第5話からかわないでよ……

入学初日での事件があってから、その次の日のこと。


私は今、学院に登校していた。




その際、校舎の正面玄関前に人だかりが出来ていたのだった。


私は何事かとその人だかりの中に入っていった。




「あのご尊顔はユリウス王子では!」と、誰かが言ったのが聞こえた。




え、うそ!?


王子ですって!




どうやらこの騒ぎは、ユリウス王子を一目見ようとしている生徒たちが集まって出来たもののようね。




私も一目だけでもみたいわ!




人混みをかき分け、王子の顔を見にいく。


うう、人が多い。


私はやっとの思いで王子の顔を見れる位置に来ることが出来た。




そして王子を一目みた瞬間、「かっこいい」と思わず口に出してしまうほどのイケメン顔に見惚れる。




ゲームでみるよりもずっとかっこいいわ!


さすがは乙女ゲー世界の王子。


イケメン過ぎるにもほどがある。




どこからか「なんと立派なお方だ」とか、「ああ、なんてまぶしいお方でしょう」と聞こえてきた。




そんな声に応えるように王子は笑顔で手を振っていた。


なんてキラキラとした方なの!




見ているだけで頬がボワーと熱くなってくる。


お近づきになりたい……。




食い入るように王子を見つめている私に「やあ、ミシェルじゃないか!」と、例のチャラ男が声を掛けてきた。




「ああ、ヴェインじゃないですか。今あなたに構っている暇はないので、どこかにいってくれませんか? 正直邪魔です」




「今朝から冷たいなミシェルは。というか何してるんだミシェル?」




「みてわかりませんか。ユリウス王子のご尊顔を堪能しているのですよ。知っていますか?イケメンの殿方というのは目の保養に良いのですよ」




「なんだよそれ……。ていうか、自分で言うのもなんだけど、俺も中々のイケメンだと思うんだが?」




そう言いながらヴェインはサラサラの前髪をかきあげた。


さらに「はぁー……」と良い声を出し、カッコつけているかのようだった。




「……アウトオブ眼中ですわ」




と私が言った途端、ヴェインの顔が悲壮な表情に変わった。


まるでガーンという効果音が聞こえてくるかのように落ち込んでいた。


その場で項垂れたヴェイン。




でもすぐにスクッと立ち上がり「お、俺はミシェルを諦めないからな!」と発した。




立ち直りはやっ!




さすがはチャラ男。


こういうことにも慣れっこなのでしょう。


今みたいにふられることもたくさんあったのでしょうね。




「言っておきますが、私は王子にしか興味がないので。ごめんなさいねヴェイン」




悲しそう顔をしながらヴェインは「王子……か。諦めろよミシェル」




「なっ! 何ですって! 女子のみんなの憧れである王子を諦めろですって!? 嫌ですわ。確かに今の私には不釣り合いのお方なのは分かっていますが……。それでも、諦めろだなんて言わなくともー!」




と泣きそうになりながら、私はヴェインの肩をポカポカと叩いた。




グスンと涙目になりながら、私はヴェインに「あなたにそんなこと言われる筋合いはありませんわ」と言った。




「悪かったって。今のは俺の言い方が悪かった。でも王子はやめておけって」




更にヴェインは小声でこう続けた。




「あんな権力しかないだけの野郎なんかよりも、俺を選べよ」




そう言うとヴェインは、ぎゅっと私の手を掴み抱き寄せ「それが君のためだ」とボソッと耳元で優しく囁いた。




こんなたくさん人もいるところで急になにを……。




な、なんのよもう!


私のバカ。


こんなことにドキドキしてるなんて……。


本当にこの人はどういうつもりなのよ!


そうだ、きっと私のことをからかっているんだわ。




「分かりましたから! もう離れてくださいヴェイン」と、照れながらもそう言った。




「嫌だ。俺はずっと君とこうしていたい」




ヴェインの優し気な顔がすぐ目の前にある。


ふ、不覚にもキュンキュンしてしまう私……。






ずるいわ。


こんなことされたら私……。


……好きになっちゃう。




ダメよ。


私は王子と結ばれると決めたんだから。






――私はヴェインの手を解き、彼から逃げるようにしてその場から走り去ったのでした。

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