第29話



 ユーナちゃんの修行がひと段落した。

 授業で行ったことは様々なものがあるが、最後に教えた蘇生魔法はちょっとやりすぎだったかもしれない。


 非常に簡単な蘇生なので、魂の抜けきった死体から復活させることはできないのだけどね。

 あくまでも仮死状態から復活させるくらいの、蘇生といえなくもない程度の魔法だ。


 それはそれとして、別れ際にはちょっとした卒業証ということで、俺の弟子と分かるようにゴールド・ノジャーの刻印が入ったペンダントを手渡しておいた。

 これは魔法学院に入学するとき、マルクス君にもプレゼントするつもりの物だ。


 魔道具なので一応魔法的な効果はあって、これを身に着けているとちょっとづつ体力と魔力が自動回復していくという優れもの。

 いくら二人の魔力量が桁外れだからといっても、しょせんは有限のものだ。


 あるに越したことはないだろう。

 それにユーナちゃんに教えた魔法では傷を癒せても、体力は回復しないというのもミソである。


 まあ、とはいえこれも建前なんだけどね。

 一番のメリットは教え子の二人が共通のアイテムを持つことで、お互いが意識するようになる確率が上がるというもの。


 これは魔法的な効果によるものではなく、ただの人間心理だ。

 あっ、あのイケメン私と同じペンダントもってる、とか。

 あっ、あの美少女も僕と同じペンダントもってる、とか。


 そんな感じの原始的な感情の誘導である。

 魔法で人の心を操るのはゴールド・ノジャー的にはダメだが、こういうのはアリ。

 個人的な基準だけどね。


 ちなみに二人が幸せな未来に到達する確率は、これで少し微増するらしい。

 アカシックレコードがそう未来を演算していたから、たぶん本当のことだろう。


 さて、というわけで。

 こんな感じで魔法学院組みの弟子は一段落ついたので、今度は聖国へと向かった勇者ノアとレオン少年の旅路を応援しに向かわなくてはならない。


 この一か月ちょくちょく情報を確認していたが、どうもいろいろと大変なことになっているようなんだよね。


 もちろん聖国へは無事に到着したし、まだ誰も死んではいない。

 道中では強敵や難敵など数々の障害が現れたものの、パワーアップした弟子と勇者、ついでに冒険者たちは頑張ってトラブルを乗り超えていたのだ。


 では何が問題なのかというと、聖国にたどり着いた冒険者たちがなぜか教会の聖騎士に拘束されてしまい、勇者たちが再びピンチに陥ってしまったことにある。


 いや、これはちょっとニュアンスが違うかな。

 勇者ノアちゃんはピンチではない、というより全然余裕で無事だ。


 教会側も新米勇者相手とはいえ、信仰する神の祝福を受けたとされる、いずれはめっちゃ強くなる世界の救世主に滅多なことはできないご様子。

 問題なのは勇者ちゃんたちの取り巻きである、彼女をここまで導いた冒険者やレオン少年の方である。


 現在は捕まった冒険者を救出する機会を窺うために、いったん勇者ノアを連れてレオン少年が聖国の首都を逃げ回っているようだ。

 まあレオン少年側からしてみれば、いきなり冒険者たちを捕らえた教会勢力なんて信じられないだろうしね。


 いくら勇者ノアに危害を加えるつもりはないといっても、一番重要なポジションにいる彼女を引き渡すなんてありえない選択だろう。

 いまはスラム街に逃げ込んで隠れ潜んでいるようだが、見つかるのも時間の問題だしなんとかしたいところだ。


 心根の優しいレオン少年のことだから、きっと穏便に済ます手段が見つかるよう、ギリギリまで粘ってみるつもりなんだろうね。

 こういうタイプが実はキレた時に一番ヤバイので、そうなったらもうオシマイである。


 すでに冒険者が捕まって一日半経過しているので、行動を起こすならばそろそろといったところ。


 もうほんと、なにがどうなったらそうなるのかと思うかもしれないが、これが今の現状なのであった。

 まあ、そうはいいつつも。

 アカシックレコードで原因を調べてみたから理由はハッキリしている。


 勇者たちがトラブルになった主な原因は、俺の存在そのものだ。

 どうやら魔族だと思っている俺のことを教会上層部に報告し、そのまま流れで異端の疑いをかけられているらしい。


 具体的になにがどう異端かというと。

 例えばこの世界には人類に味方する魔族がいたことや、その魔族はおそらく神々の使徒であること、また人類と魔族の魔核の有無、構造の違い。

 そういった旅で得た新鮮な情報をペラペラと喋った結果、教会上層部にバカ言うんじゃねぇと一喝され拘束されちゃったというわけなのである。


 いやー、いやいやいや。

 まさかこんなことになるとはね。

 どこの世界でも大きくなり過ぎた組織というのは実に恐ろしいよ。


 聖国まで無事に辿り着ければ、後のことはどうとでもなるなーと思っていた俺の責任も少しある。

 よって、窮地に陥った彼らをこのゴールド・ノジャー直々に助けにいくことにしたってわけだ。


 ちなみにレオン少年はいまは冷静なものの、「愚かな魔族にたぶらかされた無知蒙昧な者達」と揶揄された時にちょっとキレかけていた。

 自分が馬鹿にされたことについてではなく、師匠である俺のことを「愚か」と認識されたのが嫌だったみたいだね。


 だがあそこで暴れてたらお互いに悲惨なことになっていたので、よく我慢してくれたと思う。

 偉い、さすが我が一番弟子。


「のじゃロリは詰めが甘いのよね~」

「くっ……」

「わたちだったら、そんな聖国っちゅー面倒なやつら、出しゃばってくる前にコロコロとコロがしちゃうのよ」


 いや、コロコロはダメ。

 戦局が読めているレオン少年と違い、ツーピーはすぐに歯向かう相手をコロコロしちゃうところが短絡的だ。

 これが戦場なら、こいつにだけは軍師を任せてはならないだろう。


 実はけっこう頭がいいので敵を効率よくコロコロできるのかもしれないが、その過程で生まれる悲劇を完全に無視してのし上がっていくため、結果的に味方の信頼を失い裏切られるタイプである。


「しかし、まだ挽回可能なラインじゃ」

「そうかちら?」

「そうじゃよ」


 冒険者を武力行使で直接的に助けるのは、彼らを捕らえた権力者のプライドを傷つけることになるので、あまり得策ではない。

 ではどうするのかというと……。


「世の中、結局はメリットとデメリットのつり合いで動くものじゃからのう。冒険者を手放す建前とメリットさえあれば、教会はすんなりと彼らを解放するじゃろうて」

「いつになく、のじゃロリが自信満々なのよね~」


 当然だ。

 こちとら情報戦においては無敵を誇るアカシックレコードが味方についている。

 ゴールド・ノジャーはこういうトラブルには最初からめっぽう強いのだ。


「というわけで、聖国の首都に出発するぞえ~」

「うい~」


 こうして俺たちは絨毯型結界に乗り込み移動速度を上げ、そのまま転移によって聖国の首都へと侵入したのであった。

 まず最初に目指すのはスラム街。

 そこにいる聖国への不満がたまりにたまったレジスタンスの親玉、バルザックに出会うのが一つ目のミッションである。



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