末っ子ショタのイケオジ化計画~婚約破棄するなら僕が貰っていいよね?~
藤 都斗(旧藤原都斗)
第1話
「キャロライン・エルロンド、君との婚約は破棄させてもらう」
涼やかな声でキッパリと告げられた兄上のその言葉は、予想の通りという訳ではなく、いつかそうなって欲しいと思っていた願望がそのまま現れたような気しかしなかった。
え? これ、夢? 現実?
この国の各皇子とその婚約者には、将来の家族ということで、交流の場が設けられている。
本日は第一皇子レインスター兄様とその婚約者キャロライン嬢と、皇太子で末っ子のヘルムート。
つまり僕とその婚約者リズベット嬢との交流会だった筈なのだが、何がどうしてこうなったんだろう。
「……あの、レイン兄上、それ本気で言ってます?」
「当たり前だ、家族となる者を貶めるような女をどうして皇族に迎え入れられるというのか」
テーブル席でどんどん冷めていく紅茶を囲みながら、何故か堂々としている兄上を眺める。
お言葉ですが兄上、それ、めちゃくちゃ己に刺さってますよ。
兄上がキャロライン嬢に向けていたはずの言葉が物凄い急角度で返って来ましたけど、僕に今まで何して来たか忘れたんですか。
現在進行形で、たった7歳の僕にめちゃくちゃ嫌がらせしてたよね?
末っ子の僕が皇太子になったの気に食わないのは分かるけど、僕の母様がこの国の正妃なんだから仕方ないでしょ。
というかそれ以前に、
「皇太子として、そんな女を皇太子妃になどさせてたまるものか」
いや、皇太子僕ですけど。
もしかしなくてもまだ皇太子になれると思ってるんですか?
側室の子だからといって皇太子になれない訳がないと兄上はいつも言ってたけど、そういう問題じゃない事知らないのかな。
兄上がそうやって短絡的に物事を進めるから、現在進行形で
あれぇ? 兄上ってこんなだっけ?
「キャロラインの暴挙は目に余る! リズベットへ暴言を吐き、口喧しく罵ったそうだな!」
「殿下、お言葉ですがそれは」
「言い訳など見苦しいぞ!」
キャロライン嬢に弁明の隙間すら与えず、己の意見のみを正しいものとして糾弾するのは、皇太子に相応しいと思っているのだろうか。
あれれぇ? おかしいなぁ?
しかし僕がそれを止めることはない。
キャロライン嬢に一切の非が無い事など分かりきっている。
それでも僕は様子を見守るだけだ。
「私は君と婚約破棄し、リズベットと婚約する!」
キッパリとカッコよく断言した兄上を、紅色に頬を染めながら、潤んだ目で惚けたように見つめる僕の婚約者。
14歳のリズベット嬢からすれば一回りも年下な僕は恋愛対象外にも程があったんだろうけど、だとしてもこの態度はどうなんだろう。
真剣な顔の兄上と見つめ合いながら完全に二人の世界に入ってしまったけど、そんなのは放置して僕は笑った。
この現状は、踊り出したい程嬉しいものだったから。
「つまり、婚約者を交換したいという事で宜しいですか、兄上」
要点を簡単に纏めてしまえば、そんな最低な内容を随分とドラマチックにしてくれたものである。
僕はこの兄が嫌いだ。
嫉妬だけで僕を毛嫌いしているのもそうだけど、現実を一切見る気がない夢見がちな行動にも腹が立つ。
でも、こんな風にキャロライン嬢を責め立てれば彼女の今後がどうなるかすら、考えない能天気さが一番嫌いだ。
「ふん、貴様のような子供には俺のお下がりをくれてやるよ、せいぜい可愛がってやることだ。そのじゃじゃ馬を乗りこなせるとは思えんがな」
「お下がりなんてとんでもない、兄上は婚前の女性に手を出すような最低な人間ではありませんから」
粗末で品の無い嫌味を軽く流してやれば、兄は大人げなく僕を睨み付けたあと、リズベット嬢の肩に手を回した。
「…………リズ、行こう」
「あ、あの、良いのですか?」
「大丈夫、父上は寛大な方だ、すぐにお許し下さるだろう」
「……はい、では、失礼致します」
先程の僕の言葉は、“元々から彼女はお前の物じゃなかっただろうが”という意味が込めてあったけど、あの様子じゃあ気づいてなさそうだ。
確かに父上は寛大な方だ。きっとお許し下さるだろう。
前からずっと、キャロライン嬢がレイン兄上の婚約者でさえなければ、皇太子である僕の婚約者にしたのに、と惜しがっていたから。
まるで皇太子の婚約者となる為に産まれてきたようなキャロライン嬢と、幼稚さと短慮が目立つ可愛いだけのリズベット嬢では天と地ほどの差があるのだから仕方ない。
去って行く兄の背を見送り、扉が閉まって足音が遠くなってから、僕はキャロライン嬢へ向き直った。
「キャロライン嬢、大丈夫ですか?」
「………………申し訳、ございません」
まっすぐに伸びていた彼女の背筋は、ふにゃりと緩んでいるように思える程落ち込んでいるように見えた。
「何故謝るのです?」
「殿下はまだ幼くていらっしゃるのに、ワタクシのような者が婚約者など……無理がありますでしょう?」
「何を仰っているのかよく分かりませんが、僕にとってキャロライン嬢は理想の女性ですよ」
「それでも、申し訳ございません……!」
言葉を尽くしても謝罪だけが返ってくるこの状況に、違和感があった。
「どうして謝るのですか、キャロライン嬢」
「ワタクシは、私は……!」
両手で顔を覆いながら、嘆くように彼女は言った。
「壮年の
それは頭の中が真っ白になるほど衝撃の事実だった。
「……えっ」
ぽつりと漏れるのはそんな声だけ。衝撃すぎて何も考えられなかった。
「第一皇子殿下でさえ守備範囲外だったのに、皇太子殿下まで来てしまうと、…………本当に、申し訳ございません……!」
「…………そう、かぁ」
本当に珍しく、泣いてしまいそうだった。
そんなふうに口から出る頼りない声にキャロライン嬢が慌てた。
「い、いえ、嫌いという訳ではないのです! 私は、可愛いものは好きですから!」
可愛いもの……?
それはつまり、僕を男として見ていないという事に他ならない。
それに気付いた瞬間、頭の中で何かの
「わかりました」
「……分かっていただけましたか……」
「でも僕はキャロライン嬢がいいので、諦めてください」
「……はっ?」
にっこりと笑って断言したら、彼女の可愛い顔が見られたので、僕はもっと笑顔になったのだった。
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