第24話
ガルじいは、がはは、と豪快に笑って僕を見た。
「馬鹿だからな、自分達の自論がどんだけ矛盾点ありまくりか一切見てねェんだよ」
「たしかに、この世の全ての人間が同じ技量で同じ練度で同じ成長の仕方をする、くらいじゃないと成り立ちませんね……」
矛盾だらけでもうなんか見るに耐えないというか。
どうしたらそんな思考になるんだろう。もう少し順序立てて思考しないと上になんて上がれないだろうに。
なんか、誰かに似てるなぁ。あ、レイン兄上か。
それに気付いた瞬間、ものすごく納得してしまった。
「ちなみにそいつら、自分よりも名声が高くて世間的に凄いと言われて実績が評価されてる人間のみが天才だと思ってんぞ」
「え、僕皇太子なんですけど」
立場的にはめちゃくちゃ高い所にいるよね僕。だって一応三番目だよ?
なんだろう、僕がいつかいなくなるとでも思ってたのかな。
なんかそんなヤツ他にもいたな? そう、レイン兄上だね。
「子供だから舐められてんだろ、地位しか取り柄がねェ、とかそんなんしか言わなかったんじゃねェ?」
「あ、たしかにそれすごく言われた……」
ていうかレイン兄上にもずっと言われてることだねこれ。
え、やっぱりレイン兄上の仕業……?
どんどんそんな気しかしなくなってきたんだけど……、えっ、あのバカそんなことができる程度には影響力あるんだ……。なんか腹立つな……。よし絶対仕返ししよう。
そうと決まれば何をしてやろうかな。
私室の布団濡らしといてやりたいけどそんなことしたら使用人が罰せられるから、やっぱり正攻法だよね。
今度会う予定の仕立て屋さんは父様の味方だから、ちょっと手伝って貰おうかな。
とか考えていたら同じく思案していたガルじいがおもむろに口を開いた。
「これ皇帝に報告しとくわ」
「えっ、待ってください、どうしてですか?」
「いやどうしてもこうしてもあるかよ、お前さんに付いてる教師がクソだったんだから見直さねェとだろ、勉強も鍛錬も」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
「……そうなんだ……」
見直すべき案件だったのか……そうか……今までずっとそういうものだと思ってたからなぁ……。
「まァいいや、この際だ、魔法具全部お前さんがやっちまえ」
「あ、はい、わかりました」
何がこの際なのかわからないけど、練習にはなるからやってみようと思います。
「出来ました」
「早ェよ」
「なんか出来ました」
「なんでなんだよ」
「わかりません」
「分かれよ」
僕だってこんなにすぐ全部出来るとか思ってなかったですよ。なんでこうなってるんだろう。
「はァ……まァ良い……、見せてみろ」
「どうぞ」
「……腹立つくらいミスがねェな、なんなんだよマジで」
「うーん、やっぱり母の血筋なんですかね?」
それ以外に心当たりがないんだけど、と思ったけど、ガルじいは鼻で笑った。地味に酷い。
「それだけな訳ねェだろ、この国の皇太子は大体訳分かんねェくらい能力高ェんだよ」
「そうなんですか?」
「お前さんの父ちゃんだって、若い頃から天才とか神童とか言われてたぞ」
そういえば禁書に紛れ込んでた昔の新聞で父様の若い頃の記事があって、そんなこと書いてあったような気がする。
ものすごく小さい記事で後半から父様をバカにしてたから腹立って捨てたんだっけ。
「まァ、お前さんは群を抜いて規格外だけどな?」
「ひどくないですか?」
「酷くねェよ、儂がすげェ頑張って作った魔法具の基礎式だぞ? 簡単に改造して簡単に付与しやがってこの野郎」
「そんなこと言われても」
そうは言いつつ、ガルじいはどこか楽しそうだ。拗ねてるみたいな感じだけど。
「マジでなんなのお前さん、神から何の加護受けてんの」
「なんですかそれ?」
固有能力や祝福みたいなものと同じような雰囲気を感じたけど、聞いたことのない言葉だったので素直に聞き返す。
「あァー……祝福受ける際たまーに加護が貰える奴もいるんだが……祝福もまだだったなそういや……」
「だから僕七歳ですってば」
「こんな七歳いてたまるか」
真顔やめろっつってんだろクソジジイ。
「何回言うんですかそれ」
「何回でも言うぞ? お前さんは七歳の皮被った人外です」
「被ってないですし、人間ですし、ちゃんとした七歳です」
「……まァ良いや」
「良くないんですけど?」
シバきたい、このじじい。
「それよりも早く即位して儂に楽させろ」
「色々とひどい」
なんかついでにガルじいの用意したアミュレットも任されてしまったので、もちもちと式を刻み込んだ所で、ふと思った。
「そういえばガルじい」
「あンだよ」
「ガルじいって世界的に有名なんですよね」
「魔導の世界でだけな」
「そんなガルじいが、どうしてこの帝国に仕えてるんです?」
出来上がったアミュレットを手渡しつつ尋ねると、ガルじいが不思議そうに眉根を上げた。
「自由度と給料が高くて本が読み放題だから」
「えっ、それってつまり、もっと条件が良かったら別の国に行くって事ですか?」
キッパリと告げられた言葉は、めちゃくちゃ現実的で、なんというか。
ちょっと悲しくなってしまった僕は、ついそう聞いてしまった。
「は? ヤダよ他の国なんぞ」
「そうなんですか?」
「だってこの国の三分の一もねェんだぞ、蔵書量」
「えっ」
「世界的に最大の書庫なんだが、知らんのお前さん」
「知りませんでした……」
世界情勢にうといんだなぁ僕……。皇太子たるものちゃんと把握してないとダメなのに……。
それもこれも全部しょうもないことしてきたクソ兄のせいだ。
絶対仕返ししてやるんだからな、あの野郎。
「まぁ、保管を目的としとるから貸出はしとらんのが、他の国と違うところか」
「なるほど……」
ん?
「僕そういえば書庫の魔導系の本読み尽くしたんですが」
「………………世の中の本を全部集めてあんだ、魔導以外にも色々ある」
「そ、そうですよね!」
ほっとしたのもつかの間、ガルじいはくわっと目を見開いた。
「だがお前さんは規格外だ!」
「断言しないでください!!」
なんでこの人こんな酷いこというの!!
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