第32話

 



 僕とは正反対の、活発そうな雰囲気のかわいい男の子。それがガルじいの変化した姿だった。

おじいちゃんから子供の姿へ変わったものだから、もはや別人にしか見えない。

髪の色だって、今まで白髪だったから全然わからなかったけど、どうやら本来は明るい水色パステルブルーだったらしい。

よく見たら瞳の色も同じくらいの色である。


 そういやガルじいを間近で見たことなかったし、目が何色かなんて気にしたことなかったや。


 まぁそれはともかく。


「僕の考えた仮説通りですね」

「おい、どういうこった?」


 僕と同じくらいの声の高さにも関わらず、口調がそのままガルじいだからか違和感がものすごい。

でも無駄に似合ってることから、これは僕が慣れてないだけだろう。

とはいえ気にしてても進まないので、不思議そうなガルじいもとい、ガル少年に向けて解説することにした。


「仮説そのいち、変化回数に制限がある。これは同じ状況をガルじいが何度も作っていたので、違うと証明されていました。しかしこれがヒントになったのです」

「……ふむ」


 軽く頷いたガル少年は、納得したような顔で僕を眺めて、彼にとっては随分と高くなってしまった自分の席に跳び上がるように腰掛けた。

なお僕がなにをしているのかというと、うろうろと歩き回りながら説明しています。

実はこういう感じに説明するの初めてだから落ち着かないんです。仕方ないよね。


「仮説そのに、は、さきほど言っていた、違う魔法である可能性です」


 普段の癖なのか、僕の言葉を聞きながらありもしない顎髭を撫でるような仕草をしたガル少年は、そのまま髭を探すようにぺたぺたと顔を触って確かめた。

それで改めて自分の姿が変わったことを自覚したらしく、なんか驚いたような顔をして、それから改めて僕を見た。


「こう考えると信憑性が出て来たな」


 こんな状態でもきちんと思案は出来ているのだから、外見が変わってもやっぱりガルじいはガルじいだ。


「……そのうえで考えた仮説が、そのさん。一日に一度しか変化出来ない」

「…………なるほど……」

「可能性が高いのではと思っていましたが……あながち間違ってなさそうですね」


 もしそうでないなら、ガルじいが当時と同じ状況を作った時に子供に変化しているはず。

しかし変化回数に制限があるだけなら変化しないのはおかしい。

だけどそれなら、僕はなぜ同じような条件で変化したのか、という話になるのだ。


「お前さんはどこでこれに気づいたンだ?」

「キャロライン嬢と会っていても一日に一度だけしか変化しなかったからです」


 彼女との対面は今まで何度もあった。

だがしかし、一度でも変化した日はその後何が起きても変化することはなかった。

ここから推測されるのは、そういうことに他ならない。


「そのうえで分かったことですが……どうやら僕は心拍数の上昇で変化しているようなのです」


 原因というか、これが鍵となっていることは何度も変化を経験してしまえば、おのずと理解してしまった。

正直めちゃくちゃ彼女を愛しているのが自分でよく分かって誇らしいような恥ずかしいような複雑な気持ちである。


「……なるほど、心拍数…………つまりお前さん、婚約者ちゃんにめっちゃドキドキしとるンか」

「はっきり言わないでくださいよ、恥ずかしい」


 なんでこの人は人の気持ちを察するとか、そういう優しさがないんだ。

絶対に楽しんでやってるじゃん本当になんなの。腹立つなぁ。

ジトーっと睨みつけたら、すかさず目をそらしたガルじいが、どっか別の方向を見ながら口を開いた。


「まァ、これはもうちょい検証しねェとな。儂の変化条件と、お前さんの変化条件はハッキリさせとかねェと」


 どう見ても確実にごまかそうとしてるけど、ここは大人な僕が仕方なく折れてあげることにする。本当に仕方ないじじいだな、今は僕と同年代ぽい姿だけど。


「……そうですね、もしかしたら、本当に心拍数が上昇するだけの場合もありますし」

「儂も、体力回復ポーションとかで変化するかもしれねェしなァ」


 若干ホッとしたようなガルじいの様子に、溜め息がこぼれた。

なんか腹立つし、ガルじいが個人的に研究してたやつの中からガルじいだけしか出来ないやつ勝手に公表しておいてやろう。お金は入るだろうから許されるよね。


「一日に一度だけだと時間がかかりそうですが、頑張りましょう」

「そうさな」


 うんうん、と頷きあったところで、ふとガルじいがニヤリと笑った。なんだか嫌な予感がする。


「ところでよォ」

「……なんでしょう」

「この研究で使うポーション代は経費として申請していいンだよな?」

「国費なんですけど?」


 使いまくる気まんまんじゃねーか。


「おいおい、研究なンだから仕方ねェだろ~?」

「そのわりには顔がニヤけてますけど」

「だってこれ合法的にポーション使いまくれるってことじゃん」

「だからそれ国費なんですけど」


 いや言っちゃったよこの人。完全にその気しかないじゃん。なんでそんなにたくさん使うことが前提なんだよ。節約しろよ。


「細けェこたァ気にすンな、つまりそンくらい貢献すりゃいいンだろ?」

「それは、まぁ、そうなんですが……」


 うん。やっぱり何か勝手に公表しよう。使い過ぎれば使い過ぎるだけたくさん公表してやれば少しは懲りるだろうし、貢献すりゃいいとかいってるから、なおさら好都合だよね。これで大慌てしても自業自得だよね。僕知らない。


「大丈夫大丈夫、この儂に任せとけ」

「……わかりました」


 げんなりしていた僕を前に、自信満々にドヤ顔していたガルじいもとい、ガル少年は、次の瞬間に青系の花びらに包まれた。

なんでだよ!? 時間短すぎるだろ!! とぎゃあぎゃあ騒ぎながら元のじじいに戻っていくガルじいを眺めつつ、僕は大きな溜め息を吐き出したのだった。





 

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