じつは実話です。その10 築地本願寺の謎

入院中、高いビルの窓からよく下界を眺めていた。

窓からはレインボーブリッジや更地になった築地市場、築地場外、築地本願寺がよく見えた。


冬だったから、毎日天気だけは良くて、だけど窓を開けることもできず外に出る気力もない閉塞感のなか、ぼーっと下界を眺める日々。

なかなか進まない時間の中で、ふと視界に入る景色に違和感を感じた。

ぴったりと等間隔に立つ二人。歩く二人。

築地本願寺の境内を歩く人々がみんな二人連れに見えるのだ。

あまりにもことごとく二人連れなので、目を凝らしてよく見ると、二人と見えていた一人はどうやら影らしいということが分かった。

普通は地面に伸びて見えるはずの影が、何故か境内に入ったとたんに立ち上がり、その人の周りにピタリと並ぶ。そんな風に見える。

時間を変えて別の日にも眺めてみたが、やはり誰もが二人連れに見えた。

しかし、試しに写真や動画を撮影してみても、映像では影が立ち上がって二人に見えることはなかった。

私は目までやられてしまったのか・・。

いやしかし、あの広々とした白い境内に、影が立体に見えることの科学的な秘密がありそうな気がする。


後日、築地本願寺境内で、浄土真宗の宗祖である親鸞聖人像に会った。同行二人という言葉。ぴったり寄り添うあの影は親鸞聖人だったのかという思いが、一瞬よぎる。

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