第24話 変幻自在
「うわっ!?」
「ウォンッ!?」
投げ飛ばされたゴブリンの死骸を咄嗟にリンとウルは左右に分かれて避けると、ホブゴブリンはその隙を逃さずにまずはウルの方へ向かう。
「グギィッ!!」
「ギャインッ!?」
「ウル!?」
ウルに目掛けてホブゴブリンは前蹴りを繰り出し、まともに受けたウルは吹き飛ぶ。それを見たリンは怒りを抱きながら身体強化を発動させ、ホブゴブリンに目掛けて殴りつけようとした。
「このっ!!」
「グギィッ!?」
自分に向かってきたリンに対してホブゴブリンは反射的に腕で振り払おうとしたが、それに対してリンは拳を振りかざす。攻撃の瞬間にリンは右腕に魔鎧を纏わせ、強烈な打撃を繰り出す。
「だああっ!!」
「グギャッ!?」
人間の少年が殴りつけたとは思えないほどの強烈な一撃にホブゴブリンは驚き、振り払おうとした腕は逆に弾かれてしまう。リンはホブゴブリンの懐に潜り込み、追撃の一撃を加えようとした。
しかし、彼が殴り掛かる寸前にホブゴブリンは後ろに跳んで攻撃を回避した。見た目に寄らず俊敏な動作でホブゴブリンは距離を取り、一方で攻撃を躱されたリンは驚く。
(あの距離で避けられた!?こいつ、前にあった奴より強い!!)
森で遭遇したホブゴブリンよりも今回のホブゴブリンは動きが早く、仲間の死骸を利用してリンとウルを分断させるという小細工を仕掛けてきた。前に出会ったホブゴブリンよりも厄介な存在だと認識したリンは油断せずに構えを取る。
(くそっ……身体強化を使ったのはまずかったかな)
リンの身体強化は魔力が続く限りは持続し、発動中の間は普段の何倍もの身体能力を発揮できる。しかし、魔力が切れれば効果が切れるだけではなく、反動としてリンは酷い筋肉痛に襲われて動かなくなってしまう。
身体強化の効果が切れる前にホブゴブリンを倒さなければならず、そのためにはリンは新しい戦法を試す事にした。彼はこれまで殴りつける際に腕手甲のような魔鎧を作り出して攻撃してきたが、今回は別の形へと変化させる。
「うおおおっ!!」
「グギィイッ!!」
正面から突っ込んできたリンに対してホブゴブリンは雄たけびを上げ、自らも拳を繰り出す。それに対してリンも同じように拳を繰り出すが、正面から挑めばリンに勝ち目はない。
いくら身体能力を魔力で強化しようと限界があり、純粋な腕力はリンはホブゴブリンには及ばないだろう。だが、彼は右手に一瞬だけ魔力を纏わせ、今回は腕手甲ではなく、
「光槍!!」
「グギャアアアッ!?」
ホブゴブリンは右手に槍を作り出したリンによって拳を貫かれ、村の中に悲鳴が響き渡る。全力で繰り出した拳に槍が突き刺されれば無事では済まず、右腕を負傷したホブゴブリンはたまらずに腕を引き抜く。
(今だっ!!)
右手に纏わせた魔力を解除すると、今度は反対の腕を振りかざしてリンはホブゴブリンに近付く。今度は避けられないように懐に飛び込み、隙だらけのホブゴブリンの腹部に貫手を放つ。
「くたばれっ!!」
「ガハァッ!?」
リンは左腕を剣に見立てて繰り出すと、腕全体に魔力が纏って「光剣」へと変化した。光剣は素手でも作り出す事ができるため、ホブゴブリンの腹を貫いた。
思いもよらぬ攻撃を受けた受けたホブゴブリンは血反吐を吐き散らし、それに対してリンは容赦せずに腕を引き抜く。腹部を貫かれたホブゴブリンは立っていられずに膝を着き、やがて前のめりに倒れ込む。
「グギィッ……!?」
「はあっ、はあっ……ど、どうだ」
勝利したのを確信するとリンはその場で片膝を着き、身体強化が切れて一気に負担が身体に襲い掛かった。まともに立っている事もできないが、子供の頃と比べれば筋力も体力も身に付いたので意識を失わずに済んだ。
(やっぱり身体強化はきついな……けど、勝ったんだ)
倒れたホブゴブリンを見下ろしてリンは安堵すると、先ほど殴り飛ばされたウルの事を思い出して彼が無事なのかを確かめる。
「ウル!!無事かっ!?」
「ウォンッ……」
リンが呼びかけるとウルはふらついた足取りで彼の元に近付き、怪我は負ったようだが命に別状はない様子だった。彼の姿を見てリンは疲れた身体を無理やりに動かしてウルの元へ向かう。
「大丈夫、これぐらいの怪我なんてすぐに治してあげるからな」
「ウォンッ」
怪我をした箇所にリンは掌を押し付けると、自分の魔力を流し込む。するとウルの怪我が徐々に治っていき、10秒も経過した頃には完全に傷跡は消えていた。
他者に魔力を送り込むと自然治癒力が強化され、特に魔獣のような生き物は動物よりも怪我の治りが早い。ホブゴブリンから受けた傷が完璧に治ると、ウルはお礼とばかりにリンの顔を舐める。
「ペロペロッ」
「うわっ、くすぐったいよ……ふうっ、それにしても大変な目に遭ったな」
森を出たばかりだというのにまさかホブゴブリンとゴブリンの群れに襲われる事になるとは思わず、疲れた表情でリンは身体を横にする。もうこのまま眠ってしまいたい気分だが、彼の傍に居たウルは何かに気付いたように鳴き声を上げる。
「ウォンッ!?」
「ウル?どうした?」
ウルの異変に気付いたリンは慌てて起き上がると、ウルが視線を向ける方向を見て驚く。何者かがこちらへ向けて歩いて来ており、それを見たリンは立ちあがろうとしたが、相手はリンとウルの姿を見ると声をかけてきた。
「お〜い!!そこにいるのは坊主か〜!?」
「えっ!?この声は……ドルトンおじさん!?」
「ウォンッ?」
聞えてきた声にリンは驚きの声を上げ、ウルは首を傾げた。二人の前に姿を現わしたのは身長が120センチほどの老人であり、彼の事はリンも良く知っていた――
――リンからドルトンと呼ばれた老人はドワーフであり、マリアとは古い仲だった。ドルトンは年に一度にマリアの元へ訪れ、彼女が所持している調合器具の点検を行い、壊れていたらすぐに修理してくれる腕の良い鍛冶師でもある。
ドルトンとはリンも子供の頃からの付き合いであり、彼には昔に色々な物を作って貰った。まだ幼かったリンのためにドルトンは玩具などを作ってくれ、彼が大きくなると玩具の代わりに模型などを作って見せてくれた。
彼は遠い街で暮らしているので年に一度しか会えなかったが、マリアが死んでからはずっと森には来なかった。だからリンは久々に再会したドルトンに驚いたが、ドルトンの方もリンの成長ぶりに驚く。
「随分と成長したな……見違えたぞ」
「いえ……ドルトンさんもお久しぶりです」
ドルトンとリンは焚火を挟んで向かい合い、ウルは見張り役として二人から少し離れた場所に立つ。彼はドルトンと会うのは初めてだが、リンと仲よさそうな彼を見て警戒はしていない。
「去年は来れなくて悪かったな。マリアの奴に頼まれた仕事を果たすためにどうしても行けなかったんだ」
「仕事?」
「ああ、あいつが死ぬ前に託された大事な仕事だ」
マリアは死ぬ前にドルトンに仕事を依頼していた事が明かされ、彼女の頼んだ仕事とはリンに関わる内容だった。
「あいつはお前が旅に出る事を予想して、俺にお前専用の武器を作ってくれと頼んできたんだ」
「師匠がそんな事を……全然知りませんでした」
「まあ、秘密にしておいたのはお前の驚く顔を見たかったんだろ。昔からあの婆さんはそういう所があるからな……」
ドルトンはマリアとは昔からの付き合いだが、彼によればドルトンが子供の頃からマリアは老婆だったという。ドワーフも人間と比べれば長寿だが、エルフは更に長寿のため、ドルトンが若い頃からマリアは見た目が変わっていないらしい。
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