第2話 魔法使いになる条件
――4年の月日が経過し、子供は10才の誕生日を迎えた。彼の名前は「リン」数年前に両親を失ったが、現在は森の奥に住む魔法使いの老婆と共に暮らしていた。
「師匠!!俺に魔法を教えてください!!」
「……だからその師匠というのは止めなと言ってるだろう」
「クゥ〜ンッ」
成長したリンは老婆の事を師匠と崇め、彼は魔法を教えて貰うために頭を下げる。老婆の名前は「マリア」であり、彼女は魔法使いだが現在は人里から離れて暮らしている。
「何度も言ってるだろ、あんたは魔法使いにはなれない。素質がないんだよ」
「でも、僕は師匠みたいな魔法使いになりたいんです!!」
「……魔法を覚えた所であんたの両親は生き返らないんだよ?」
「それは分かっています!!でも、僕は師匠のような魔法使いになりたいんです!!」
子供の頃に拾われてからリンはマリアの事を実の親のように慕い、彼女のような立派な魔法使いになる事に憧れていた。だが、マリアとしてはリンに魔法を教える事はできない事情があった。
「魔法使いになるためには生まれた時に特別な術式の紋様を身体に刻む必要があるんだ。成熟前の肉体に魔法陣を刻んで順応させないと、魔法は使えないんだよ」
「そんな……」
「こればかりはあたしでもどうしようもできないんだよ。どんなに修行を重ねた所であんたは魔法使いにはなれない」
「何とかならないんですか!?今から紋様を刻むとか……」
「馬鹿を言うんじゃないよ!!赤ん坊に紋様を刻むのは身体が完全に出来上がっていない状態だからこそできるんだよ!!もしも今のあんたの身体に魔法陣を刻めば身体機能に悪影響が出る可能性があるんだ!!」
魔法使いは生まれたばかりの赤ん坊に紋様を刻むのは理由があり、赤ん坊の状態ならば身体は未発達のため、紋様を刻む事で肉体に魔法を作り出す力を順応させる事ができる。
但し、既に発達した肉体に紋様を刻めば上手く順応できずに悪影響で身体の一部が感覚が失う可能性もある。最悪の場合は五感のいずれかを失う可能性もあり、だからこそマリアはリンが魔法使いになる事を反対した。
「何があろうとあたしはあんたを魔法使いにはさせない!!話はお終いだよ、さっさと寝な!!」
「でも師匠……」
「うるさい!!あんたはあたしの言う通りにすればいいんだ!!」
マリアに怒鳴られたリンは悲し気な表情を浮かべて自分の部屋へ戻り、そんな彼にマリアは少し言い過ぎたかと思ったが、こればかりはどうしようもできなかった。
(悪いね……あんたを育てると決めた時、あたしは誓ったんだ。死んだあんた両親のためにも立派に育てるとね)
自分に憧れて魔法使いになりたいというリンの気持ちは嬉しいが、マリアは育て親としてリンには幸福な人生を送ってもらいたいと思っていた。だから彼には魔法使いにさせるわけにはいかず、多少は厳しくても叱りつける必要があった。
しかし、マリアは知らなかった。リンが魔法使いに対する憧れは強く、彼はマリアに反対される程に魔法使いになりたい気持ちが強まる――
――その日の晩、マリアが寝静まった頃にリンはこっそりと家の中にある本棚の本を調べていた。傍にはハクの姿もあり、彼にも協力してもらう。
「ハク、ごめんね。手伝って貰って……」
「ウォンッ」
ハクはリンを背中に乗せ、彼の身長では届かない位置にある本棚の本を取る事に協力してくれる。ハクの協力もあってリンは本を机の上に置くと、魔法に関わる事が書かれている書物を探す。
「えっと……あった、これだ!!」
机の上に山積みした本の中から魔法という文字が記された書物だけを厳選し、遂にリンは魔法の使い方が記された本を見つけ出す。
マリアに気付かれる前に本を読み解く必要があり、彼はランタンで照らしながら本を読む。彼が読んだ本によればやはりマリアの言う通りに魔法使いは赤ん坊かあるいは幼少期の時に魔法を扱えるようになる紋様を刻まなければ魔法使いにはなれないと記されていた。
(師匠の言っていた事は本当だったんだ……なら僕は魔法使いになれないのか)
本に描かれている内容を見てマリアが事実を言っていた事を知り、リンはショックを受ける。心の何処かでマリアが嘘を吐いている事を祈っていたが、彼では魔法が使えない事が判明した。
「紋様を刻まない限り、魔法を使う事はできない……なら僕は魔法使いになれないのか」
「クゥ〜ンッ……」
「……ありがとう、慰めてくれてるんだね」
ハクはリンの悲し気な表情を見て何かを察したのか、身体を摺り寄せてくる。リンはハクの優しさに心が安らぎ、もう魔法使いになる事を諦めようとした時、一冊の本を目にした。
「あれ?何だろう、この本……魔力操作の基礎?」
魔力という文字が記された本を見てリンは不思議に思い、以前にマリアから教わった知識を思い出す。
「魔力は魔法を構成する力その物だって師匠は言っていたけど……」
本の内容が気になったリンは開いて確認すると、魔力に関する詳細な説明が記されていた。魔法を発現させるには体内に存在する魔力と呼ばれるエネルギーを利用し、魔力を変換させる事で魔法を生み出せると書かれていた。
魔力とは生物ならばどんな存在にも宿る力らしく、生命力といっても過言ではない。強大な生物ほど強い魔力を有しており、人間の中で魔力を魔法の力に変換させて生み出せる存在が魔法使いだという。
「へえ、魔法が使えない人でも魔力はあるのか……と言う事は僕の身体にも魔力あるのかな?」
魔法使い以外の人間には魔力など通っていないと思い込んでいたリンだったが、この本によれば魔力とは生物ならば誰しもが所有する力であり、魔法が使えないリンにも魔力が巡っている事が判明した。
「魔力を操作して魔法の力に変換できるようになれば魔法使いになれる、か……この本の通りに修行すればもしかしたら僕も……」
「クゥンッ?」
先ほど読んだ書物には紋様が刻まれなければ魔法使いにはなれないと書かれていたが、もう一つの本には魔法の力の根源となる魔力を操作する術が記されており、それを見たリンは決意する。
「よし、この本の書かれている通りに修行してみよう!!」
「ウォンッ!!」
魔力を操る術が記された本を手に入れたリンは、魔法使いでなくとも魔力を操る技術は身に付けられる事を知り、その日から魔力を操る修行を行う――
――それから数か月の間、リンは毎晩の如く本棚から魔力操作の術が記された本を確認し、自分の体内に巡る魔力を操作する修行を行う。本に書かれている通りに瞑想を行い、やがて彼は自分の魔力の流れを感じ取れるようになった。
(……これが魔力か)
目を閉じて座禅をした状態でリンは意識を集中させ、体内に流れる魔力の流れを感じ取る。魔力はまるで血管に流れる血液のように全身に浸透し、循環している事に気が付く。
最初の頃は魔力の流れを掴む事ができずに悪銭苦闘していたが、何か月も諦めずに本の書かれていた通りに瞑想を行い、集中力を高めていく。
(今なら分かる、自分の身体の魔力の流れが……)
ベッドの上で座禅を行いながらリンは自分の体内の魔力の流れを感じ取り、精神を研ぎ澄ませて魔力の流れを完璧に掴む。
(……よし、この状態のまま動いてみよう)
意識を集中した状態でリンは身体を起き上げ、目を閉じながらゆっくりと動く。最初は少しでも動いただけですぐに魔力の流れが感じ取れなくなったが、数か月の鍛錬のお陰で彼は動きながらでも身体に流れる魔力を感じ取れるようになっていた。
「よし、良い感じだ……」
「ウォンッ!!」
「うわっ!?」
一緒の部屋にいたハクが鳴き声を上げると、驚いたリンは集中力を乱されて魔力の流れが分からなくなってしまった。魔力を感じる事に集中し過ぎて周りの事が疎かになってしまい、どうやらハクの尻尾を踏んでしまったらしい。
「グルルルッ……」
「ああ、ごめんね!!尻尾を踏んで痛かったんだよね?次からは気をつけるから……」
「ウォンッ」
尻尾を踏まれた事に怒っていたハクだったが、リンが謝ると彼は床の上に寝そべる。何時の間にか外は暗くなっており、鍛錬に集中し過ぎて夜を迎えていた事に気が付く。
「うわ、もうこんな時間か……でも、コツを掴めたような気がする。この調子でいけば動きながらでも魔力の流れを感じれるようになる」
ハクの身体を撫でながらリンは横にならないでも体内の魔力を感じ取り、このまま修行を続ければ行動しながら魔力を操作できる日が来ると確信した。
今は魔力の流れを感じ取る事が精いっぱいだが、このまま練習を続ければ常に動きながらでも魔力の感覚を掴み、次の段階に進む事ができる。決して焦らず、毎日練習を繰り返す事でリンは魔力を操る基礎を身に付けていく――
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