第67話 サンドワームの皮マント

(切った……のか!?)



攻撃は成功して手応えはあったが、リンはモウカを見ると違和感を抱く。確かにモウカに魔力剣を当てる事には成功したはずだが、何故か彼の身に着けているマントは切れていなかった。



「そ、そんな馬鹿な!?」

「ぐぅっ……このガキがっ!!」



リンの魔力剣は鋼鉄以上の強度を誇り、過去には石像を切り裂いた事もあった。しかし、モウカの身に着けているサンドワームの皮で作り上げられたマントは傷一つなく、それを見たハルカは思い出したようにリンに語る。



「ご、ごめんリン君……お父さんが言ってたんだけど、サンドワームの皮は衝撃にも強くて鉄製の剣で切り付けてもびくともしないって言ってたの忘れてた」

「そんな……」

「……こいつがなかったら今ので死んでいたかもな」



ハルカの言葉にリンは愕然とするが、モウカの方は冷や汗を流しながらも立ち上がる。先ほどの攻撃は完全に不意を突かれ、まさか背後から襲われるとは思いもしなかった。



「その狼は白狼種か……なるほど、道理で普通の狼よりも回復が早いわけだ」

「グルルルッ……!!」

「くそっ……」



戦闘の際中にリンはウルが意識を取り戻した事に気付き、さりげなく目配せを行ってモウカの隙を突こうとしていた。モウカはウルの存在に気付かず、絶好の攻撃の機会だったのだが、彼の身に着けているサンドワームのマントのせいで仕留めそこなう。


まさかサンドワームの皮で作られたマントが熱だけではなく、衝撃にも強い耐性をもっているとは思わず、リンの魔力剣の一撃さえも受け切った。もっとリンが魔力剣の強度と切れ味を向上させていればマントも切り裂いてモウカを倒せたかもしれないが、今の時点ではリンの力ではマントを破れない。



(同じ手は通用しない……それにバルルさんも危ない)



リンはバルルの方へ振り返り、今の所は彼女の仲間が介抱しているがこれ以上に放置すると危険な状態だった。リンはハルカに振り返り、彼女に治療を願う。



「ハルカ!!バルルさんを治してあげて!!」

「えっ!?で、でも……」

「俺の事は良いから早く!!」

「わ、分かった!!」



ハルカはリンの言葉に頷き、急いでバルルの元へ向かう。火傷を負った人間の場合は普通の怪我よりも回復魔法の効果は薄いが、今のハルカの回復魔法ならば時間は掛かるがバルルの治療もできるはずだった。



「お、おい嬢ちゃん!!こんな時に何だよ!?」

「私、治癒魔術師です!!だから怪我を治させてください!!」

「ほ、本当か!?」

「頼む、こいつを治してくれ!!」

「ごちゃごちゃとうるさい奴等だ!!全員、吹き飛ばしてやる!!」

「させるか!!」



治療を行おうとするハルカを見てモウカは苛立ち、再び地面に炎斧を繰り出そうとした。先ほどのように爆発を利用して土砂を吹き飛ばし、周囲に石礫を放とうとしたのだろうが、その前にリンはモウカの元へ向かう。


モウカが炎斧を振り下ろすためにリンは魔力剣の刀身を伸ばし、剣の刃ではなく槍のように変化させて突きを繰り出す。思いもよらぬ攻撃にモウカは慌てて攻撃を躱す。



「邪魔をするな、ガキがっ!!」

「うわっ!?」

「ウォンッ!?」



リンが繰り出した光槍をモウカは炎斧で弾き、小規模の爆発を起こしてリンの魔力剣を弾き飛ばす。唯一の武器を失ったリンは顔色を変え、そんな彼にモウカは迫る。



「死ねっ!!」

「くぅっ!?」

「ガアアッ!!」



炎斧がリンの頭部に迫った瞬間、ウルが横から駆けつけてリンの身体に体当たりする。そのお陰で突き飛ばされたリンは炎斧を回避し、ウルも体当たりの反動を利用して離れて攻撃を躱す。



「あうっ!?」

「ちぃっ……邪魔をするな、この魔物めっ!!」

「グルルルッ!!」



リンを仕留める好機を阻まれたモウカはウルに怒鳴りつけるが、ウルも牙を剥き出しにして睨みつける。リンは慌てて立ち上がり、弾き飛ばされた魔力剣を探す。



(ウルが危ない!!早く武器を取り戻さないと……何処だ!?)



魔力剣が何処に落ちたのかをリンは探すと、少し離れた場所に魔力剣が転がっていた。それを取りに行こうとしたが、その前に傍観していた巨人族の三人がバルルをハルカに任せてモウカへと向かう。



「あいつがバルルを怪我させたのか!!」

「このくそ人間がっ!!ぶっ殺してやる!!」

「こいつ賞金首らしいぞ、だったらてめえの首をもぎ取って警備兵にくれてやる!!」

「次から次へと……邪魔をするな!!」



バルルと同じく傭兵である巨人族の三人組はモウカが賞金首だと知っても恐れず、仲間を傷つけられた怒りを抱いて三人の元へ向かう。それを見たリンは彼等ならモウカが何とかできるのではないかと思ったが、すぐに同じ巨人族のバルルが吹き飛ばされた事を思い出す。


炎斧をモウカが全力で振り抜いた場合、馬車を粉々に吹き飛ばす程の威力を誇る。それに巻き込まれたバルルは全身に火傷を負って意識を失い、如何に巨人族だろうとモウカが所持する炎斧には敵わない。



(駄目だ!!このままだとあの三人もやられる!!早く魔力剣を取り戻さないと……!?)



魔力剣が落ちている場所にリンは向かおうとしたが、モウカは迫りくる巨人族達に対して今度は両手で炎斧を天高く持ち上げる。まるで獣の様な咆哮を放ちながら炎斧を振りかざす。



「貴様等全員、吹き飛ばしてやる!!」

「なっ!?」



モウカの気迫を感じ取ったリンは馬車を吹き飛ばした時のように、凄まじい爆発を引き起こして巨人族を仕留めようとしている事に気が付く。魔力剣を拾いに行く暇もなく、リンは反射的にモウカの元へ駆けつける。



「くそぉっ!!」

「なっ!?」

「ウォンッ!?」

「リン君!?駄目ぇっ!!」



攻撃を仕掛ける前にリンはモウカを止めるため、後ろから彼を羽交い絞めした。モウカはリンを引き剥がそうとするが、リンは身体強化を発動させてモウカを抑え込む。



「この野郎!!」

「ぐおっ!?」

「お、おい!?坊主何してるんだ!!」

「早く離れろ!!」

「死にたいのか!?」



リンの行動にモウカに近付こうとした巨人族の三人も慌てて離れる様に告げるが、モウカが攻撃をする前にリンは他の人間に早く逃げる様に促す。



「み、皆!!早く離れて!!じゃないと爆発に巻き込まれます!!」

「こ、このガキぃいいっ!!」

「ば、爆発!?まさかさっきの音は……」

「うわぁっ!?早く逃げろ!!」

「ひいいっ!?」



爆発という言葉に集まっていた人々は逃げ始め、どうにかリンはモウカを抑えつけて炎斧を使わせないようにする。モウカは必死にリンを引き剥がそうとするが、身体強化を発動したリンの方が力が強い。



「離れろ、このガキがっ!!死にたいのか!?」

「ぐぅっ……!?」



暴れまわるモウカをリンは必死で取り押さえるが、ここで彼は違和感を抱く。モウカはリンから逃れようともがくが、何故か手に持っている炎斧で攻撃を仕掛けない。この距離ならば炎斧を爆発させればリンも巻き込めるはずだが、何故か彼はそれをしない。



(そうか……やっぱり、そういう事か!!)



モウカが炎斧の能力を発揮しないのはリンの推察通り、衝撃を与えなければ炎斧は爆発を生み出す事はできない。仮に衝撃を与えなくても爆発できたとしても、今のモウカは扱えない。


攻撃の際にモウカは爆炎に飲み込まれないようにマントを全身で包む必要があるが、今のモウカはリンに羽交い絞めされて身動きもままならない。つまりは今の時点で爆発を引き起こせばモウカ自身の身も危うく、攻撃する事ができない。

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