第29話 魔獣の成長の法則

「こんな化物の頭を一撃で切り落とせるなんて……凄い武器だな」

「ウォンッ?」



リンは倒したボアの頭と胴体を確認し、改めて自分が手に入れた魔力剣の性能を思い知る。これほどの大物の魔獣を仕留めたのはリンも初めてだが、あまりにも呆気なく倒した事に自分でも信じられない。


もしも魔力剣無しにボアを倒す場合、リンは光剣を生成するためには時間を掛けなければならない。強力な光剣を作り出すためには魔力を練り上げなければならず、その間に敵に襲われる可能性も高い。



(魔力剣がなければあんなに早く対応できなかった……ドルトンさん、ありがとうございます)



魔力剣と反魔の盾を作ってくれたドルトンにリンは感謝するが、彼は倒れたボアを見て頭を悩ませた。



「仕方ない……少し早いけど、昼食にしようか」

「ウォンッ♪」



倒してしまった以上は素材を持ち帰らなければ勿体なく、その場でリンは解体を行って必要な素材の回収と、手に入れた肉の調理を行う――






――ボアの肉は普通の猪の肉よりも美味で栄養価も高く、肉を焼いて持ち歩いていた調味料を加えただけで美味しく調理ができた。リンとウルは骨付き肉に嚙り付き、食べれるだけ食べておく。



「この肉、凄く美味しいね」

「ガツガツ……ウォンッ♪」



ウルはボアの肉を気に入ったらしく、夢中に骨付き肉に嚙り付いていた。そんな彼を見てリンは笑みを浮かべ、肉を焼きながらこれからの事を考えた。



「街に辿り着いたらまずは回復薬とこの素材を買い取ってもらわないとな。でも、薬はともかく魔物の素材なんて何処で買い取ってくれるんだろう?」

「ウォンッ?」



回復薬の類は高級品として扱われているため、何処でも買い取ってくれると思うが問題なのは魔物の素材だった。魔物の素材を買い取ってくれる人間が何処にいるのかは分からず、とりあえずは街に辿り着いてから探すしかない。


ボアを解体して手に入れたのは肉だけではなく、槍のように研ぎ澄まされた牙を二つほど手に入れた。後は毛皮ぐらいだが、これらを売ればそれなりの金になると思われる。特に肉の方は美味しいので高く売れると思うのだが、先ほどからウルが夢中に食らいつく。



「ウォンッ!!」

「え!?またおかわり?そんなに食べたら売る物がなくなっちゃうよ……」

「クゥ〜ンッ(つぶらな瞳)」

「し、仕方ないな……少しは残しておくんだよ?」



リンは先ほどから肉を求めるウルに困り果て、今日の彼は森に居た頃よりも食事を求めてきた。お腹がそれほど減っていたのかと思ったが、リンは心なしかウルが森を出る前と比べて大きくなっているような気がした。



(そういえばウルは子供のはずなのにハクよりもかなり成長が早いな……どうしてだろう?)



ハクも普通の狼と比べて成長するのは早かったが、彼の子供であるウルはハクよりも成長が速い気がする。ウルの年齢の頃のハクは大して大きくなかったが、この調子で成長すればウルはハクに追いつくのも時間の問題だと思われた。



(どうしてウルだけこんなに成長が速いんだろう……待てよ、そういえばハクも急に大きくなった時期があったよな。確かあれは森の中に魔物が住み着くようになった時期だったはず)



ウルの父親であるハクも急成長した時期があった事を思い出し、リンの記憶が確かならばハクが成長したのは森の中に魔物が出没するようになった時期と被る。


先ほどからボアの肉を食べているウルが少しだけ大きくなったように見えたのは目の錯覚ではなく、実際に魔獣の肉を食べた事でウルが成長しているのではないかとリンは気付く。前に本で読んだ事はあるが、魔獣の中には他の魔物を喰らう事で著しく成長する種がいるという。もしかしたら白狼種もそれに該当する種かもしれない。



「ウル、まさかお前……いっぱい食べれば食べるほど大きくなるのか?」

「ウォンッ?」

「……もしそうだとしたら、馬を買う必要がなくなるかもね」



リンは自分の考えが当たっていた場合、街で馬を購入する必要はなくなるかもしれないと考えた。ウルが成長すれば父親のハクのようにリンを背中に乗せて移動できるため、馬など頼らずに旅をする事ができる。


だが、現時点ではウルはまだ子供の体格のため、リンを背中に乗せて走る事はできない。しかし、他の魔物を喰らう事でウルが成長するのであればリンにも考えがあった。



「よし、決めた。ここからゆっくり街を目指そう」

「ウォンッ?」

「別に急ぐ旅じゃないし、草原に現れる魔物を倒しながら先へ進もう」



ウルはリンの言葉に首を傾げるが、リンは自分の考えが正しいかどうかを確認するため、敢えて街へ向けての移動速度を落として進む事に決めた――






――その後、リンはウルと共にのんびりと歩きながら街へ向かう。無理に走ったりすれば体力を消費するため、無駄な体力を消耗しないようにゆっくりと歩く。


道中で何度か地図と方角を確認し、魔物が襲ってきた場合は逃げずに戦う。ちなみに草原に出没する魔物はボアだけではなく、ファングや一角兎といった森の中で遭遇した魔物も見かけられた。



「ガツガツッ!!」

「……そんなに食べて平気なの?」

「ウォンッ!!」



ウルは自分が倒した一角兎の肉に熱心に喰らいつき、今日だけでもかなりの魔物の肉を食べているはずだが、新しい獲物が現れる度に夢中に喰らう。どれだけ食べてもウルは満足せず、次の獲物を求める。



「スンスンッ……ウォンッ!!」

「ん?また新しい獲物を見つけたの?」



鼻を嗅いでウルは近くにいる獲物を見つけ、それをリンに報告する。リンはウルの指し示す方角を確認し、彼の好きなようにさせた。



「分かった。行ってみようか」

「ウォンッ!!」



リンはウルの後に続いて次の獲物が存在する場所に向かい、二人は丘を駆け上がる。そして丘の上から様子を伺うと、少し離れた場所にまた新しい魔物を発見した。



「あれは……」

「グルルルッ……!!」



丘の上から見えたのは全身が毛皮に覆われた二足歩行の魔物であり、肥え太った体型に顔面は猪その物だった。それを見たリンは一目で正体を見抜く。



「オークか……初めて見た」



ゴブリンと同様に人型の魔物だが、ゴブリンと違って知能はそれほど高くはなく、その反面に力は強くて狂暴性も高い生き物だとリンが前に読んだ事がある魔物図鑑に書かていた。


オークもゴブリンと同様に本来は草原に生息する魔物ではないはずだが、最近では魔物が世界中で数を増やしており、生息圏を伸ばしているらしく、オークもゴブリンと同様に草原にまで進出したらしい。



(オークとは戦った事はないけど、1体だけなら何とかなりそうだな)



草原にはオークが一体しか存在せず、他に仲間の姿は見えない。図鑑によればゴブリンと同様に群れで生活する事が多いと書いてあったが、今は一匹しかいないので狙うならば絶好の機会だった。



「よし、あいつを倒そう」

「ウォンッ」



ウルとリンはオークに見つからないようにこっそりと丘の上から降りると、オークの元に接近する。オークの方はリンとウルに気付いている様子はなく、一角兎らしき魔物の肉をほおばっていた。



「フゴッ、フゴッ……」



一角兎の額に生えている角の部分を握りしめながらオークは死骸に嚙り付き、最終的には角さえも口に放り込んで噛み砕く。一角兎の角は樹木を貫く程の硬さを誇るはずだが、オークの咬筋力は凄まじく、瞬く間に一角兎を喰らいつくす。



(……図鑑に書いてあった通り、食事中は本当に隙だらけだな)



オークは食事する間は警戒心が緩むと図鑑に書いてあったが、食事に夢中のオークはリンとウルに全く気が付いておらず、簡単に背後に回り込む事ができた。リンはオークに気付かれる前に仕留めるため、魔力剣に手を伸ばす。だが、彼が攻撃を仕掛ける前に後方から鳴き声が響く。

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