第39話
少し旅に出ると宣言し、オーラ侯爵家から離れて数か月後。
再びマルクス君のもとへ凄腕の家庭教師として舞い戻った俺は、以前にはいなかったツーピーを連れて彼の魔法学院合格発表を見に来ていた。
もちろん掲示板に掲載された合格者一覧の一番上にあるのは、主席マルクス・オーラの文字。
現在マルクス君本人はここにいないが、同じく第四席として特待生枠に入り込んだユーナちゃんと一緒に、ツーピーも含め三人で円陣を組みわんわん泣いていたのである。
「よがっだのぉおおお! よがっだ、ほんどうによがっだのう二人どもぉおおおおっ!!」
「よぐやっだのよ子分たぢっ! わだぢ、いまどでも感動しているのよぉおおおおっ!!」
「えっ、えっと……。やったー!」
なお、周囲を見渡してもこんな場所で泣いているのは俺とツーピーだけ。
主席合格が決まったマルクス君がもし見ていたら、特待生入学のユーナちゃんと一緒に苦笑いしていただろう。
兄上の晴れ舞台ですからという理由でついてきている次男のエレン・オーラ君など、若干引き気味で俺たちから離れていったが、気にしない気にしない。
合格発表は儀式であり様式美でもあるのだから、こういう場面では気持ちよく泣いた者勝ちなのだ。
だから一緒に円陣を組んでいるユーナちゃんも、そう棒読みにならずに思いっきり楽しめばいいのである。
なお、魔法王国の有力者であり主席でもあるオーラ侯爵家一同はこの場におらず、貴族専用の個室とやらで入学の手続きを進めている最中だ。
なのでまだユーナちゃんとの顔合わせや紹介といったものが済んでいないのだが、まあ、その辺は学院に入ってから自ずと縁を持つようになるだろう。
「でも本当にビックリしました。まさか十席しか空きがない特待生枠の中に、私が第四席で入学できるなんて……。私、師匠に師事していて本当によかったです」
「うむ、うむ。ほうじゃろうほうじゃろう」
なんたって実力だけならば、マルクス君に次いで第二席でもおかしくなかったくらいだからね。
おそらく学院側も他に入学してくる大貴族への配慮とか、だけれども無視できないユーナちゃんの実力への注目とかで、いろいろと調整が困難だったのだろう。
今回ユーナちゃんの上に名前が載っている第二席と第三席は、それこそこの王国で知る人ぞ知る魔法の名家。
水氷を司る公爵家令嬢のアンネローゼ・クライベルと、これまたもう一つの公爵家令息、破壊魔法の天才児ゼクス・フォースなのだから。
ちなみに魔法の属性について、水氷はともかく破壊魔法とはなんぞやという話だが……。
まあ、言ってしまえば周囲の同年代に比べて突出した火炎の力を持つフォース公爵家が、これまた歴代でも突出した魔法出力を持つ天才児ゼクス・フォースの魔法を見て、大げさにいっているだけだったりする。
要するに練度の高い火炎のことをカッコよく呼称した造語だから、言ってしまえば基本ただの火属性魔法だね。
まあ、大貴族ともなれば色々とブランドというものが大事になってくるのだろう。
仕方のない話だね。
ちなみに、アカシックレコードの知識にはちゃんと、本物の破壊属性なる魔法属性も存在している。
魔力や分子の結合を弱めることで対象を脆くしてしまう危険極まりない魔法なのだが、破壊属性というわりには直接的な破壊はなく、どちらかというと防御力を下げるようなデバフに近い魔法だ。
これは主に魔王が愛用する極悪な魔法なのだが、当然魔王本人に秘匿され世間一般に知られている魔法ではない。
よってフォース公爵家が本当のことを知らないのも、また仕方の無いことなのであった。
「でもユーナは大貴族相手によくやったのよ。さすが、わたちの子分なだけはあるわね~」
「えへへっ。ありがとうねツーピーちゃん。それと、羽スライム君もっ! なんだか夢みたいだよ」
世にも珍しい羽スライムがユーナちゃんの頭上をふわふわと飛び、まるでおめでとうと言っているかのような態度を取る。
ツーピーが羽スライムを連れてきた時はいったいどうなることかと思ったが、いくら珍しくとも所詮はスライムという認識なのか、周りで気にかけている人たちはいない。
保護者を連れた貴族令息令嬢たちに目を付けられ、これが欲しいですなんて言われてもどうしようもなかったので、この展開はありがたい限りだ。
「それじゃあ、私はそろそろ入寮の手続きにいってくるね。またどこかで会おうね二人とも!」
「うむ。いってくるのじゃ若人よ。何度も言うが、困った時はマルクス・オーラという貴族を頼るとええぞ。そやつも儂の弟子じゃからな~」
「は~いっ!」
そうして元気いっぱい魔法学院の門をくぐり、女子学生寮へと走っていくユーナちゃん。
そんな彼女のことを恨めしそうに見ている貴族たちも多くいる中、本当に大丈夫だろうかと少し心配になる。
でもまあ、平気か。
なにせこの魔法学院にはちょくちょく遊びに来るつもりだし。
もちろん、こっそりとだけどね。
それに一応、オーラ侯爵家当主、アルバン・オーラの口利きで学院側には許可をとっているんだよ。
表向きの身分はこれからの魔法学を支える、オーラ侯爵家が認めた希代の魔法学者。
魔法学院に残されている資料や図書館の利用を含め、様々な施設への出入りが可能だ。
「ふっふっふ。この儂に抜かりはない」
「侯爵家にとっては迷惑なのじゃロリなのよね~。本当に大丈夫かしら?」
大丈夫だってば。
こんな時はやけに心配性なツーピーである。
なぜか俺の頼みを色々と聞いてくれるアルバン・オーラ侯爵だが、きっとマルクス君の家庭教師を務めた恩返しだとでも思っているのだろう。
きっとそうに違いない。
……そうだよね?
ちょっと俺も心配になってきたが、気にしたってしょうがない。
そんなこんなでしばらくして。
弟子の門出を祝った俺たちノジャー親子は合格発表での思い出作りを成功させ、こうして今後も動向を見守ることにしたのであった。
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