第24話



 第二の弟子であるマルクス君の魔法学院入試まであと数か月。

 それまでに手土産として少しでも弟子の風評被害に手を打っておきたいが、さてどうしたものか。


 マルクス君が力を見せつけて、強引に無礼者を排除する性格なら話は簡単だったのだけどもね。

 しかし残念ながら、……いや違うね、むしろ嬉しいことに弟子はそんな野蛮な人間ではない。


 おそらく自分が侮られていることを理解しつつも、無礼者に対し直接の制裁は加えないだろう。

 誠実に生きながらも、ずっと周囲の悪意に耐えることになるはずだ。


 本来だったらそうなる悲しい未来もあったのかもしれない。

 だがその辺はご安心を。

 マルクス君の師匠はなんといってもこの不老の魔女、ゴールド・ノジャーなのである。

 

 一から十まで手取り足取りとまではいかないが、未来を変えるきっかけくらいは用意してあげようと思う。

 それができるだけの大きな力を、俺は持っているのだから。


 さて、それではどうやって風評被害を緩和するきっかけを作り、もっといえば魔法学院へ入学するマルクス君をサポートするのか。

 細かいところまで決まっているわけではないが、おおまかなイメージとしてはどうするかを決めてある。


 これから先マルクス君を支えてくれる、そんな才色兼備の美少女と引き合わせてしまう方針。

 名付けて、ヒロイン大作戦の開始である。


 どうせ第一の弟子であるレオン少年にも勇者ノアというヒロインがいるのだ。

 マルクス君にだってヒロインがいたっていいだろう。


 で、ヒロインに誰を推すかだが、候補はアカシックレコードの情報を吟味して既に決めてある。

 別にこの候補とマルクス君が必ずしもいい感じになる必要はないが、きっかけくらいあったっていいよねという、そんな精神のもと動いているのであしからず。


 最終的にヒロインとの仲がどうなるかは、結局のところ本人たち次第である。

 といっても、なるべく幸福な結果になりやすい人選をしたつもりだけどね。


 絶対ではないが、勝率は高い賭けになるだろう。


 なお、この作戦において最も心配な要素は、俺の使用人として身分を偽装していくツーピーの存在だ。

 こいつはノリと勢いでいつ暴走しだすか分からないところがあるため、要注意である。


 作戦の概要は一応共有したが、あまりにも不安だ……。


 同じくノリと勢いで生きる俺が言えたことではないので、まあ、似たもの親子ってことなのかもしれない。


「のじゃロリ、わたちの新しい服にあってる?」

「うぅむ、見事な幼女メイドじゃのー。完璧じゃ」

「ふへへ。やっぱり、可愛すぎてしまうのね~」


 どこからそんな自信がわき上がるのか根拠が謎だが、ツーピーが幸せそうならそれでオーケー。

 まあ客観的に見てゴールド・ノジャーの遺伝子が美少女の要素てんこ盛りなので、その血を引いている以上当然だと考えてしまう俺も相当ではある。


 ちなみに、最優秀ヒロイン候補となったのは、大貴族であるオーラ侯爵家とはまったく家格のつり合いがとれない農村の田舎っ娘(こ)だ。


 その田舎っ娘は村では珍しく大きな魔力に恵まれ、魔法の才能がありと判断されてこの国の魔法学院に入学を希望している娘だ。

 田舎村の両親では入学金を賄うことができないので、入学金が免除となる特待生入学を果たすために猛勉強しているらしい。


 彼女ならばは心根も善良であり、なにより理不尽には屈しない芯のある性格をしている。

 アカシックレコードで未来を演算したところ、マルクス君を支える人々の中でもっとも幸せな結末が多いのがこの娘だった。


 そもそも、魔力の大きさは魂の力、もとい精神力に拠るところも大きい。

 魔力回路が肉体に形成されている以上、ただ魔力が大きいだけで優秀な魔法使いであるとはいえないのだが、そこは俺がどうにかすればよい話だ。


 そのための師匠、もとい第三の弟子ユーナちゃん十四歳を導く愛のキューピッド、ゴールド・ノジャーなのであった。


「のじゃロリ、はやく次の村に行く! わたちの子分を作るのよ!」

「これこれ。ユーナちゃんはツーピーの子分じゃないぞえ? あの子は儂の弟子じゃ」

「はぁ~?」


 いや、はぁ~、じゃないから。

 なぜか俺のことを、なにいってんのコイツみたいな目で見ているが、それはこちらのセリフである。


 次の弟子を迎えるにあたって、新しい服を所望したりとやけに積極的だなと思っていたら、そんなこと企んでいたのかこいつは。

 残念すぎる性格のせいで割とトンチンカンなところがありつつも、実は賢さがとても高いツーピーならば、ユーナちゃんの家庭教師くらいなら勤まるだろうけどもね。


 うむむ、これはしょっぱなからやらかしそうな予感しかしないぞ……。


 いずれは前衛のレオン少年、後衛のマルクス君、サポートのユーナちゃん、そして剣も魔法もできるオールレンジな勇者ノアの四人でパーティーでも結成してはどうかと思っていたのだがなあ。

 いまここでツーピーの子分として許可を出してしまうと、いろいろと妄想していたドリームパーティー結成の計画が遠のく。


 ここは心を鬼にして、ビシッと言ってやらねばなるまいよ。


「ダメじゃ。ユーナちゃんは儂が育てる。そう決めたのじゃもん」

「なしてっ! わたちにも勉強教えられる! 子分欲しいっ!」

「ダ~メじゃ。アカシックレコードの力がないと、魔法学院の入学はどうにかなっても、もしかしたら貴族しか知らないような意地悪な筆記問題への対策がとれないも~ん」

「ぐぬぬぬぬぬぬ。この顔は強情なタイプのじゃロリなのよ……」


 ふふ~ん。

 強情でいいもんね~。

 ここはご主人様権限を行使させてもらいます。


 それに筆記テストは確かに学力を問うものではあるが、基本的に貴族出身の者達を対象に問題を調整していることが多い。

 知力や基礎学力は高くとも、そういう社会情勢的なところで躓(つまづ)きそうなツーピーには、今回ばかりは荷が重いだろう。


 ただ、子分ができると思って楽しみにしていたツーピーをあんまり追い詰めても可哀そうだ。

 ムチを与えたのならば、次はアメを与えてやらねばならない。


「その代わり、じゃ。ツーピーにはユーナちゃんの姉弟子として、大いに活躍してもらうことになるかのう。先輩の責任は重大じゃぞ? ちゃんと後輩の面倒を見られるのなら、儂の授業をサポートさせてやらんでもない。どうじゃ」


 そう問うと、あからさまに機嫌を持ち直したツーピーが、仕方ないわね~、みたいな態度でやれやれして納得した。

 結局ツーピーの求めていた子分がどうのこうのっていう話は、ただお姉さん気分を味わいたいだけの憧れみたいなものなのだ。


 別に子分という形じゃなくとも、授業の先輩でも要求は満たしていたというわけである。

 きっと俺(おや)が弟子に慕われているのを知って、自分もそんな感じに真似したいと思っただけなのだろう。


 この子の精神はまだまだ子供だからね、しょうがない部分ではある。

 故に、このような妥協案に話を落ち着けたのであった。


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