第12話

 




「で、魔法の開発はどうなったんだ?」

「盛大に失敗しました」

「そーかそーか、そんな簡単に上手くいく訳ァねェよなァ」


 いつものように父様のお膝の上に乗せられて、頭をなでなでされながらのやりとりである。

幸せではあるんだけど、あんまり子供扱いされるとくすぐったいので程々にして欲しい。

父様のことだから、きっと言っても全く聞く耳持ってくれないんだろうけど。


ちなみに禁書庫の奥の研究室でガルじいと魔法式の共同開発していることは父様も既にご存知のことだ。

というか、父様に報告しないまま共同開発そんなものが出来るわけないのである。

だからガルじいは対外的に僕の教師ということになっていた。


クソ兄にはそれが伏せられているので、もし知ったらきっと物凄くキレ散らかすんだろうな。めんどくさいな。


「大丈夫ですよ、もう開き直りましたから。また始めからやり直します」

「しんどくなったらやめてもいいからな、あんまり無理すんなよ? セレスが泣くぞ?」

「そこまで根詰めませんよ、父様は心配性だなぁ」

「仕方ねェだろ、愛する人との間に出来た息子が可愛くない親が居たら見てェくらいだわ」


 そんなん居たら全力で潰すけどな、と物騒なことを呟きながら、父様は笑った。さすがは父様である。

でもなんか地味に怖いので話を変えようと思います。


「そうだ、あの件はどうなりましたか?」

「おゥ、婚約者交換の事か? あれなら上手く行きそうだぞ」

「良かったぁ」

「あとは綿飴ちゃんの実家の返事待ちだな」


父様の上手く行きそうは、大体上手くいくので安心感が凄い。このあたりもさすが父様である。

出来るか出来ないかの心配は無くなったけど、でもそれより気になることがあった僕は、とりあえず聞いてみることにした。


「……本当に大丈夫でしょうか」

「ん? そりゃァなんの心配だ?」

「アルミラン伯爵家の方は、皇太子妃を出した家、になる予定だったじゃないですか」


 貴族の権力バランスの問題である。

なにせ、あのクソ兄が均衡を根本からぶち壊すような真似をしてしまったのだから不安しかない。


「あァ、だがまァ、逆にホッとしたらしいぞ? あの家門は小心者の集まりだからな」

「へぇ、意外と野心的じゃないんですね、あちらの実家」

「そりゃァな、七年前も娘を皇太子に嫁がせろっつった時もだいぶ渋ってたしな。だから交換していいかって打診する手紙出したら即オッケーだったわ」


なるほど、それなら結果オーライかもしれない。

というかアレかな、だから父様はリズベット嬢を子ネズミと呼んだのかもしれない。


「そうなんですね……、あ、じゃあ側妃さまたちは?」

「おー、アレな、アレはなァ……」

「何かあったんですか?」


妙に歯切れの悪い父様の返答に、若干嫌な予感がよぎった。


「おん、侯爵家のが相当キレ散らかしてたわ」

「え、側妃カナリアさまがですか?」


あの、クソ兄もといレイン兄上の母である、あの人が?

なんか普段から余裕ある感じのイメージが強くて全然想像つかないんだけど……。


「そりゃァそうさ、息子が皇太子になる予定が相当狂っただろうからなァ」

「え、兄上のあの思想ってもしかして……」

「ま、基本人間は身近な奴に影響を受ける、ってハナシだ」


 ……嫌な事実を聞かされしまった気がする。

僕と会う時はそんな風には全く見えなかったから、クソ兄が勝手に色々盛り上がってるんだと思ってたのだけど、僕もまだまだ認識が甘かったか。

生まれて七年というのが何をするにも僕の足を引っ張ってくる。早く大人になりたいものだ。


しかしそう考えるとなんとも身勝手な人達だよね。


「キャロライン嬢がいるからって皇太子になれるわけじゃないのに……」


つい溜息が漏れてしまったその時、父様の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。


「どォせムーを始末する気だったんだろうが、皇妃から産まれた男子は毒も策略も暗殺も効かない謎の幸運が付いてんのにな」

「えっ、それ初耳なんですけど」

「ん? 歴史書読んでねェの?」

「読みましたが、脚色じゃないんですかアレ、ガチなんですか」

「おゥ、ガチだよアレ」


 えっ、ガチなの!?

あの“暗殺者の刃が皇太子に届く前に根元から折れた”とか、“食事に毒を仕込もうとした使用人が心臓の病で突然死んだ”とか、なんかそういうアレが全部ガチなの!?


「だって俺の目の前で暗殺者に雷落ちたもん」


えぇぇええ……いや待って……? そんなことある……?

父様、波乱万丈過ぎない……? 皇帝ってそういうものなの……?


「……あの、うちの家って何が起きてるんですか? 何がどうしてそうなったんです?」

「そこらへんがなァ、歴史書にねェのよ」

「えぇー……」

「俺もさすがに気になって調べたんだが、どうも初代皇帝が死ぬ時一緒に墓に持ってっちまったらしい」


いやなんでさ……一番気になる所じゃん……。せめて禁書とかにしてくれてもいいのに……、ていうかなんか余計怖いんですけど……。


「写しなどは残ってないんですか?」

「全部片付けてから死んだってよ、用意周到なこったぜ」


えぇぇええ……。


「……つまり、そこまでして隠したい何かがあったということでは……」

「まァ、そォなんだろうさ、今となっちゃ真実は闇、ってとこか」


考えられるのは、やっぱり神様的な何かだろうか。

色々な可能性はあるんだけど、考えるのが怖いのでもう考えなかったことにしたいです。やだ。何これ幽霊より怖いんですけど。


「怖っ……うちの家、怖っ……」

「怖さで言うとセレスの実家も相当だけどな?」

「ひぇ……」


王家とか皇家って何かしらヤバいものなのかもしれない。歴史の闇ってやつなんだろうか。

どうか僕にはそのヤバさが降りかかりませんように。


 

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