第10話「モデル1-1 優しいお姉さんに手ほどきされそうになっているショタ②」
そうして、それから一時間と少し。
かなりのハイペースでおかわりを頼んでいた藤宮先輩の酒豪っぷりには凄く尊敬の目を向けていたのだが、さすがの酒豪もアルコールに勝ち切ることはできていなかった。
「うはぁぁ、おいしっひく。 ほりたくぅんもぉ、ひくっ。もっと自信持ってぇ~~私にくっついてきてもいいんだぞぉ? ひくっ」
しゃっくりなのかお酒を飲んだ人特有のそれが頬が真っ赤になった先輩の口から聞こえてきた。
ふわふわ、ぽわぽわ。
真っ赤な顔に、ずっと左右に揺れる体。
まるで夢でも見てるんじゃないかって程に酔っぱらった先輩が目の前からいつの間にか俺の隣の席に移動してきていて、べったりとくっつかれていた。
うぅ、エロい。
さすがお酒だ。百薬の長なんていうけど、きっとこれはあっち系な意味でのお酒の長なんじゃないかって今の俺は感じている。
いつも漫画やアニメを見て思っているが、実際の女性もやはりそうだった。なぜ、お酒を飲んだ女性はこんなにも色っぽいのだろうか。
止まらないしゃっくりに、呂律の回らない言葉、そしていつもは感じないお酒臭さが可愛いようで、それでいて奥底に眠るようなエロスを感じさせてくる。
無論、藤宮先輩も例外じゃなかった。
清楚な見た目にいかにもな綺麗で整った顔がお酒でぐちゃぐちゃになるのがどうしても萌える。これがギャップ萌えというやつなのだろうか。一度は変態と清楚の二面性でドキッとしてしまったが、まだまだ二面性は終わっていないらしい。
こうやって、清楚で可愛くて美しくて綺麗な美人先輩も酔っぱらうとふやけて可愛い――だなんて、もう言葉には出来ないけれど最高だった。
ただ、にしても……この絡みようはどう返せばいいか分からない。
「もぉ、何か言ったらぁ~~? 堀田君もぉ、こんな綺麗なお姉さんと一緒に遊びたいでしょぉ?」
この前までどっちかというとネット的な変態だったのに、今じゃちょっとした清楚系クラブにいるような痴女になっている。
ビフォーアフターもびっくりなほどの早変わりで俺の頭が追い付かない。
「あ、あの先輩……さすがにくっついちゃってるんで」
「えぇ? いいじゃん、くっつぅいてもぉ……っ?」
渾身の上目遣い。
右側から胸をなぞるように向けられた甘い視線にノックアウト寸前だった。
「い、いやっ……でもさすがにっ」
「えぇ~~この前助けてくれた時にも、ちゃっかり胸触っていたでしょぉ?」
「んな……っ!?」
な、なぜそんなことを‼‼
あれは、ちょっと魔が差しただけで転びそうになったとところキャッチしたら右手に胸があって……ほんの少しだけ触っただけだ。
誤解だ、あれは不可抗力! 俺は悪くない!
しかし、否定しようと必死になる俺には見向きもしないでただただくっついてこようとしてくる。
「っ——ほぅら」
そうして、藤宮先輩はあろうもことか、自分から俺の腕にくっつくふりをしつつ、あの大きな大きな豊満な胸を押し付けてきたのだ。
むにゅり、むにゅっ。
見ているだけで夢でも見ているかのような気分だった。
ただ、腕を優しく覆うその感触は夢でもなく、柔らかく温かいものだった。
人肌、それともぬくもり、はたまたすべてなのか。未知の感触が俺の神経を逆なでするように急激な刺激を与えてきて、ぷつんっと回線がショートした。
ぶぁああああと一気に顔が熱くなり、頭の上から機関車のような煙を吐いた。
やばいやばい、頭が回らない。
これはさすがにえぐいって~~!!
と、バクバクしている心臓に手を添えながら必死に悶えているとくっついていた藤宮先輩はクスクス笑いながら離れたのだ。
「えっ……あれ」
「へぇ。私が酔っ払ったら、堀田君はそんな感じになるんだね?」
「え、よったら、え?」
「私、まだまだ酔ってないよ? ふりして近づいたら漫画の参考にもなるかなと思ったんだけど、やっぱりピュアで可愛くてすっごく良いわね」
唐突な種明かしにボーっとしてしまう。
どうやら、俺はにひっと悪魔的な笑みを浮かべてくる先輩に騙されていたのだった。
そして、なんで俺がおねしょたプレイをしているのかというとその理由はこの後の本格的な会話からだった。
「それでね、まずはどうしたらいいかな?」
「……やっぱり、本当にやるんですか、今日?」
やる気満々で聞いてくる先輩に俺は少しだけビビっていた。
もちろん、怖いとか落ち着かないとか緊張するだとか、色々と手遅れな心配もあるがここにきてエッチな漫画のモデルをするということはつまりいろいろしてしまうかもしれない懸念があるのだ。
体をさっきみたいに密着させて、もしかしたら胸まで揉んでしまうのかもしれない。もちろん、俺としては好きな人の胸を揉めるならそれに越したことはないし、嬉しいに決まっているけど——はたしてこんな形でその夢を達成して良いのか、正直なところ悩んでいた。
しかし、怖がっていた俺をなだめるように優しい目つきで先輩はこう言った。
「あくまでも仕事っていうていだし、堀田くんはお手伝いさん。さっきは酔ったふりしてたけど、実際に酔ってもあそこまでするようなこともないし、あんまり過激なことも頼まないよ?」
「そ、それは建前って言うか……」
「建前だと思ってるの?」
ボソッと本音を呟くと先輩が突っかかってきた。
とても目は残念そうで、俺はハッとする。
「いや、別に! そういうわけじゃないんですけど……やっぱりいいのかなって思ってしまって」
「そ、そっかぁ。でも、過激なことは絶対にしないよ? してもほら、スカートの中からパンツ見せるとかそのくらいだし……」
「……そのくらいじゃないですよ、それ」
「えぇ、してくれないの?」
不意にみせる変態の片りんに触れて余計によく分からなくなる。
ただ、そこまで言ってふと思った。
先輩の若干残念そうな声に顔。
よくよく考えてみれば、この前了承したのはどっちだろうか。
実際、一緒に作りましょうと頼んだのは俺の方なのだ。
あとから色々と心配でいちゃもんを付けているのは紛れもなく俺だし、否定しようとしているのも俺。
なんだかそれが急に嫌になって、頭を振って言い直した。
「——な、なんでもやります」
「いいの?」
「大丈夫ですっ。やっぱりなんでもやるので、言ってください!」
勇気を振り絞る。
これで、きっと先輩の役に立てる。
そうだ。これからはそのためだけを考えて生きていけばいいんだ。俺はモデル。あくまでも先輩のエロ漫画のモデル。主人公でも、先輩の恋人でもない。変な考えは捨ててモデルになり切ればいいんだ。
こぶしを握り締めて、目の前の席に戻った藤宮先輩を見つめ直す。
すると、何か思いついたのか手に取ったスマホから一枚の画像を見せてきた。
「これ……今まで描いたことないし、こういう路線もしてみたいからやってもいいかな?」
「っ⁉」
そう、そこで見せられたのが”優しいお姉さんに手ほどきされそうになっているショタ”だったのである。
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