Action‼︎-桜川高校声劇部-
月野 蒼
Act.0 プロローグ
#1
「おーい瑞貴。今日から部活登録始まるけど、どこにするか決めた?」
「よ、累。全然決めてねぇな〜お前は?」
「俺はやっぱりサッカー部!なんか、女子にモテそうじゃん⁉」
ドヤァと決める累をよそに、俺は先日配られた部活紹介パンフレットをパラパラとめくる。
ここ桜川高校に入学してから一ヶ月が経った5月。
校門の前に咲いていた桜も殆ど散って緑が増えてきた。
大してやりたいこともないまま、家から近いからという理由だけで高校を決めた俺はかなり悩んでいた。
「(累みたいに適当な理由でもパッと決められればいいのになぁ)」
モテたいからなんていう理由だけど、実はサッカー好きというのも知ってるし。
俺も運動は嫌いじゃないけど部活で毎日やりたくはない。
汗かくのとか好きじゃないし、それより本気で好きで部活に入っている人に失礼だ。
かといって文化部は、なんか違う。
週一の参加でいい部活もあるみたいだけど、なんか違う。
幽霊部員になれそうな部活もなさそうだし…………
完全に詰んでいる。
なんで全員入部必須なんだ、もっと放課後の有意義な時間を堪能させてほしい。
ダルい授業を6コマ終えて、SHR過ごして、部活のない奴らとゲーセン寄るとかカラオケ行くとか、1人でも本屋寄って新刊立ち読みするとか、、、色々あるだろ?
桜川高校は男子校だから彼女はできねーけど、何かきっかけがあればできるかもしんねーし。放課後デートとか全人類の憧れだろ!
それを部活に注がないといけないなんて……だったら少しでも有意義な部活に入りたい。
「あ〜……決まんねぇ」
「瑞貴がこんなに悩むなんて珍しいじゃん。目ぇつぶって開いたところにあった部活とかにしてみたら?案外合うかもよ」
「いや、それは博打すぎるだろ。俺、高校は適当に過ごそうって決めてたんだけど。なのに、部活とか正直ダルい」
なんだよ、つまんねぇのーなんて言って俺の机によりかかる累はパラパラとパンフレットをめくり始める。
「俺と一緒にサッカー部は?」
「パス」
「じゃあバスケ!」
「好きだけど、ちゃんとやったの体育くらいだしなぁ」
「んん〜軽音とか?似合いそうだよ」
「楽器弾けない。ま、まだ提出締め切りまで時間あるし、1人で悩むわ。とりあえず帰ろーぜ」
腹減った、コンビニで肉まん……いや、ないか。ハミチキにしよう。
その時。
「見つけた!!」
「急に何だよ、びっくりするじゃん」
「見つけた!これだよ、瑞貴にぴったりな部活!」
大きく開いたパンフレットを俺の目の前に押し付けてくるけど……なにも見えん。
なんだなんだ、俺にぴったりな部活でもあったのか?
「ちょ、一旦離れろよ。鼻痛えって」
「あ、ごめん。でもここ見ろよ!」
「……声劇部、?」
”声劇”
見覚えのありまくるその二文字に俺は背中がスッと冷えるのを感じた。
「声だけで一つの舞台を創り上げるとかなんとか書いてあるぞ!お前にぴったりだよ!昔子役やってたって言ってただろ!」
「……やめろ。そんなの過去の話だよ。それに、その話すんなって言ったろ?」
そんなふうに諌めてみても累の口は上がりっぱなしで。
あぁ……子役やってたの、こいつに言わなきゃよかった。こいつ声デカすぎだろ、うるせぇ。
累とは小学校からの腐れ縁。
小学校の時に、ひょんなことから子役をしていた過去がバレてしまって話さざるを得なくなった。
それがこんな形で刺されることになろうとは……厄介だ
累がこれ以上何をいうかわからないから、さっさと外に出たくて足を早める。
後ろを着いてくる累は未だに声劇部のページを読み込んでるようだ。
職員室によって日誌を出した間も、階段を降りてる間も、ずっと俺に声劇部とは何かを説いてくる。正直そろそろ面倒くせぇ。
こんなことなら適当に部活決めれば良かったなぁ、失敗した。
「で、声劇部はマイクの前で声だけで演劇をします……って、瑞貴聞いてる?
せっかくなんだから、子役時代の経験活かせよ!勿体ないって!」
「だぁーーーもう!!やめろ!やらないって決めたんだよ、ほらさっさと動け。コンビニでなんか奢ってやっから!」
え〜つまんない!と口を尖らせながら俺に詰め寄ってくる累。
「だってお前、演劇好きじゃん。そうだろ?」
運動靴に履き替えたその時。累の口から核心めいた一言が飛び出した。
「…………もう好きじゃねーし」
ふーんと残念そうな累の背中を押して校庭の方へ進む。
そんな俺たちの話を知ってか知らずか、軽く肩を叩かれた。
「急にごめんな、今の話ちょっと聞こえちゃって……。もしかして君、なにか舞台関係とかに携わっていたのか?」
まずい。
遅かれ早かれこんなことになるとは思っていたけど、直接離しを振られるとは。
明らかに上級生らしき2人を交わすために視線をずらして、足を速める。
「いえ、別に。そういうわけじゃないです。すみません、急いでるので」
「ちょっとだけ聞いてくれないか。俺たちは声劇部の部長と副部長なんだけど、もし入る部活が決まってなければ、うちにどうかなと思ってな」
「そうそう!君、めちゃくちゃ声良いし!」
「(あぁ、めんどくさいことになった)」
適当な事言って走って逃げるか?
先輩相手に失礼極まりないけど、仕方ない。許してもらおう。
「そう言って貰えて嬉しいっす。ですが、俺はもう演劇には興味ないので。累行くぞ」
「え、あっ、ちょっと瑞貴!すんません先輩方!」
俺と先輩の様子を心配そうに見つめていた累の横をササッと通り抜ける。
同級生が仮入部に行ってて助かった。
校門までの道は空いてるし、このまま行けば多分追いつかれないだろ。
「残念でした〜もう少しお話しようよ」
「えっ、足、はっや⁉」
目の前にはニコニコ笑顔を浮かべる先輩。
でも、なんだか逃げられないような強い圧を感じる…………困った。
そんな俺を見かねてか、はじめに話しかけてきた先輩がジッと見据えたまま、一言声を漏らした。
「ねぇ君、ほんとに演劇に興味ないの?」
演劇に興味がないか。
その質問にすぐに答えることはできなかった。
正直、自分が今演劇に対してどんな気持ちを持っているのか分からない。
「……ないって言ってるじゃないですか」
だから、小さい声で俯いたままそういうのが精一杯だった。
「ふーん。まぁ、俺には無理に自分に言い聞かせてるようにしか思えないけど……」
「涼太、その辺にしとけ。君も、もし少しでも興味が出たらでいいからさ。
俺たち普段は第一音楽室で活動してるんだ。良ければ見学にでもおいで、」
それじゃ!と、俺に一枚の勧誘ポスターを押し付け、去っていく先輩二人組。
チラリとポスターを見て、俺は目の先にゴミ箱があるのを見つけて、少し考える。
「(渡されたものをそのまま捨てるのは流石に失礼すぎる………よな。仕方ないか)」
ポスターをスクバの中にしまった俺を見て、今度は累が飛びついてくる。
「瑞貴もしかして、声劇部に興味出ちゃったんじゃないの⁉」
「うるせぇよ」
「でも今ポスター……!」
「はいはい、帰った帰った!!」
「えっ、コンビニで何か奢ってくれるんじゃなかったのかよ!」
「食う気失せた。じゃーな」
なんかまだ後ろで文句言ってる気がするけど、まぁいっか。
反対方向に帰る累と別れて、もう一度ポスターを広げてみる。
「(……君の声で届けたい物語がある、か)」
もう二度と演劇には関わらないはずだったのに。
このとき、俺の人生の歯車が回り始めたような、そんな気がした。
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