第5話 異世界でもワークライフバランス!!小鬼よりそっちが問題よ!

「や・す・ん・で・な・い!ぢゃ、ないかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 わたしの絶叫が響く。



 事の発端は、兵士達の訓練スケジュールを考えるために隊長とルナから話を聞いた事に遡る。


「お休み?何ですかそれは?」


 は?


 耳を疑うことをルナが口にした。


「いや。ずっとお仕事出来ないでしょう?休んでるよね?お休みあるよね?」

「この100年。鍛練の時間も含め、常に姫さまの傍らにおりましたが、何か?」

「え?それって鍛練しながらわたしのお世話してたってこと?」

「左様でございます」

「いつ。寝てるの?」

「30分もすれば十分でございます」

「は、はひ?6時間とか8時間とか寝たくないの?」

「いえ、全く。そういえば目覚められてから姫さまはよく眠られますね」


 わたし、絶句。

 う、うん。

 きっとルナがおかしいのね。

 わたしに対しての忠誠心みたいなのが凄く高いからよね?


「た、隊長?兵士のみんなはいつ、休んでるのかな?」

「何を仰います。我々元気に24時間、全力で警護や訓練に勤しんでおりますぞ?」


 の、割には小鬼に勝てないぢゃないか…

 こっちも、全く休んでない…


 も、もしかして食べ物の時と同じで「休む」という文化や習慣がない、可能性が…


 それって、よく考えると。相当疲労とか溜まってて、知らない間に身体や魔力が弱っているってことじゃないのかなぁ…


 わたしはガールズバーや風俗でお相手した警備のおじさんのシフトの話を思い出す。

 ちょっぴり、優しくって。つい、本番しちゃった人だけどね。また、したい!と思った数少ない人だったな。元気かなぁ…


「隊長。兵士のみんなは何人?それから副隊長みたいなことが出来る人は何人?早急に名簿をみせて」


「は、はぁ…そういうことでしてら…」


 隊長はのらりくらりと動き出す。

「キビキビ動く!」

 わたしはドン!と震脚を踏む。


 ビビる隊長。


「ルナは、すぐじゃないけど信頼できる人をもう一人か二人わたしの世話役に任命して」

「畏まりました」

「ルナの気持ちは嬉しいけど、休む時間も作らないと、死んじゃうよ。夢の中のわたしみたいに」

 わたしは夢の中の話と称して現代での酷い労働環境を唐突と説明する。


 休みなし(というか取れない)800連勤!!


 毎日、睡眠時間、2時間!!!

 セクハラの嵐!!!!

 サービス早出、残業当たり前!!!!


 ご飯は

 もやし!

 ラーメン(インスタント、カップ両方)!!

 パンの耳!!!


 ベッドなし!段ボール敷いて、薄い毛布!!


 ついでに、借金まみれ!!

 お給料の9割が吸われる!!


「…と、いうような感じで20年で死んじゃった。そういう夢…」

「そ、それは…お辛かったでしょう」

「だから、ルナにもお家のみんなにもそんなことにはなってもらいたくないのよ」

「分かりました。姫さまたっての願いということであれば、直ぐ、ではありませんが必ず世話役を配置します」

「直ぐじゃないの?」

「はい。どうも姫さまを見ていますと、これから小鬼退治以上の無茶をしそうですので。城でのお世話だけでなく戦いも出来る者を選ばねばなりません」


 なるほど、それは納得。

 わたしの身を案じてくれてるのね、ルナは。


「だけど、見つからないからといって休まないないのは絶対に、絶えええええっ対に、ダメだからね!」

「畏まりました」


「姫さま~。お持ちしました」

 そうこうしていると隊長がもどってくる。

「はい。ご苦労様。ではとりあえず、ルナと相談するから、隊長は兵士のみんなと訓練ね」


「あの~、私も打ち合わせに…」

「ダァメ!あんたら弱すぎだから。まさか、サボろうとしてないわよね、隊長なのに」

「いえいえ、そんなことは。ささ、訓練に参りますぞ」

 はぁ…

「ため息ついてんぢゃないわよ!」


 こんなのが隊長で大丈夫なのかしら…



 そこから、わたしは兵士のみんなのシフトを見直す。

 本当に休みないのねf(^^;


 兵士のみんなは1勤、2勤、3勤とパターンを作り、週で交代する。

 工場や警備の人たちのルーティーンを参考にしたわ。


 ルナはとりあえず、土曜日は半日、日曜日はお休みに。

 厳密には現代と曜日の呼び方が違うのよ。まだ覚えてないだけ。


 メイドや執事のみなさんも3交代!

 キッチンスタッフは、日曜日お休み。後は別の日にちに順番で。

 日曜日はわたしが作ったり、みんなで炊き出しして楽しんだり、当面はお料理教室をすることにしたわ!

    


 ワークライフバランス!!

 


 何で、プリンセスになってまでこの言葉を使わなくてはいけないのかしら…



 わたしは一生懸命、みんなのシフトを作っの。

 これで、家の働き方改革、できたかな?

 魔族の感覚の問題なのかもしれないけど、やっぱりダメなものはダメだからね!

 過労死とかしちゃダメ!わたしみたいに!


 もう、本当ね。小鬼退治より、我が家の働き方改革!ワークライフバランスよね!



 翌日。


「姫さま」

 ルナが朝イチで数人のメイドを連れて部屋にやってくる。

「今日の小鬼退治用の御召し物をご用意しました。お着替えください。少し丈夫な布でできています」

 そっか、ヒラヒラのドレスでってわけにはいかないもんね。

 早速、ルナの用意した服を着る。


 トップスはノースリーブのチャイナドレスみたいな上着。

 ボトムスはサブリナパンツみたいなの。

 靴はカンフーシューズみたいなの。さすがにヒールのある靴で踏み込むとヒールがもげるからね。

 後はアームカバーとグローブ。

 わたしが慣れ親しんだ服装だわ。こっちの世界にもこんな服あるのね。

「うん!良い感じ!」

 わたしは軽く身体を動かす。


「姫さま。マジックポケットと唱えて下さい」

 

 を?何か便利そうな名前の魔法ね!


「マジックポケット」


 わたしは言われるまま魔法を唱える。


「この魔法は、見えない鞄を持つようなものです。この中にこの探索セットをしまっておいて下さいませ」

「あ、便利ね」

「はい。お後は保存食なども入れておけます。こちらの袋に調味料等とも一緒にご用意しました」

 さすが、メイドさん気が効きすぎる。

「兵士たちの話から小鬼が巣食っている地域も割り出しました。ただ…」

「ただ、なに?」

「いえ、人間の領域にも近いのが少し気掛かりです」

「いいわよ、わたし気にしないから」

「しかし…」

「いいったら、いいの!」

 わたしが強く言うとしぶしぶペコリと頭を下げるルナ。

 

 話を聞くに、人間との折り合いはすこぶる悪いみたい。何でだろう…


 のんびり、豪華なプリンセスライフ!


 最初に妄想したのとは違うけど、こういった問題も解決して行かないとなぁ、と少しずつ思い始めているわたしでした。


「さあ!小鬼退治に出発よ!!」



 わたしはルナを伴い、意気揚々と小鬼退治に出かけるのでした。



 因みに、わたしがしたワークライフバランスのテコ入れは数日後にしっかりと効果が現れはじめ、みんなにも感謝されちゃった♪


 ロクでもない現代の生活もこうして役に立って、少し嬉しいわ♪

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