第12話
魔法王国ルーベルスに到着し、国の中でも結構な領土を誇るオーラ侯爵領の領主街をうろちょろと散策する。
今回のターゲットである魔法界の落ちこぼれ、現在十四歳の大貴族嫡男。
マルクス・オーラ君がメインのターゲットであることには変わりないが、せっかく領主街まで来たのだから観光してきたい。
いきなり接触しても別に不都合はないが、まあ魔法学院の受験まであと一年もあるのだから急ぐ必要はないだろう。
現在、オーラ侯爵家嫡男であるマルクス君は必死に努力しているのに結果が出ず、これで魔法学院の入試にまで落ちたら侯爵家の恥として勘当されてしまうのだが……。
逆にいってそれまでは猶予があり、安泰という意味でもある。
オーラ侯爵家も既に周囲に嫡男として知られてしまっているマルクス君を勘当するのには相応のリスクがあるため、できればなんとか入試に合格して欲しいと思っているため、魔法における家庭教師などの人材確保には金に糸目をつけていないのもいいところだ。
それはつまり、実力のある家庭教師であれば、オーラ侯爵家の門をいつ叩いても歓迎されるという意味であるからね。
そんなわけで、心に大きな余裕をもって街中を散策しているのであった。
ちなみに、今は魔法学院に何人もの合格魔法使いを輩出したとされる、けっこう高級な感じの魔法杖店に足を運んでいるわけだが、なんというか思った通りたいした装備は置いていない。
これなら俺がマルクス君に専用の杖を自作し、プレゼントした方が断然よさそうだ。
いや、アカシックレコードによる知識の閲覧で、情報としては全部知ってたんだけどね。
肉眼で観察してはじめて得られる感想、もしくはアイデアみたいなものもあるわけで……。
そういったことの最終確認のためにいろいろと見て回っていたわけである。
で、思ったのが、いくらなんでもレベル低すぎ問題である。
「は~。こりゃダメじゃ。こんなポンコツ装備ではの……」
あれからしばらく店を見て回った感想をまとめ、この街の公園っぽい場所のベンチに腰掛け独り言をつぶやく。
いや別に、この世界基準でレベルが低いという意味ではないんだ。
どの店もそれなりに魔法使いのことを考えられて作られた、良品ではある。
ただそれを装備する予定の、マルクス・オーラという希代の大天才に全く相応しくないというだけの話。
え、落ちこぼれじゃなかったのかって?
いや、それも間違いではない。
常にエリート魔法使いを輩出してきた、このオーラ侯爵家にとって魔法がまともに発動できない者なんて、落ちこぼれ以外の何物でもないだろう。
そしてそれは、現時点においては俺にとっても同意見である。
だが少し待って欲しい。
そもそも魔法使いのエリート家系であり、大貴族。
そんな勉強する環境も、修行する環境も整っている状況で、なぜ魔法すらまともに使えない落ちこぼれが生まれるのか、そもそもそこから疑問に思わないだろうか。
魔法を発動するだけの魔力量が乏しく見込みが無いなら、そもそもマルクス少年が成長する前に公的に廃嫡し、オーラ侯爵家の跡継ぎとして認めなければいいだけなのだ。
だが現にかの少年は十四歳に至る現在まで当主から見捨てられず、魔法学院の入学というエリート家系にとっては標準的な試練に合格すれば跡継ぎとして認められる、破格の待遇を得ている。
その不思議な状況の鍵というのが、つまり俺がマルクス君のことを希代の大天才と評した所以でもあり、そこらへんの高級店で市販されている杖などでは、到底彼には相応しくないと判断した根拠でもあるのであった。
というわけで、もったいぶらずにそろそろ答えを言おう。
結論を言えば、マルクス君に宿る魔力量があまりにも大きすぎるのが原因だ。
それもちょっとやそっとの魔力ではなく、人間という枠組みを超えて膨大なのである。
一匹出現するだけで、小国くらいなら三日で落とせるとまで言われている古代竜。
最強の魔族たる魔王すらもその存在を軽視できないと言われる伝説の不死者、真祖のヴァンパイア。
そんなこの世界でもトップクラスにヤバいやつらと肩を並べるくらい、マルクス・オーラという大天才の魔力量は異次元の領域に突入していた。
しかもこれ、まだまだ成長途上なんだよ。
まさに天然モノのバケモノである。
まあ、それでもこの世界に魂を届けに来たぶっちぎりのチート美少女である、この俺には遠く及ばないけども。
とはいえ、それが人間には過ぎた代物であることに間違いはなく、その膨大な魔力エネルギーのせいで自分の魔力を掌握しきれず、魔法が発動できない結果に陥っているというわけなのであった。
つまり、扱うパワーがでかすぎてコントロールできないってことだね。
だから市販の杖くらいでは彼を補助するには力不足で、俺が自作して提供した方が安心できるなあという結論に至るわけであった。
それにマルクス君が今までしてきた壮絶な努力や、そこに込められた苦悩と想いを鑑みれば、どんな悩みも解決するゴールド・ノジャーとして名乗りをあげる以上、適当な仕事では終わらせられない。
幼き頃から侯爵家の期待を一身に背負いつつも結果が出せず、それでも腐らず諦めない彼にはちゃんと報われて欲しいのだ。
毎夜のようにこっそりと訓練し、魔法が発動しない時に有効な様々な方法を検証し、実践しているマルクス君はもしかしなくとも地頭がとても良い。
既に筆記だけなら魔法学院なんてすっとばして、現代の魔法学者にすら匹敵する知識量があるのもまた良い。
結局、最後には悔し涙を流すのだけど、それは努力の否定には繋がらないと俺は思っている。
もしこれで魔法が使えるようになった日には、一気にいままでの努力や経験が花開き、揺るがぬ実力として昇華されるはずだからだ。
もしかしたらゴールド・ノジャーの二番目の弟子として、武のレオン、魔のマルクス、なんて呼ばれる日がくるかもしれないね。
実際にそうなるかはしらんけど、そうなったら後方腕組み師匠ヅラを試してみる所存。
うむ、一度はやってみたいものだ。
というわけで、考えがまとまったところでようやく重い腰を上げ、ついにオーラ侯爵家の門をたたいてみることにした。
しかし、さすがに格式高い大貴族だけあって、切羽詰まっているといっても来るもの拒まずというのは無理がある。
こちらには侯爵に面会する伝手も人脈もないわけだからね。
故に、相応に熟達した魔法使いだぞという実力の証明として、魔法には一家言ある侯爵の度肝を魔法で抜いてやることにしたのであった。
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