいるのだ。日本だと、山中から熊がたまに出てくる程度だから状況がまるで違う。そしてもちろん、魔獣はちょくちょく都市にも入り込んでくる。そうなると、街中でも装備を充実させて、男女の区別なく戦闘訓練を受けるのは必須なのだ。


 そして市民の大半は「いつかは地上奪還」を夢見ているから、戦闘訓練を熱心に行う。追い詰められたほうが人は奮起するらしいが、まさにそれを地で行くのがここの市民たちだ。


 だというのにレニは、まったくもって戦闘訓練に精を出さず、勉学にも励まず、隙を見ては引きこもり、部屋でぼーっと過ごしていることの多い美少女だった。


 幼少の頃は、大きくなったら活動的になるだろうと思っていたのだが……


 前世の記憶を引き継いで転生してきたオレは、当然だが、子供の頃から大人の思考が出来た。


 だから赤ん坊のレニもよく覚えている。オレを抱っこして、生まれたてのレニを両親が見舞いに行ったことがあるのだが、それがレニと出会った最初の記憶であるほどにしっかりと覚えていた。その後のオレは、レニを姪っ子のように可愛がったものだ。お互い子供でも、オレの頭の中は大人だったわけだし。


 日本でのオレは一人っ子で、親戚も遠方に住んでいたから子供と接したことがなかったのだが、レニの面倒を見るにつれ、こんなに可愛い存在だったのかとしみじみ思ったものだ。


 しかしレニが成長するにつれ、オレはだんだん不安になってくる。


 何しろレニは、努力というものをまるでしない怠け者だったのだ。


 初等部に上がるころには「学校に行きたくない」と駄々をこねて、登校初日から不登校になった。


 仕方がないので、オレと同じクラスになることで、レニはなんとか登校するも、授業中は寝ているし、訓練は仮病で休みまくるし。まったくもって他の子とは違う性格をしていた。


 そんなだから友達もほとんど出来ず、いや、良さそうな子が寄ってきても、すぐさまオレの後ろに隠れてしまう有様だった。


 そんな状態が、初等部から高等部までずっと続く……


 フリストル市の学校に落第制度はないので(留年させてまで訓練や勉強をさせる余裕はないのだ)、結果、レニは自堕落なまま高等部二年になってしまう。


 そうして二年時に、学生は適性検査を受けることになるのだが……


 なんの適性を調べるのかと言えば、魔法の適性だ。


 実は、この異世界の住人は全員が魔法を使える。魔法使い系の職種だけではなく、剣士でも盾使いでも魔法が使えるのだ。魔法の専門職もあるが、それは、他職種より魔法のバリエーションを多く使えるという違いでしかない。


 その適性検査は、攻撃系・防御系・回復系の三系統ある。適性検査と言ってもざっくりとしたもので、あとは自助努力でさらなる適性を見つけようって感じだ。日本の高校で例えるなら、文系と理系、あと芸術系とかに分けるための目安って感じだろう。


 その適性検査で、レニは防御魔法が得意と出たのだ──いや、出てしまったというべきか。


 防御魔法を扱う職種は、もっぱら盾使いだ。戦闘時、盾を片手に敵前面に出てパーティメンバーを守る、そんな前衛職である。


 ………………引きこもりのレニが。


 回復系の魔法であれば後衛か、または後方支援でもOKだったのだが……あるいは攻撃系であれば、攻撃専門の攻撃魔導師、略して攻撃師になって後衛でいられたのだが。


 はたまた、レニがちゃんと勉強していれば、魔法研究を行う大学部に進学だって出来ただろうし、人間関係をきちんと経験していれば、公職であるギルドスタッフに抜擢されて、戦場に出るような目には遭わなかっただろうに。


 だというのに、戦場の最前線で前衛をやるはめになるとは。


 ということで、レニはいよいよ、登校拒否児の引きこもりになってしまいました……


 もはや、オレと一緒に登校しようと言っても頑として家から出ようとしないのだ。


 レニの両親も、なだめすかしたり叱咤激励したりするが効果なし。


 やむを得ず、この一年間は、オレはレニの家庭教師として、最低限の一般教養を教える状況となっていた。


 そしてこれは、オレにも責任の一端があるわけで……


 子供の頃からレニを、なんだかんだと甘やかしてしまったというのもあるが、何よりも、オレ自身、努力する姿をレニに見せなかったからなぁ……


 事実、オレは裏ワザを使っていたから、努力らしい努力をしていないわけで……


 さきほど、レニに言われるまでまったく気づかなかったのだが、レニが怠け者になったのは、生来の気質が大きいとは思うが、それを開花させてしまったのはオレなのかもしれない。


 というよりレニは、オレと自分の才能の違いにずっと苦しめられていたのかも……


 だとしたら……確かにオレが責任を取って、レニを一生養うのもやぶさかではないのだが……


 何しろ、幼いころは姪っ子のように可愛がっていたし、年齢が上がってからは妹のように思っていたし。


 それに裏ワザがあるオレなら、この先、金銭的に困ることはないだろうし。


 とはいえ……だ。


 仕事もせず、日がな一日自宅で食っちゃ寝させていたら、どう考えても健康上よくないと思う。心身ともに。


 まだ遊んでいられるなら気晴らしにもなるだろうが、この異世界には、ゲームとかの娯楽はほとんどないし。


 しかもオレは、春を迎えたら、学校を卒業して冒険者になる。そうなるといろいろ忙しくなるだろうから、レニを構ってやれる時間は減ってしまう。その状況になるのがあと三カ月後なのだ。


 そんなわけで……もはやレニの将来が明るくなる見通しがオレには出来なかった……

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