第10話

 




 ガルじいから魔法を習うようになって、自分の適正な魔法属性を知る事が出来た。

母様から受け継いだ聖属性、父様から受け継いだ雷属性、それから父様方のお祖母様から受け継いだ炎属性の三つだ。

ウィルフェンスタイン皇族は代々雷属性を受け継いでいるので、二属性持ちは結構いるらしい。

僕はそれより一個だけしか多くないから、微妙な所である。


そんなことをガルじいに言ったら盛大に呆れられてしまったので何故だろうと思ったのだけど、よく考えたら聖属性は光の上位属性だし、炎も火の上位属性だし、雷に至っては風と水の複合属性だった事を思い出した。


 ……思い出したは良いけど、これって数に入れていいものなのだろうか。

火は炎だし、光は聖だし、風と水は雷じゃないからよく分からないし。


それから、なんか魔力量がめっちゃ凄いとか言われたけど、正直ガルじいの方が凄い量なので分からん。

目の前に凄い人がいると比較対象がその人しかないから、全然凄さが分からないし、むしろしょぼいんじゃないかとすら思えてしまうのである。


ついでにガルじいが心から凄いって言ってるように見えないから余計に分からなかった。茶化してるようにしか見えない。なんなんだこのじじい。


 それはともかく、ひと月ほど教えて貰って魔法が使えるようになったけど、時間魔法というものがどういうものなのか、という研究はまだまだ続いていた。


たくさん検証した結果、やっぱり魔術だと限界があるらしい事が分かったので、ガルじいと僕の二人共同で魔法式の構築を検証していく事になった。


「ガルじい、ここの式なんですが、理論的に可能なんですか?」

「いや、まだ仮定の状態だな」

「じゃあ、こっちの式でやってみてもいいですか?」

「ん? そっちか? だがそれだとコストが高くなり過ぎるだろ」

「ですから、ついでにこの式を追加しようかと」


書面に羽根ペンでカリカリと式を書く。それはとある禁書で使われている魔法式の一部だ。

ガルじいはそれと構築途中の魔法式を見比べて、顎髭をさすった。


「……手間がかかるんじゃねェか?」

「手間はかかりますがその分コストも削減出来ますし、確実かと」

「うーむ……、いや待て、やっぱ却下だ、ここんとこに余分が出来る」


トントン、と書面の魔法式の一文を指で示すガルじい。

改めて確認すると、確かに余剰分が空回りしそうな感じだった。


「ではこの余分はこれの維持に充てるのはどうでしょう」

「また随分と式が長くなるな……しかし理論的には可能か?」

「問題があるとすれば、これを行使する時に間違わないかですね……」

「さすがにちょいと長過ぎるな……丸三日はかかるんじゃねぇか?」


丸一日でさえ辛そうなのに、丸三日はダメかな……。

でもこれが一番それっぽいんだよなぁ……。


「とりあえず……やってみます?」

「いや、ちょいとリスクが高過ぎる、どっかの部分が何かで代替出来ねぇか探してみよう」

「はい」


ですよね。しか言えそうに無かった。

でも理論的には間違ってないんだよなぁ……、どうにか似たような魔法式の応用出来ないかなぁ……。


「ん? 待て、ここにこの禁書のアレを利用したらどうだ?」


唐突にガルじいが何か閃いた。

こういう時のこの人は本当に頼りになるので、僕は補助に専念することにしている。


「この禁書というと、……アストラル体に干渉するタイプの式ですね、これをどうするんです?」

「ほれ、ここの一文をこうしてこうしたら、良い感じに……」

「あ、なるほど、働きかける部分を書き変えるんですね」


ふむふむ、なるほど。

確かにそうすれば一気に魔法式が出来上がる。


「そうそう、だからここがこうなって、こうなる」

「今はまだ少しアラがありますが、理論的には可能ですし、一番良いかもしれませんね」


物凄い勢いで構築されていく魔法式がとても美しい。

これをそのまま行使するとどうなるか、まだ細かい検証が終わっていないが、それでも理論的に完成と言っても差支えはないだろう。


「よォし、この感じで煮詰めて行こうぜ!」

「魔法薬じゃないですけどコレ」

「分かっとるわい、比喩表現だろ比喩表現!」


冗談めかして笑い合うけど、それでも僕はどうしても不安が拭いきれなかった。


「あの、理論だけでいいんですか?」

「当たり前だろ、実験しようにも動物と人間じゃ全く寿命が違うんだ」

「ぶっつけ本番というやつですか?」

「おうよ、他にやりようがねェからな」


朗らかに笑うガルじいが地味に腹立つから、僕のこの一抹の不安をぶつけることにした。


「大丈夫でしょうか?」

「なんだ、怖気付いたか?」

「だって、もしかしたら二人とも死ぬかもしれませんよ?」

「安心しろや、それだけは有り得ねェ」


真剣で、それでいて真っ直ぐな、今まで見たことない表情のガルじいがそこに居た。

それは大魔導師ガルガーディンという肩書きと名前に相応しい威厳があって、つい息を飲み込んでしまう。


「……どうしてですか?」

「儂のこの勘は今まで外れた事ねェからな。それに儂ァ“豪運”の祝福持ちだ」


これだけ理論的に色々やってきたのに、ここに来て非現実的な勘を持ち出してくるあたり、ガルじいらしい。

しかもついでのように祝福の話だ。


「……さすがに神様もこれは想定外なんじゃ……?」

「大丈夫だっつーの、危なくなったら儂が何とかするに決まってんだろ、この国の皇太子死なせる訳にいかねェんだから」

「あ、やっぱり知ってましたか」

「当たり前だろ、むしろ知らねェやついんのかこの皇城に」


逆に怪訝そうな顔をされてしまったけど、どうしても言わせて欲しい事があるので失礼します。


「知っててずっとその態度って本当にガルじいって凄いですよね」

「なんでェ、打首にでもすんのか?」

「しませんよ、世界的大魔導師ガルガーディンにそんなことしたら内乱が起きます」


キッパリ言い切ったら、ガルじいは真顔で口を開いた。


「いや、お前こそ儂が誰だか本当にちゃんと理解しといてその態度なん? 凄くね?」

「えへへ」

「褒めてねェぞクソガキ」


そんなこんなで、ようやく理論が完成したのだった。

あとはこれを頑張って色々とこねくり回すだけである。


よーし、頑張るぞ!


 

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