大学で一番かわいい先輩の裏の顔がR18漫画家だった件。〜ねぇ、私の漫画のモデルになってくれないかな?~
藍坂イツキ
プロローグ「大学一可愛い先輩の正体を知ってしまった日」
「なぁ、そんな感じなんだけどさ明日の合コンって直哉もくるか?」
また、合コンの話か……。
とある梅雨明けの日の午後。
学食で昼を済ませた俺と親友の匡生は次の講義の教室へ向かうため工学棟までの道のりを歩いていた。
「俺が行くと思ったのか?」
「ははっ……まぁ、直哉が来るわけないよな」
別に行きたいわけでもないため逆に訊き返すと、知ってましたと言わんばかりで匡生は「たはは」と頷いた。
大学に入学してそこまで経っていないがこれで合コンに誘われるのは四度目。
もちろん、俺はそのすべてを断っている。
どうやら、今回は今まで以上に可愛い女の子をたくさん誘えたようで、男も話し上手な奴らばっかりだから楽しいから来てみなよ——とのことらしい。
「なぁ、でもよ。なんでそんなに断るんだよ、合コン? 彼女欲しいんだろ? それなら作ればいいじゃん、これでさ」
「いや別に。俺は彼女が作りたいわけじゃないからな?」
「とか言ってさぁ~~」
とか言ってもと言われても――何も俺は事実を言っているまでだ。
確かに、高校時代はただただ彼女が欲しかった時期もあったのかもしれないが今は違う。
ただ一つ、明確に言える理由がある。
「俺にはな、決めている人がいるしな」
「……まさか、直哉お前っ⁉」
「あぁ、そのまさかだな。俺は藤宮先輩だけしか考えてない」
清々しいまでの言いっぷり。
そんな発言に隣を歩くあの陽キャ
しかし、俺の気持ちを誰も否定できるわけもない。
俺たちと同じ大学に通う一つ年上の大学二年生であり、この地域では知らない人がいないと言っても過言ではないほどのかなりの有名人だ。
俺が彼女の事を好きになり始めたきっかけにもなるが、昨年大学で開催されたミスコンで今まで三連勝を重ねていた現アイドルの先輩を打ち破り一年生にして異例の優勝を収めたほどの可愛さを持つ超絶美人だ。
おかげで地元の新聞やニュースでは「アイドルを超える女子大生!」なんて大見出しで宣伝されてしまったほど。
何度も言うが今や、この地域に藤宮姫子という名前を知らない人は一人もいないと言ってもいい。
腰辺りまで伸びる綺麗な白髪に、見つめられたら卒倒する自信しかない透き通ったスカイブルーの瞳。
スタイルもよく、もちろんのこと胸も大きい。
そんな――文字通り、アイドルやモデル顔負けなひときわ目立つ最強美人な先輩のことが、俺は好きなのだ。
超好き、最高に好き、愛してる。
うちから溢れ出る思いはそれだけじゃない。
「……そんな凄い人、よくもまぁ必死に追いかけていられるよなぁ」
自信気に言った俺に対して、匡生は若干食い気味に答える。
「追いかけるも何も、好きなんだから仕方ないだろ?」
「それ言われたら何も言えないって言うか……まぁなんか、一途なのが直哉らしいな」
再び事実を述べるも呆れたように笑ってくる匡生。
なんかムカついて俺は言い返す。
「なんだよそれ、バカにしてるのか?」
「いやいや、してないよ。ただ、らしいなと思ってな。ただまぁ、直哉もそんなに憧れの先輩にぞっこんなら多少はアクション起こさないと駄目だぜ?」
「……っ」
「これは図星だなぁ……っ」
急な正論に息がつまる。
そんなの俺が一番分かっている。
ただ、よく考えてみろ。
俺なんかそこら辺にいるモブ陰キャがあんな清楚可憐な最強美人の藤宮先輩に話しかけにいけるかどうか。
答えは否、無理に決まってる。
というか、近づくのもおこがましいくらいだ。
触れちゃったら何か大事なものを穢してしまうんじゃないのかと考えてしまうし、いっそこのまま遠くで見つめているだけのほうがいいまである。
しかし、隣にいる陽キャの腐れ縁は肩を叩いてきた。
「どうすんだ、誰かに取られちゃったらさ?」
「んぐっ……⁉」
「ほら、もしも超絶イケメンな男が話しかけに行ってたら、直哉はそこに乱入できるのか?」
「っ――⁉」
弱みを握られたスパイの尋問の様だった。
そんな正論言われたら俺はどうすることも出来なかった。
痛すぎる。痛いところを突かれて病院送りになっちゃうところだ。
そんなの乱入できるわけがない。
結婚式か何かで「ちょっと待った!」できる系の最高主人公系キャラじゃない俺がそんなことできるわけがない!
「ははっ。行動しないと意味ないんだぜ? しっかり言ってやるがこれは俺がお前のためを思って言ってやってるんだ」
「わ、分かってるよ。そんなのっ」
分かった風に言いやがって、この陽キャに俺の気持ちなど理解できるはずもない。
そんな風に心の中で開き直っていると、匡生が俺の肩に手を置いて指を刺した。
「なぁ、あそこ見て見ろよ」
「な、なんだよ――っあ、藤宮先輩」
噂をすればなんとやらというやつだ。
匡生が指さす先を見てみるとそこに居たのは、紛れもない超絶美人な藤宮姫子その人だった。
「たまげたなぁ……こう見ると、お前が好きなのも納得できちゃうのが凄い」
「当たり前だろ、俺の憧れの先輩だぞ。納得しない方が逆張りってもんだ」
距離にして数十メートルは離れていたが彼女の放つオーラは留まることを知らなかった。
俺と匡生は二人して彼女の凛とした立ち姿を見つめていた。
こう見ると、本当に美しい。
本当に、こう。立っているだけで絵になるって言うか。
もしも藤宮先輩が写真集なんか出しているものなら、日本中から買い占めて全部俺のものにしてやるくらいには綺麗だ。
とにかく綺麗。
綺麗で、可憐で、清楚で、苛烈で、純潔で、純情で……ってもう言葉には言い表せないけど、見た目に中身の優しさが出ている気がするって言うか。
お淑やかさもあるし、不意に見せる元気で明るそうな一面も見える。
そんな全てを併せ持つ彼女に刺激的で、そそられてしまう自分がいる。
というか、先輩にはいつの間にか虜になる魔法や魔力があるのだ。
つまり、何を言いたいかというと藤宮先輩には他の女性とは一線を画す何かがあるのだ。
例えるなら、漫画の実写版が原作には勝てないような――そんな感じだ。
「まぁでもよ、確かにあそこまで綺麗でオーラ放たれると近づきにくいよなぁ」
すると、流石の美しさにやられたのか匡生も唸る様に声を上げる。
そりゃそうだってもんだ。逆に先輩に声を掛けられる人がいるなら、それはもう結婚相手か何かって言われても不思議ではない。
皆が触れたくても触れられない、話しかけたくても話しかけれない。
そんな空気が彼女を取り巻いているのだから。
「ようやく気付いたのか?」
「いや、そういうわけでもないけど。直哉の気持ちが分からないわけではないってだけな。俺が好きだったならダメ元でもいくだろうしな」
簡単に言ってくれる匡生はどれだけ凄い人間なんだ。本当。
すると、数十メートル先にいる藤宮先輩は友達の女の子に手を振りながら笑みを浮かべていて、思わずボっと顔が熱くなった。
あの笑顔。
たまらない笑顔。
守ってあげたい笑顔。
身の丈に合わない恋をしている気分になるアイドルのそれと似たようなにおいを感じて嫌になるも、見つめないわけにはいかなかった。
キーンコーン、カーンコーン。
すると、次の講義の時間を知らせる予鈴がなった。
「うぉ、マジかこんな時間じゃん! 行くぞ、直哉!」
「ん、お、おぉっ――」
まだ見たかったな、あの笑顔。
そんなことを考えながら俺は走る匡生の背中を追いかけた。
♡♡♡
「んじゃ、俺はこの後バイトあるからまた明日な」
「あぁ、頑張ってな」
「おう、それは直哉もな」
講義が終わり、工学棟の裏口で匡生と別れて帰路に着いた。
「……はぁ」
不意に零れるため息。
理由は課題が絶望的な量出されてしまったからだ。
一つに付き、かかる時間は五時間くらい。それが三つも出されてしまったので単純計算で十五時間だ。どんなに集中してやっても十時間以上はかかるだろうし、明日までに終わるわけがない。
これはまた、寝るのは夜中三時とかになりそうだ。
「ねぇ、今日はみーちゃんの家にする?」
「う~~ん。私課題あるからそっちのほうがいいかな!」
「そかそか、じゃあ俺が疲れたら癒してあげるよ」
ふと、目の前を遮ったカップルがそんな話をしているのが耳に入ってきて、思わず殴ってしまいたくなった。
もしも藤宮先輩が彼女だったら、ボロボロになった俺を癒してくれるのだろうか。
『直哉君っ。ほら、膝枕してあげる~~』なんて。
ぐへへ、膝枕。最高だな。体力ゲージカンストしちゃうぜ。
——って、何やってるんだ俺は。
危ない危ない好きすぎて妄想の世界に逃げ込んでたぜ。
実際、匡生の言う通り。
話しかけに行けない俺にとって、彼女は高望みだ。
話しかけにすら行けてないんだから、ものにできるわけがないよな。
――なんて、悟っているときだった。
「ふぅ」
目の前。
工学棟の裏口の浅めの軽い階段を登ってきたのは彼女――藤宮先輩だった。
「っ」
思わず生唾を飲んでしまい、目が合った。
綺麗な瞳。
近くで観るとこうも違うのかと迫力にやられていると、藤宮先輩の身体が前後にフラっと揺れた。
「ひゃっ⁉」
目を合わせたことで段差に躓いてしまったのか、小さな悲鳴が漏れる。
しかし、俺は先輩のピンチを見て一切の迷いはなかった。
「危ないっ!」
ボフっ!
勝手に動いた俺の体は藤宮先輩の体をお姫様抱っこのように支えていた。
危うく地面にぶつかるところだったためなんとか間に合ってよかった――なんて考えていると腕の中に収まる憧れの先輩と再び目が合った。
「っあ……」
「っぅぁ……ん」
数秒間見つめたままで時間が止まり、ふと我に返る。
そう、収まっていたのは藤宮先輩。それが分かるとぶわっと冷や汗が溢れ出てくる。やばい。慌てて身体を起こして、ゆっくりと話して何もしてないよと後ろに腕を組んだ。
「あ、えと……すみません!! そのなんか危ないと思ったら勝手に身体触ってしまって……ご、ごめん、なさいっ!」
目の前の光景に理解が追いつかなくなり、頭が真っ白になっていつの間にか俺は頭を下げていた。
すると、目の前の先輩は俺の両肩に小さな手を置いて顔を覗かせた。
「ううん。私こそ、ごめんね? 大丈夫、重くなかった?」
「え、いや、そんなことまったくないです!! む、むしろ軽かったって言うかその、体重がないくらいに感じたって言うか……ていうか俺なんかが触って何やってんだろうって本当にすみません……っ」
——何言ってるんだ俺。
変に否定しまくってお世辞みたいになってるぞ。
しかし、そんなおかしな返しにも先輩は顔を左右に振った。
「全然、そんなことないよ。私こそ注意不足で……」
「いやいや、俺こそなんか目を合わせちゃいましたし」
「ううん。君は助けてくれたんだから」
「い、いえ……」
え、なんなんだこの状況?
俺、今、藤宮先輩と話してるんだけど、しゃべってるんだけど!!
優しい笑みを浮かべる先輩の姿は、それはそれはもう綺麗だった。
「ふふふっ」
そんな先輩に見とれているとクスリと笑いを溢した。
「あ、あの……」
「ねぇ君。なんか面白い人だね?」
「お、面白――俺がですか?」
「他に誰がいるの? それに、助けてくれたのに凄く低姿勢じゃない。てっきり、そのままキスされちゃうんじゃないかって思ったよ私」
「き、キス⁉ ままままま、まさかそんなことするわけ!! 藤宮先輩にそんな滅相もないことできませんよ!!」
「っふふふ。やっぱり、面白いんだね、君」
急なキス発言。
そんなこと言われたら勘違いしてしまいそうになるので思いっきり言い返すも先輩は先輩で笑っているだけだった。
なんで笑ってるんだよ、可愛すぎるからやめてくれよ!!
心臓の止まらないバクバクにやられていると。
——ひらり、ひらり。
一枚の髪が藤宮先輩の胸ポケットから落ちていく。
突如として舞吹いた小風に揺られて、ポケットから俺の足元へ。
「あっ」
拾って返さないと――そう思ってその紙を手に取った。
しかし、それと同時に。
目の前のお淑やかで美しい藤宮先輩が血相を変えて、飛び込んでくるのが見えた。
「そ、それはっ――!!」
そんなのが視界の端で見えて、でも俺はそのままの勢いで一枚の紙を拾って表を向ける。
そして、それが目に入った。
書いてあるのは――名刺のよう。
住所に個人情報、そして出版社の名前?
これ、有名な出版社じゃないか。
俺はよくアニメとかラノベ見るし、知ってるけど。
ていうか、このレーベルってR18系のやつじゃないか?
にしても、なんで出版社の名前が書いてるんだろうか?
そんな疑問も次の瞬間に打ち消された。
——ぼふっ!
飛び掛かってきた勢いであの大きな胸と共に藤宮先輩の身体が俺の上に乗っかった。
重くはない、というかいい匂いがする。
でも、そんなことは今の俺にとってはどうでもいいことだった。
だって、なぜなら、そこに描かれてあったのが――
——SNSで有名なあの人だったから。
——今話題のノリに乗っている一人の漫画家だったから。
——そう、その名前が超人気なエロ漫画家の”ドデカメロン”先生の名前だったから。
何かの間違いだと思って目をパチパチするも何も変わらない。
その名刺に書かれてあるのはペンネーム「ドデカメロン」。
そして、その名刺を胸ポケットにいれていたのは目の前にいる藤宮先輩。
それが意味することなんてもうアレしかない。
彼女の、誰もが憧れる超絶可愛い先輩の正体が――超有名エロ漫画家「ドデカメロン」であるということだった。
「だ、だめぇ……っ」
一足遅れた静止の声がようやく俺の耳に届く。
見つめる先にいるのは真っ赤な顔になった藤宮先輩。
今日、この日。
俺――
〈あとがき〉
2話以降は9時、12時、14時、19時に公開です!!
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